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中学二年生、秋の頃2

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「つーかこれ、どうやって倒れるんだろ?」

 椅子に備えられている肘掛けのレバー。そこを指でガチャガチャいじくって、ハルくんは背もたれを倒したがった。彼のそのさまを見たわたしもトライしてみると、一発で倒れた背面のシート。

「ひゃっ!びっくりしたあっ!」

 体重を後ろにかけていたせいか、勢いよく平ら近くまで下がって驚いた。景色は変わり、ドームを仰いでいると、そこに満面の笑みを貼り付けたハルくんが映り込む。

「ウケるっ。今一瞬にして、ナツが隣から消えたわっ」

 そう言った彼のシートもゆっくりと下りてきて、わたしと同じ高さになった。

 上映前の明るい場内。横にふいと顔を向けると、わたしの方を見ていたハルくんと目が合い、きゅんとした。
 並んでする仰向けは、ここがひとつのベッドの上だと錯覚させる。

「お、はじまる」

 ブーッと上映開始の合図が鳴って、あたりが段々暗くなる。視界が閉ざされた場内で、聞こえてきたのはハルくんの声。

「なにも見えないね」

 耳元で囁かれたその声は吐息だけ。きっと他の誰にも聞こえていない。

「うん、見えないね」
「なんかゾクゾクするね」
「うん、ゾクゾクする」

 わたしの感じているこのゾクゾクは、おそらくハルくんとは違った意味合いからきているもの。

 ハルくんが近い。
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