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いま31

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「げ、やばいっ」

 ガダンとベンチを立ったハルくんが、わたしの体を引っ張り起こす。

「ハルくん?どうしたの?」

 青ざめたハルくんの視線の先をたどっていけば、そこには先ほどからずっと同じ公園の敷地内にいたおじいさんが、犬を連れながらこちらへ向かって歩いて来ていた。
 メガネを外し、目をごしごしとこすって、またメガネをかけて、わたしたちを凝視する彼。

「わ。もしかして学校サボってるのバレちゃったのかな?」

 わたしがハルくんにそう聞いたのは、そのおじいさんの顔が怒っているようにも見えたから。眉間にしわを寄せ、首を突き出し。とにかくご機嫌ではないと感じた。

「ナツ、もう行こっ」

 わたしと同じことを察したのか、公園の出入り口へと急いで駆け出し、逃げようとしたのはハルくん。

「ちょ、ちょっとハルくん、待ってっ」

 ハルくんに離されぬようにと繋がれた手へ力を込めるけど、あまりの彼のスピードに思わず離脱。わたしはその場へ転んでしまった。

「いててて……」
「ナツっ!」

 わたしの元へハルくんが駆け寄るよりも先に、リードごとおじいさんの手から振り払い走ってきたのは可愛いポメラニアン。
 へっへと笑ってひざのすり傷をぺろぺろなめてくれて、とても人懐こかった。遅れて飼い主のおじいさんもやって来る。

「ちょっと君」
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