6 / 144
ホームレスのテメさんと、ココアサイダー味の飴と
5
しおりを挟む
「あ、いや、えと。ちがくてっ」
返す言葉に困ったわたしは、しどろもどろ。
確かに目の前に誰もいないのに、ひとりで『ハッピーバースデー』を歌っていたわけだし、なにも間違いはないのだけれど、この羞恥心をどうにかして和らげようと、勝手に脳みそが勤しんだ。
「ち、ちがうんですっ」
だから、ちがくないってば。
徐々に頬へ、熱が帯びていく。そんなわたしを揶揄うように、彼はぽんっと手を叩く。
「あ、わかった。ちーちゃんってアレだろ。もう死んじゃってんだろ。だから直接歌ってあげられなくて、川に向かって歌ってたんだろー」
なんちゅう失礼な人だ。ちーちゃんは、生きてるし。
「ば、ばか!ちがいます!」
暴言ともとれる発言に、わたしは生まれて初めて赤の他人に「ばか」と言った。
むかついて、どうしようもなくて、さっきとは異なった意味で顔が熱くなっていく。それなのにもかかわらず、彼は呑気だ。
「あはははっ。『ばか』か、それは悪かった」
わたしの感情を逆撫でするように、ポロンと一度、鳴らされたウクレレ。
なにあの人!ほっんとあり得ない!
憤慨したわたしは、大声を出した。
「ちょっとあなた、そこで待ってて!」
「へ?」
「今からそっち、行くから!」
気付けば欄干から、半分ほど乗り出していた我が身。
それを引っ込めて、わたしは彼の元へと急いで行った。
本当は走りたかった。だけどそれはドクターストップがかかっているから、早歩きを意識して。
返す言葉に困ったわたしは、しどろもどろ。
確かに目の前に誰もいないのに、ひとりで『ハッピーバースデー』を歌っていたわけだし、なにも間違いはないのだけれど、この羞恥心をどうにかして和らげようと、勝手に脳みそが勤しんだ。
「ち、ちがうんですっ」
だから、ちがくないってば。
徐々に頬へ、熱が帯びていく。そんなわたしを揶揄うように、彼はぽんっと手を叩く。
「あ、わかった。ちーちゃんってアレだろ。もう死んじゃってんだろ。だから直接歌ってあげられなくて、川に向かって歌ってたんだろー」
なんちゅう失礼な人だ。ちーちゃんは、生きてるし。
「ば、ばか!ちがいます!」
暴言ともとれる発言に、わたしは生まれて初めて赤の他人に「ばか」と言った。
むかついて、どうしようもなくて、さっきとは異なった意味で顔が熱くなっていく。それなのにもかかわらず、彼は呑気だ。
「あはははっ。『ばか』か、それは悪かった」
わたしの感情を逆撫でするように、ポロンと一度、鳴らされたウクレレ。
なにあの人!ほっんとあり得ない!
憤慨したわたしは、大声を出した。
「ちょっとあなた、そこで待ってて!」
「へ?」
「今からそっち、行くから!」
気付けば欄干から、半分ほど乗り出していた我が身。
それを引っ込めて、わたしは彼の元へと急いで行った。
本当は走りたかった。だけどそれはドクターストップがかかっているから、早歩きを意識して。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【完結】箱根戦士にラブコメ要素はいらない ~こんな大学、入るんじゃなかったぁ!~
テツみン
青春
高校陸上長距離部門で輝かしい成績を残してきた米原ハルトは、有力大学で箱根駅伝を走ると確信していた。
なのに、志望校の推薦入試が不合格となってしまう。疑心暗鬼になるハルトのもとに届いた一通の受験票。それは超エリート校、『ルドルフ学園大学』のモノだった――
学園理事長でもある学生会長の『思い付き』で箱根駅伝を目指すことになった寄せ集めの駅伝部員。『葛藤』、『反発』、『挫折』、『友情』、そして、ほのかな『恋心』を経験しながら、彼らが成長していく青春コメディ!
*この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・他の作品も含めて、一切、全く、これっぽっちも関係ありません。
彼女は終着駅の向こう側から
シュウ
青春
ぼっちの中学生トヨジ。
彼の唯一の趣味は、ひそかに演劇の台本を書くことだった。
そんなトヨジの前に突如現れた美少女ライト。
ライトをみたトヨジは絶句する。
「ライトはぼくの演劇のキャラクターのはず!」
本来で会うことのないはずの二人の出会いから、物語ははじまる。
一度きりの青春を駆け抜ける二人の話です。
巡る季節に育つ葦 ー夏の高鳴りー
瀬戸口 大河
青春
季節に彩られたそれぞれの恋。同じ女性に恋した者たちの成長と純真の話。
五部作の第一弾
高校最後の夏、夏木海斗の青春が向かう先は…
季節を巡りながら変わりゆく主人公
桜庭春斗、夏木海斗、月島秋平、雪井冬華
四人が恋心を抱く由依
過ぎゆく季節の中で由依を中心に4人は自分の殻を破り大人へと変わってゆく
連載物に挑戦しようと考えています。更新頻度は最低でも一週間に一回です。四人の主人公が同一の女性に恋をして、成長していく話しようと考えています。主人公の四人はそれぞれ季節ごとに一人。今回は夏ということで夏木海斗です。章立ては二十四節気にしようと思っていますが、なかなか多く文章を書かないためpart で分けようと思っています。
暇つぶしに読んでいただけると幸いです。
昨日屋 本当の過去
なべのすけ
青春
あの時に戻ってやり直したい、そんな過去はありませんか?
そんなあなたは昨日屋に行って、過去に戻りましょう。お代はいただきません。ただし対価として今日を払っていただきます。さぁやり直したい過去に帰りましょう。
昨日を売って、今日を支払う。その先に待っているのはバラ色の過去か?それとも……。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
真夏のサイレン
平木明日香
青春
戦地へ向かう1人の青年は、18歳の歳に空軍に入隊したばかりの若者だった。
彼には「夢」があった。
真夏のグラウンドに鳴いたサイレン。
飛行機雲の彼方に見た、青の群像。
空に飛び立った彼は、靄に沈む世界の岸辺で、1人の少女と出会う。
彼女は彼が出会うべき「運命の人」だった。
水平線の海の向こうに、「霧の世界」と呼ばれる場所がある。
未来と過去を結ぶその時空の揺らぎの彼方に、2人が見たものとは——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる