上 下
16 / 120

いま10

しおりを挟む
「そんな理由じゃないだろ、ナツ!本当のことを教えてよ!」

 初めて聞いたハルくんの怒鳴り声にも似た声に、心臓がぐるんと一回転。彼が怒るのも無理はない。なぜならわたしは昨日もうそをついたくせに、彼の「待って」も無視して去ったくせに、それなのにまた今も、うそをつこうとしている。

 このままじゃ、夢を叶えるどころかハルくんに嫌われてしまう。

 そう思ったら寒気がした。

「わたしがここにいる、本当の理由はね……」

 空気を吸って、飲み込んで。言葉と一緒じゃなきゃ吐き出さないってそう決めた。

「わたしはハルくんが」

 ひと文字ひと文字なんだか震えてしまっているけれど、そんなことは関係ない。だってわたしの願いはハルくんに好きだと伝えて、好きって言ってもらうこと。
 神様、どうかわたしに勇気をください。

 人生初めての愛の告白は、なぜだか涙も一緒にあふれ出た。

「ハルくんが好きだから、ここにいたのっ」

 ハルくん。わたしはハルくんが好きです。ハルくんはわたしをどう思っていますか。

「ハ、ハルくんに好きって伝えて、好きって言ってもらいたいって、それがわたしの夢で、それを叶えたくってっ」

 一年生の頃からずっと好きでした。これはわたしの初めての恋です。ハルくんといると楽しくて、元気をもらえる。ドキドキもするし、きゅんとするし、時々切なくもなったりする。ハルくんはわたしの気持ちを一瞬で変えてしまう、魔法使いみたいな人です。

「だからそのっ、えっと」

 野球部の練習も試合も、いつも応援していました。ハルくんはテレビの中で活躍する、どんなプロ野球選手よりもカッコいいと思います。
 優しいところが好きです。
 明るいところが好きです。
 みんなに好かれている、ハルくんが大好きです。

「つまりは、そのぉ……」

 ずっと勇気がなくて伝えられなかったけれど、今日はその勇気を出すって決めました。これは内気なわたしにとって、一世一代いっせいちだいの大告白です。
 ねえハルくん。ハルくんはわたしをどう思っていますか。

 心の中ではすらすらと言えるのに、空気に触れそうになった瞬間、気迷ってしまう。本当にこの文章でいいのかなとか、もっと他にいい表現の仕方があるのではないかとか、やたらと国語を気にしてしまう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...