6 / 196
恋慕と成就
恋慕と成就2
しおりを挟む
芽衣の人違いから始まった出逢いだから、彼女の第1印象は変な子、不思議な子。それでも半月ほど彼女のお隣さんをやっていれば、そのキャラクターが掴めてくる。
「なあ、めい。けしゴムわすれちゃったんだけどかしてくれない?」
「けしゴム?きのうはアカアオえんぴつだったよね」
「うん」
「うっちゃんはいっつもなにかわすれるなぁ」
俺の家庭はどちらかと言えば放任主義で、宿題のチェックは勿論の事、翌日の持ち物に目も通されない。毎日行わなければならない連絡帳のサインも、入学初日から「自分でやって」と判子を渡される。
これだけを話せば、育児放棄だと捉える人も少なからずいるだろう。でも俺は違うと思っている。父親にも母親にも愛はある。それだけは言える。
彼等からの愛を感じる瞬間など無数にあって、誕生日には必ずケーキでお祝いをしてくれるし、欲しいと強請ったものを断られた経験もない。卒園式の時なんて、夫婦揃って泣いていた。
ただ、詳しい事は分からないが、両親共に少し特殊な仕事をしているらしくて、平日に家族以外の人間が家に来る事も暫しあるから、そういう時は、俺とふたつ歳下の妹はあまり居間で過ごさないように努めている。仕事仲間だという強面な大人達に緊張してしまうから、というのも理由のひとつだが。
普段の父親は俺よりも起床が遅い。母親もトースターに食パンをかけると、煙草を吹かしながら眠たい目を擦っている。それくらい、毎日忙しい仕事なのかもしれない。
妹の牛乳を入れてあげるのは俺の役目。「パンもおれがやくから、まだねてていいよ」と、そろそろ言ってあげないとな、なんて思っている近頃だ。
ゴソゴソとピンクの筆箱を漁った芽衣は、その中からフルーツの形をした消しゴムを取り出した。
「これ、うっちゃんにあげるよ」
「なにこれ。みかん?」
「オーレーンージー」
君はぷうっと頬を膨らませた後に、油性ペンで消しゴムに文字を入れた。
「はいっ。これでうっちゃんのものだから。なくさないでね!」
そう言って手渡してくれたのは、『うっちゃん』と書かれたオレンジの消しゴム。
「うっちゃん……」
「あはは。『やまと』ってかかないとへんだったかなあ」
「どっちでもいいけど……」
「あははは」
全身はまた、爪先まで痒くなる。
「サンキュ」
「なあ、めい。けしゴムわすれちゃったんだけどかしてくれない?」
「けしゴム?きのうはアカアオえんぴつだったよね」
「うん」
「うっちゃんはいっつもなにかわすれるなぁ」
俺の家庭はどちらかと言えば放任主義で、宿題のチェックは勿論の事、翌日の持ち物に目も通されない。毎日行わなければならない連絡帳のサインも、入学初日から「自分でやって」と判子を渡される。
これだけを話せば、育児放棄だと捉える人も少なからずいるだろう。でも俺は違うと思っている。父親にも母親にも愛はある。それだけは言える。
彼等からの愛を感じる瞬間など無数にあって、誕生日には必ずケーキでお祝いをしてくれるし、欲しいと強請ったものを断られた経験もない。卒園式の時なんて、夫婦揃って泣いていた。
ただ、詳しい事は分からないが、両親共に少し特殊な仕事をしているらしくて、平日に家族以外の人間が家に来る事も暫しあるから、そういう時は、俺とふたつ歳下の妹はあまり居間で過ごさないように努めている。仕事仲間だという強面な大人達に緊張してしまうから、というのも理由のひとつだが。
普段の父親は俺よりも起床が遅い。母親もトースターに食パンをかけると、煙草を吹かしながら眠たい目を擦っている。それくらい、毎日忙しい仕事なのかもしれない。
妹の牛乳を入れてあげるのは俺の役目。「パンもおれがやくから、まだねてていいよ」と、そろそろ言ってあげないとな、なんて思っている近頃だ。
ゴソゴソとピンクの筆箱を漁った芽衣は、その中からフルーツの形をした消しゴムを取り出した。
「これ、うっちゃんにあげるよ」
「なにこれ。みかん?」
「オーレーンージー」
君はぷうっと頬を膨らませた後に、油性ペンで消しゴムに文字を入れた。
「はいっ。これでうっちゃんのものだから。なくさないでね!」
そう言って手渡してくれたのは、『うっちゃん』と書かれたオレンジの消しゴム。
「うっちゃん……」
「あはは。『やまと』ってかかないとへんだったかなあ」
「どっちでもいいけど……」
「あははは」
全身はまた、爪先まで痒くなる。
「サンキュ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました
海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・?
何故、私を愛するふりをするのですか?
[登場人物]
セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。
×
ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。
リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。
アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。
紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。
学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ?
婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。
邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。
新しい婚約者は私にとって理想の相手。
私の邪魔をしないという点が素晴らしい。
でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。
都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。
◆本編 5話
◆番外編 2話
番外編1話はちょっと暗めのお話です。
入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。
もったいないのでこちらも投稿してしまいます。
また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。
忘れられた妻
毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。
セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。
「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。
そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。
三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる