道理恋慕

華子

文字の大きさ
上 下
41 / 196
嫉妬と接近

嫉妬と接近5

しおりを挟む
「あれ、芽衣と勇吾は?」

 トイレから戻って来ると、展示室付近のベンチに座っていたはずのふたりの姿がなかった。ひとりきりの琴音に聞く。

「アイツ等どこ行ったん」

 彼女はスマートフォンから俺へ視線を移した。

「なんかふたりして、スマホ失くしたらしいよー。ほら、さっき3階のモーターコーナーでバイクに跨った時に、芽衣と勇吾のスマホで動画撮ったじゃん。あの時わきのボックスの上に置きっぱなしにしたんじゃないかって」
「あー、そう」
「そろそろ戻ってくるんじゃないかな」
「じゃあここで待つか」

 俺は琴音の隣に、人ひとり分ほどのスペースを空けて座る。

「大和、今日はありがとうね」

 スマートフォンでもいじるかと、ポケットに手を突っ込むと、彼女が礼を告げてきた。

「ん?なにが」
「協力してくれて」
「べつに、なんもしてねえけど」
「楽しすぎて、あっという間に夕方になっちゃったよ」
「それはよかった」

 俺は芽衣とふたりきりになるという使命を全うできずに、肩を落とす。
 取り出したスマートフォンの液晶には、『今から戻る』も『もう少しかかる』も、何の知らせもなし。俺は座面にそれを放った。

「琴音って、勇吾のどこが好きなん」
「え、どこ?」

「なんでそんなこと教えなきゃいけないの」と顔を顰めた琴音に「じゃあいいや」と言うと、彼女は「そうだなあ」と斜め上を見て呟く。

「優しいとこ、かな」
「ふうん」
「あと頭いいし」
「ふうん」
「顔もタイプ」
「じゃんじゃん出てくるな……」

 俺の背中をバチンと叩いた琴音は、「恥ずかしいなあっ」と言いながらもどこか嬉しそう。

「大和は?」
「え?」
「大和は芽衣のどこが好きなの?」
「全部」
「うわ。即答っ」

 芽衣と親交がある琴音には正直なところ、聞きたい事が無数にある。
 俺と付き合った当初、嫌がってたかなとか。俺の事を好きって、琴音には言ってるのとか。あとはそう、芽衣の喜ぶ事ってなんだろうとか。

 でもそんな質問は全部、顔から火が出るほど情けなくて女々しいし、とてもじゃないけれど言の葉には乗せられない。

「戻ってこないねー、芽衣達」

 だから俺はただ全霊をかけて芽衣を愛し、彼女の「好き」を待つ忠犬になるしかないんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

処理中です...