道理恋慕

華子

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恋慕と成就

恋慕と成就14

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「おはよう、芽衣」
「おはよう……」

 翌朝の芽衣は暗かった。おそらく昨日の俺に対しての怒りが、尾を引いている。

 教室後方のロッカーにランドセルをしまい席に着くと、君は勇吾を見た。勇吾は君の斜め前。注がれる視線には気が付かない。

 俺は登校して朝1番に、君へ手紙を渡したかった。けれど君の周りには琴音や他の友達がいたし、俺も昨晩手紙に夢中で宿題の事なんか忘れてしまっていたから、宿題そいつを片付けるのに必死で無理だった。だから1時間目、日直の号令が終わってすぐに、君の机へ静かに置いた。

「なに、これ」

 握りしめすぎたせいで沢山の皺がつき、端も綺麗に揃えらずに畳まれているその手紙の見た目は、ただの紙切れだ。君はまるで、ゴミでもつまむようにそれを少しだけ浮かせていた。

「て、手紙」
「え、手紙?これが?」

 俺はしゅんと肩を落とす。

「そう、それ手紙」
「誰に?」
「芽衣に」
「え、私?」

 君の机に置いているんだからそりゃそうでしょうよと言いかけたが、「読んで」と優しく言う方を選んだ。
 芽衣は担任の先生の目が、俺等から1番遠い渡辺わたなべにある事を確認すると、そおっと手紙を開いてくれた。

 ドキドキと、高鳴る胸。
 しかし3秒もあれば読み終わるその文章を、倍以上眺めている君に、途端に募る不安。

「あれ、もしかして読めない?俺、字汚いから……」

 そう問うが、君は無反応。未だに手紙を見つめている。

 あれ。なに。なんでなんで。やっぱいらなかったのかな、俺からの手紙なんて。好きじゃない奴からの手紙なんて。

 間もなく耳に入るであろう「いらない」の4文字に絶望視した俺は、まだ小学3年生の妹なんかにアドバイスを求めた己を悔いた。

「ふふっ」

 けれどそんな気持ちを砕いてくれたのは、夢にまでみた芽衣の笑顔。

「え、おかしい?」

 君の横顔を覗く。

「うん、うっちゃんったらおかしいよ」
「なんで?」
「だってこんなに私うっちゃんに冷たいのに、まだ好きって言ってくれるんだもん」
「だって好きなんだもん」
「あははっ。おっかしーのっ」

 彼女は目頭に人差し指をあてて笑い続けた。教室には、俺にしか見えない花が咲く。

「ありがとう、うっちゃん」

 そして君まで、花になった。

『めいへ。大好きだよ。おれのかのじょになってくれてありがとう。ずっと大好きだから、どうかおれのことも好きになってください』
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