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空虚と妖雲
空虚と妖雲7
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芽衣の匂いに包まれた部屋で、唇は1度だけ重なった。心配性な君が母親の帰宅に意識を傾けながらのキスだったから、2度目はやめておいた。
「じゃあまた明日、新学期に。うっちゃん遅刻しないでよ」
マンション1階のエントランスで、俺は芽衣の手を離す。離したくないけれど、そっと離す。
「うん。またね、芽衣」
君の温もりから無機質なポケットの中へと移されたその手は、なんだか可哀想に思えた。
「じゃ」
そう言って、君に背を向け歩み始めると、まだ星ひとつとしてない鈍色の空が視界に入る。
寂しい、満たされない、空っぽだ。
愛する人と、時間という巻き戻しのきかない貴重なものを共有できた俺が、こんな風に思うのは珍しい。
俺は一体、どうしてしまったのだろう。
空虚の心に風が吹く。空虚の心に雲がかかる。いつだって俺の心の中は、芽衣でいっぱいだったはずなのに。
翌日も、君との待ち合わせ場所はいつもの信号機。時間通りにやってきた君は、昨晩見上げた空と同じ顔色で告げてきた。
「琴ちゃん、勇吾にフラれちゃったんだって。勇吾には他に好きな人がいるみたい」
妖雲は、空虚の縁からやって来る。
「じゃあまた明日、新学期に。うっちゃん遅刻しないでよ」
マンション1階のエントランスで、俺は芽衣の手を離す。離したくないけれど、そっと離す。
「うん。またね、芽衣」
君の温もりから無機質なポケットの中へと移されたその手は、なんだか可哀想に思えた。
「じゃ」
そう言って、君に背を向け歩み始めると、まだ星ひとつとしてない鈍色の空が視界に入る。
寂しい、満たされない、空っぽだ。
愛する人と、時間という巻き戻しのきかない貴重なものを共有できた俺が、こんな風に思うのは珍しい。
俺は一体、どうしてしまったのだろう。
空虚の心に風が吹く。空虚の心に雲がかかる。いつだって俺の心の中は、芽衣でいっぱいだったはずなのに。
翌日も、君との待ち合わせ場所はいつもの信号機。時間通りにやってきた君は、昨晩見上げた空と同じ顔色で告げてきた。
「琴ちゃん、勇吾にフラれちゃったんだって。勇吾には他に好きな人がいるみたい」
妖雲は、空虚の縁からやって来る。
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