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いま34
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「散らかってるけど、ごめん」
映画館からハルくんの自宅へと変更された今日の行き先。玄関には、家族の誰の靴もなかった。
「お、お邪魔します……」
カチコチと、ぎこちなく歩を進めて入ったリビング。見知らぬ家具、見知らぬ空間に、ここは本当にわたしが昔から住む町の一画なのかと疑った。
「適当にかけて」
くいとソファーをあごでさし、ひとりキッチンへと向かうハルくん。けれどわたしの体はカチコチだから思うようには動かせず、リビングの入り口で立ち尽くすだけ。
「ナツ、座らないの?」
「す、座るっ」
「じゃあそんなとこに突っ立ってないで、早く座りなよ」
ほら、とわたしの両肩に手を置いたハルくんと、束の間二両だけの列車ができる。目的地は数歩進んだ先のソファー。そこへ尻をつければ電車ごっこは終わった。
「はい、到着です」
「お、おお邪魔します……」
「ははっ。それさっきも言ってたよ」
今頃クラスのみんなは黒板と向かい合い勉強に必死なのに、わたしだけこんなに幸せでいいのだろうか。
ぐるっとまわりを見渡しても、ここにはもちろんハルくんとわたししかいない。この状況にハルくんは、あの日のことを思い出していた。
「俺たちがこんな風に室内でふたりきりになるのって、ナツの家以来だよね」
ハルくんがうちへ星座の図鑑を見にきたあの日は、わたしにとって素敵な思い出──
「ナツのお母さん、ほんとおもしろかったなあ」
──には、なりきれない。
映画館からハルくんの自宅へと変更された今日の行き先。玄関には、家族の誰の靴もなかった。
「お、お邪魔します……」
カチコチと、ぎこちなく歩を進めて入ったリビング。見知らぬ家具、見知らぬ空間に、ここは本当にわたしが昔から住む町の一画なのかと疑った。
「適当にかけて」
くいとソファーをあごでさし、ひとりキッチンへと向かうハルくん。けれどわたしの体はカチコチだから思うようには動かせず、リビングの入り口で立ち尽くすだけ。
「ナツ、座らないの?」
「す、座るっ」
「じゃあそんなとこに突っ立ってないで、早く座りなよ」
ほら、とわたしの両肩に手を置いたハルくんと、束の間二両だけの列車ができる。目的地は数歩進んだ先のソファー。そこへ尻をつければ電車ごっこは終わった。
「はい、到着です」
「お、おお邪魔します……」
「ははっ。それさっきも言ってたよ」
今頃クラスのみんなは黒板と向かい合い勉強に必死なのに、わたしだけこんなに幸せでいいのだろうか。
ぐるっとまわりを見渡しても、ここにはもちろんハルくんとわたししかいない。この状況にハルくんは、あの日のことを思い出していた。
「俺たちがこんな風に室内でふたりきりになるのって、ナツの家以来だよね」
ハルくんがうちへ星座の図鑑を見にきたあの日は、わたしにとって素敵な思い出──
「ナツのお母さん、ほんとおもしろかったなあ」
──には、なりきれない。
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