道理恋慕

華子

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日常と異常

日常と異常2

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「はぁ!?ケツを割られただとぉ!?」

 とある日。指定通り渡した薬と引き換えに金を受け取れなかった俺へ、父親は拳を放ってきた。

「あなた!やめてちょうだい!大和はまだ中学生なのよ!」

 ドサッと尻もちをついた俺の元へ、駆け寄り庇ってくれたのは母親。だがしかし、父親の怒りは収まらない。

「うるせえどけ!たったこれだけのことが出来なくてどうする!」
「あなたが無理矢理やらせてるんでしょ!」
「そんなん知ったことか!こんなんじゃ受け子も出し子も、かけ子すら任せらんねえじゃねえか!」
「そんなことまで大和にやらせようとしてるの!?」

 意味の分からない単語が行き交う中、俺は口元についた血を拭う。くれないに染まる指の腹。何故殴られたのだろうと、刹那思う。

「大和には大和の道があるの!あなたの後を継がせるなんておかしいわ!」
「俺の子は俺の子でしかない!大和の未来は俺が決める!」

 俺の未来は俺が決めるよ。

 そう口を挟もうと父親を見上げるが、彼の高圧さにたじろいだ。目に入れたくもない刺青が、俺に黙れと言ってくる。
 母親の肩へ、手を乗せた。

「いいよ母さん、俺が悪かったんだ。ちゃんと金を貰えなかったから」

 母さんだって黙認していたくせに。

 心の片隅で思ったのはそんな事。でもそれは、大きな憤りには繋がらなかった。

「でも、大和……」
「もういいって」

 こんな悲惨な現場での唯一の救いは、桜子が不在だった事。友達の家に泊まるのだと、確か彼女は言っていた。

 長くて鋭利な溜め息を吐いた父親は、スマートフォンで誰かを呼び出すと、機械のように指令を出す。

「バックレた奴がいる、ヤキを入れろ。顔は息子が知っている」

 20分も経たぬうちに、俺は車へ乗せられた。
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