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嫉妬と接近
嫉妬と接近5
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「あれ、芽衣と勇吾は?」
トイレから戻って来ると、展示室付近のベンチに座っていたはずのふたりの姿がなかった。ひとりきりの琴音に聞く。
「アイツ等どこ行ったん」
彼女はスマートフォンから俺へ視線を移した。
「なんかふたりして、スマホ失くしたらしいよー。ほら、さっき3階のモーターコーナーでバイクに跨った時に、芽衣と勇吾のスマホで動画撮ったじゃん。あの時傍のボックスの上に置きっぱなしにしたんじゃないかって」
「あー、そう」
「そろそろ戻ってくるんじゃないかな」
「じゃあここで待つか」
俺は琴音の隣に、人ひとり分ほどのスペースを空けて座る。
「大和、今日はありがとうね」
スマートフォンでもいじるかと、ポケットに手を突っ込むと、彼女が礼を告げてきた。
「ん?なにが」
「協力してくれて」
「べつに、なんもしてねえけど」
「楽しすぎて、あっという間に夕方になっちゃったよ」
「それはよかった」
俺は芽衣とふたりきりになるという使命を全うできずに、肩を落とす。
取り出したスマートフォンの液晶には、『今から戻る』も『もう少しかかる』も、何の知らせもなし。俺は座面にそれを放った。
「琴音って、勇吾のどこが好きなん」
「え、どこ?」
「なんでそんなこと教えなきゃいけないの」と顔を顰めた琴音に「じゃあいいや」と言うと、彼女は「そうだなあ」と斜め上を見て呟く。
「優しいとこ、かな」
「ふうん」
「あと頭いいし」
「ふうん」
「顔もタイプ」
「じゃんじゃん出てくるな……」
俺の背中をバチンと叩いた琴音は、「恥ずかしいなあっ」と言いながらもどこか嬉しそう。
「大和は?」
「え?」
「大和は芽衣のどこが好きなの?」
「全部」
「うわ。即答っ」
芽衣と親交がある琴音には正直なところ、聞きたい事が無数にある。
俺と付き合った当初、嫌がってたかなとか。俺の事を好きって、琴音には言ってるのとか。あとはそう、芽衣の喜ぶ事ってなんだろうとか。
でもそんな質問は全部、顔から火が出るほど情けなくて女々しいし、とてもじゃないけれど言の葉には乗せられない。
「戻ってこないねー、芽衣達」
だから俺はただ全霊をかけて芽衣を愛し、彼女の「好き」を待つ忠犬になるしかないんだ。
トイレから戻って来ると、展示室付近のベンチに座っていたはずのふたりの姿がなかった。ひとりきりの琴音に聞く。
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「あー、そう」
「そろそろ戻ってくるんじゃないかな」
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取り出したスマートフォンの液晶には、『今から戻る』も『もう少しかかる』も、何の知らせもなし。俺は座面にそれを放った。
「琴音って、勇吾のどこが好きなん」
「え、どこ?」
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「ふうん」
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「じゃんじゃん出てくるな……」
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「大和は?」
「え?」
「大和は芽衣のどこが好きなの?」
「全部」
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でもそんな質問は全部、顔から火が出るほど情けなくて女々しいし、とてもじゃないけれど言の葉には乗せられない。
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だから俺はただ全霊をかけて芽衣を愛し、彼女の「好き」を待つ忠犬になるしかないんだ。
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