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いま23

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「夏かあ。わたしはちょっと苦手。だって暑いもん」

 そう言うと、ハルくんも軽く頷いた。

「暑いのは俺も得意じゃないよ。野球の練習の炎天下もきついし、汗も止まらなくて辛いしさ。でもなんか夏って、『夏』ってだけでわくわくしない?」
「ああ、それはちょっとわかるかも」
「甲子園も観られるし、プールも入れるし、花火も祭りもあるし。部活の合宿もなんだかんだでけっこう楽しいんだよなあ。朝から晩までの練習はへとへとになるけど」
「そっか、野球部は毎年夏休みに合宿してるもんね。今年も楽しみだね」
「それがさあ、うちの部のコーチはがんとして三年生を合宿には連れて行かないんだ。だから俺たちの代は去年の合宿で最後だったの」
「え、どうして?」
「受験勉強しろってさ~」

 受験勉強。言われてみれば、わたしたち中学三年生はその大体が受験生なのだ。放課後のベランダにばかり通うのではなく、わたしもそろそろ本腰を入れなければならない。

「勉強かあ。めんどくさいけどしないとだよねえ。第一希望の高校には合格したいし」

 ぽつりとやる気のない声をこぼせば、ハルくんが「え」と立ち止まった。わたしもつられて足を止めるけれど、ふたりの間には二歩ほど距離ができた。

「ハルくん?どうしたの?」
「あ、いや……」
「なにかわたし、おかしなこと言った?」
「ナツ、高校行く気なの?」
「え?」
「ナツは高校に、行けると思ってるの?」
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