道理恋慕

華子

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初犯と狼狽

初犯と狼狽13

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 会ってほしい人?何処で。誰と。俺、もうパジャマなんですけど。

「ふぅん。その人もう来てんの?」

 俺はここで会う前提で問いかけた。

「いいや。千円やるから2駅先まで行ってくれないか」

 けれど彼は、ばっさり斬った。
 気怠い表情を見せる俺。

「えー……」

 怪奇番組の陰鬱いんうつな曲が、内田家までをも飲み込んでいく。

「今から、かあ……」

 俺がはっきりと「嫌だ、行きたくない」と断言できずにいるのは、至極当然、父親が恐いから。
 べつに嫌いというわけではないし、寧ろ好きな方だけれど、白髪の混ざった坊主頭に貫禄ある髭、更には小さい頃ずっと長袖の服だと思い込んでいた手首まで続く豪快な龍の刺青いれずみが、怯ませる。俺より何倍も図体は大きいし、指輪もいかついし、甘えられるタイプでは決してない。

「うーん」と行きたくない素振りをする事で精一杯な俺の前、容赦なく放られるのは千円札。彼は概要を話し出す。

「改札を出たら2番出口に行け。ファミリーレストラン裏の駐車場に袋を持った男がいる。そいつからそれを受け取ったら、今度は7番出口の方に行くんだ。駅は通るなよ、外から回れ。1階がマッサージ屋のビルがあるから、その傍の路地に入ってまた別の男に会え。そいつにその袋を渡すんだ」

 うんともすんとも言わない俺に対し、「外は冷えてきたから湯冷めするなよ」とブルゾンまで放ってくる始末。

 決定、確定。拒否する術はない。俺は下唇を噛んだ。

 なあ父さん。俺もうさ、自分の干支を2回も経験した13歳なんだよ。何で親が行かないのか、何で俺を使うのか、何の受け渡しなのか、嫌でも想像ついてしまうよ。

「……分かった」

 千円札をスウェットのパンツにねじ込んで、俺はブルゾンを羽織り立ち上がる。

「お兄ちゃん、行くの!?」

 そんな俺の腕を掴む桜子の顔には、「行かないで」と、そう書いてある。

「すぐ帰ってくるから。テレビは母さんと観てろ」
「でもっ!」
「大丈夫。ただのおつかいだよ」

 俺は不安気な桜子の頭を軽く撫でると、玄関へ向かった。
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