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あり得ない今と、あり得ない未来と
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これでは話題を変えた意味がないと、わたしは辟易した。かと思えば。
「最後まで、ちーちゃんは笑顔で治療を頑張ってたよな」
突然口を開いたユーイチが、すくっと立ち上がって言う。
「最後の最後まで、ちーちゃんは将来への不安ひとつこぼさずに、絶対に病気を治してやるんだって、その気持ちを絶やさなかった」
おもむろに歩を進めたユーイチは、網戸にしてあった窓をガラリと開けて、白い朝陽に目を細める。
窓枠に両腕を預けながら、空の遠くを見つめるユーイチの横顔が、わたしの目には奇妙に映った。
最後の最後まで。
だって彼のその言い方はまるで、ちーちゃんがもうこの世にはいないような言い方だったから。
「最後の最後までってなにそれっ。なんかその言い方、変っ」
瞬間的に、ドクドクと鼓動が速まったわたしだけれど、それはビターに笑って無理やり抑えた。
「ああ、でもちーちゃんがすでに心臓の治療を終えてたら、べつにその言い方も変じゃないか」
手のひらにぽんっと乗せた拳と共に、わたしはそう自分へ言い聞かせた。
そうだ、そうだよ。心臓を治したちーちゃんが、とっくに健康体になっている可能性だってじゅうぶんあり得る。
わたしと同じ難病を患う彼女だから、その可能性は低いと知っているけれど、だけど今はその可能性を信じることにした。
わたしから一直線、同じ壁沿い。
数十センチ向こうのユーイチは、床に座っているわたしを見下ろすと、湿っぽく笑んでみせて、再び窓の外へと目をやった。
空の高いところを見つめ続けるユーイチは、なんとなくだけれど、物思いに耽ているような気がした。
来月の答えをくれぬユーイチに、なんとなくだけれど、なにか大事なことを隠されている気分になった。
それから一時間ほどが経過して、ユーイチが「そろそろテメさんのところへ行こうか」と言うまで、わたしたちの間に会話はなし。
無言でも、べつに居心地は悪くない。だって昔からの馴染みの仲だから。
だからそう。
この胸の引っかかりも、おそらく気のせいだと思う。
「最後まで、ちーちゃんは笑顔で治療を頑張ってたよな」
突然口を開いたユーイチが、すくっと立ち上がって言う。
「最後の最後まで、ちーちゃんは将来への不安ひとつこぼさずに、絶対に病気を治してやるんだって、その気持ちを絶やさなかった」
おもむろに歩を進めたユーイチは、網戸にしてあった窓をガラリと開けて、白い朝陽に目を細める。
窓枠に両腕を預けながら、空の遠くを見つめるユーイチの横顔が、わたしの目には奇妙に映った。
最後の最後まで。
だって彼のその言い方はまるで、ちーちゃんがもうこの世にはいないような言い方だったから。
「最後の最後までってなにそれっ。なんかその言い方、変っ」
瞬間的に、ドクドクと鼓動が速まったわたしだけれど、それはビターに笑って無理やり抑えた。
「ああ、でもちーちゃんがすでに心臓の治療を終えてたら、べつにその言い方も変じゃないか」
手のひらにぽんっと乗せた拳と共に、わたしはそう自分へ言い聞かせた。
そうだ、そうだよ。心臓を治したちーちゃんが、とっくに健康体になっている可能性だってじゅうぶんあり得る。
わたしと同じ難病を患う彼女だから、その可能性は低いと知っているけれど、だけど今はその可能性を信じることにした。
わたしから一直線、同じ壁沿い。
数十センチ向こうのユーイチは、床に座っているわたしを見下ろすと、湿っぽく笑んでみせて、再び窓の外へと目をやった。
空の高いところを見つめ続けるユーイチは、なんとなくだけれど、物思いに耽ているような気がした。
来月の答えをくれぬユーイチに、なんとなくだけれど、なにか大事なことを隠されている気分になった。
それから一時間ほどが経過して、ユーイチが「そろそろテメさんのところへ行こうか」と言うまで、わたしたちの間に会話はなし。
無言でも、べつに居心地は悪くない。だって昔からの馴染みの仲だから。
だからそう。
この胸の引っかかりも、おそらく気のせいだと思う。
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