上 下
38 / 120

いま24

しおりを挟む
 なんだその失礼な言い草は。いくらハルくんでもひどいと思った。不機嫌が、口に出てしまう。

「それって、ばかなわたしなんかどこも受からないよってこと?そういう意味で言ったなら、ちょっとひどいと思うんだけど」

 風の手助けもあり、せっかく普通の雰囲気に戻れたのに、どうしてまたもやこんな空気になってしまうのか。わたしはハルくんと楽しく帰りたいだけなのに。

「ち、違うんだナツっ。ごめんっ」

 わたしの不機嫌に気が付いたハルくんは、慌ててわたしへ近寄った。

「じゃあ、どういう意味で言ったの?」
「だからそのっ、ナツには自覚があると思ってたからっ」
「自覚ってなに?自分がばかだって自覚?」
「そうじゃなくてっ」

 今日のハルくんは変だ。わたしの何につっかかるのかはよくわからないが、ちょくちょく理解できないことを言ってくる。

「ごめん、ナツ。本当にごめん……」

 こんなにも申し訳なさそうにするのなら、言わなければいいのに。

「いいよもう。早く帰りたい……」

 不快をあらわにして俯いて、歩き出せばまた、ハルくんの突拍子もない行動にうろたえた。

「手ぇ、繋ご」

 返事をする暇もなく、繋がれたふたつの手。手元を見て、ハルくんを見て、いかりの感情が消えていく。

「な、なんで?」
「なんでも」

 ドキドキは、止められない。おこりたくたってもう、怒れない。だって今のわたしは、大好きな人と手を繋いでいる。

 ハルくんの申し訳なさそうな顔は変わらなくて、しょぼんとした彼のまま、さんかく公園へと着いた。別れ際に彼は言う。

「また明日も逢えるよね?」

 明日は平日、通常授業。学校に行けばまた、同じクラスで顔を合わせる。

「うん。だって明日も学校あるもんね」
「そうだね」
「じゃあ明日、学校で」
「うん」

 ばいばい、とわたしが手を振ると、校庭では返してくれなかったハルくんもひらひら手を振った。
 あたりには人気ひとけがなく、なんだか幽霊でも出そうだと思った。
しおりを挟む

処理中です...