道理恋慕

華子

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抵抗と棄却

抵抗と棄却8

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 心拍の刺激で腹まで痛くならないうちにと、俺は意を決して父親の目の前へ腰を掛けた。すうっと吸う息、言葉と一緒に吐き出す。

「父さん。俺、もう父さんの頼み事聞けないんだ。行きたい高校が見つかったから受験に専念したい。ごめんね」

 そう言うと、彼の視線がおもむろに、俺を捉えた。

「高校?」
「うん。笹北高校ってとこなんだけど、父さん知ってる?隣の駅にあるんだよ」
「知らないなあ」
「今度一緒に見学行く?俺もまだ見に行ってないから、1度行きたいと思ってて」

 普通に、世間一般的な父子のように、進学について話が出来ているように思えた俺の緊張は多少解れた。

 母さんは、父さんの気持ちを変に汲みすぎたんだ。父さんは俺の志望している未来を踏みにじってまでを通さない。そこまで頑固じゃないんだから。

 この調子で、芽衣という彼女がいる事も伝えようかなと、俺はふと考えた。
「恋人がいるから受験を頑張りたいんだ」と、
「絶対合格したいんだ」と。
 そうすれば、背中を押してくれると思ったから。

「ついでに言うとね、俺実は──」

 けれど父親は、俺にその先を喋らせてはくれなかった。

「大和は、父さんの仕事がなにか知っているだろう?」

 本をパタンと閉じた父親は、腕を組む。

「う、うん。なんとなく見当はついてるけど」
「言ってみろ」
「え?」
「父さんの仕事はなにか言ってみろ」

 鋭い眼光に、再度高まっていく緊張感。

「ヤクザ、だと思ってるけど……」

 暴力団という言い方よりはマシかなと思い、俺は断言を控えたかたちで答えた。
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