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第2話 ブラッディ・マリー
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この日
俺
ナイン・スペードは生まれて始めの経験をする
それは本来
思春期に済ませておくべきイベントだ
命を狙われる事は星の数ほど
そもそもいつも戦場にいた訳だし
小さい頃からいつ死ぬとも分からない傭兵稼業
俺は実際
「恋」
というモノを知らない
幼い頃から傭兵団にいて
今日生きるか死ぬか
相手を殺せるか殺せないかという尺度でしか
考えた事が無かったから
これは
多分
「初恋」というやつだ
ただその相手というのが……
銃弾の雨
手りゅう弾の爆風
飛び散るガラス片
割れた皿と粉々になる料理
逃げ惑う人たちの怒号
店主の叫び声
初めて恋した相手は
俺を殺しに来た女性だった
出会いはある酒場
視線に気づきそちらに振り向くと
こっちを見てる女性がいた
すると給仕の男が
その女性からだというビールをテーブルに置いた
「どーも」と軽い会釈とともに
持ち上げたそのジョッキが
炸裂した
その女の手には銃
その瞬間
恋に落ちた
いやいや
自分がどうかしてるのは分かってる
彼女の名前は
マリー・レッドフォード
なんでもその娘は新進気鋭の傭兵らしく
敬愛する兄を
トランプ傭兵団スペードのメンバー(ナンバーまでは分からない)に
殺されたらしい
で
そのスペードを狙い旅をしている内に
腕を上げ
名も上がったらしい
元々銃は警官だった父親に
幼い頃から仕込まれていたらしい
彼女の二つ名の代表格は
“鮮血の赤”
“ブラッディ・マリー”
とてもカッコイイ
一方
俺と言えば
“死神”
“不幸の黒”
“不吉の使者”
“チビカラス”
などなど……
もっとこう……
気にしてないっ!
と言えば嘘になるが
基本二つ名は他人がつけるモノ
本人がどうこう言う物ではない
だが
この一連のセンスの無い悪意のこもった二つ名を
知り合いギルド職員が広めていると最近知った
サッソのやろう
あいついつかほんとうにしめる
酒場の襲撃の翌日も
彼女は俺に
ひたすら弾丸をプレゼントしてくれる
俺のどんな質問にも
丁寧に銃弾で応える彼女
言葉を何も返してくれないので
俺は決心した
その日の夜
彼女との会話を目指し
俺は彼女の寝床に忍び込んだ
そして
彼女を縛った
動けない様にちょっときつ目に
……いや
趣味ではないんだ
あくまでも彼女と冷静に話をするためにだよ
ほんとうだって
ただ暴れられると困るので
若干きつ目に縛った
おかげでちょっと体のラインが分かる
「殺せ!」
念願かなってやっと彼女の声が聞けた
カワイイ声だ
「いやいや
殺すならもう殺してるよ
それにしても
カワイイ寝顔だったね」
彼女はカーッと顔を赤らめる
「殺せ!!」
「ちょっと待ってて」
俺は彼女の銃をバラバラにする
少なくとも戻すのに1分はかかる
「まず一つ
俺はキミのお兄さんを殺していない
時期を聞いたが
その頃俺はスパニアの国にいた
ギルドの記録を見てもらえれば分かるはずだ」
彼女は黙って聞いている
「二つ目
人違いだからと言って
簡単には振り上げた拳はおろせないだろ
だから明日一日決闘をしよう
憎いかたきの一員だったことは間違いないんだからね
それに……」
俺は彼女の目をまっすぐと見て言った
「スペードの力を実感として知った方がいい
命があるうちにね」
彼女はまだ黙ってこちらをじっと見ている
かわいい……
「で
肝心の三つ目
キミが勝ったらそれでおしまい
まぁ俺が死んでる訳だしね
ただ
俺が勝ったら……」
勇気を出して言う
「デートをしてほしい」
おどろいた顔をしている
後で聞いた話だとこれは完全にあきれた顔だったらしい
俺はステキな提案に喜んでくれていると思っていた
「分かったらうなずいてくれるかな」
彼女はうなずく
俺は彼女の縄をほどく
「じゃあ
決闘の方なんだけ……!」
いきなり金的を食らった
「!?
まだ始まってな……」
倒れ込む俺
「ねっ……
寝顔を見た分よっ!」
「あ
はい」
翌朝
「決闘はきっちり24時間
範囲はこの町アルカディア
ここを出てはならない」
「分かったわ」
「キミは実弾を使用
で
俺はこの『水鉄砲』!」
「ふざけないで!」
「ふざけてないよ真剣さ
だって
君を傷つけたくないから」
「知らないわよ!
私はアンタを殺す!」
「そのつもりで来てくれないと張り合いがない」
俺は町の中心を振り向き
最後のルールを告げた
「開始は町の中央時計が昼12時をさした時」
12時になり
街に鐘の音が響く
町中の決闘とは言え
俺はいつも通りの生活を送る
決闘の噂を聞きつけた数人が観戦に来ている
まったく物好きな連中だ
酒場で酒を飲み
知り合いとカードをやって
なじみの銃の店は騒ぎに巻き込まれたくないと入店拒否をしてきた
確かに火竜粉に引火でもしたら大変だしな
「……彼女の情報は以上だよ
さぁ用事は済んだでしょ
さっさと帰ってくださいよ」
「そうつれない事言うなよ
俺とお前の仲だろ
サッソ♪」
サッソは傭兵ギルドの職員
俺に仕事や情報を流す事を生業にしている
仕事はとても優秀なのだが
非常に残念な事にひねくれた性格をしている
俺の酷い二つ名を広めている件だけでも
それを少しは理解してもらえると思う
あと女友だちが非常に多く
そのうちその中の誰かに殺されるだろうと俺は思ってる
「友人じゃない
そもそも友人なら流れ弾の危険にさらさせないです」
「彼女の腕はそんなにひどくないって」
実際俺が身体を動かす度に
元居た位置に床や壁に穴が開いた
「凄いな全て急所コースじゃないですか」
「な
いい腕してるだろ」
「ところで」
「なに?」
「壁の穴の修復費用
全部ナインさんに回しますから」
「マジで」
「当然ですよ」
「分かったよ
ああ
それと
“J”の情報は?」
「今回も空振りでした
ただ」
「ただ?」
「まったくの別件なのですが
ちょっと面白い話があってですね……」
「話せ」
「いくら出します?」
「聞いてからだよ」
「高く買ってくださいよ
実は……」
終了の24時間まで残り時間はわずか
マリーはスナイパーライフルを構える
照準は俺に合っている
静かに引き金を絞る
俺の衣装に穴が開く
しかし無反応
やがて俺の身体が静かに倒れていく
しかしそれは
「かかし!?」
「その通り」
マリーが声の方に銃を向けるより速く
俺の水鉄砲がマリーの背筋に水を撃ち込んだ
「ひゃっ!?」
「はい
俺の勝ち」
街に鐘の音がなる
12時になったのだ
「ふざけないで!」
「それがふざけてもいられなくてね」
「?」
マリーが何の事という顔をする
「キミ
ルードって傭兵団に聞き覚えは無い?」
「去年
一味に元トランプのスペードを名乗る奴がいたから襲撃をした
結局偽物だったけど」
「そいつらが報復に向かって来てる」
「迎え討つわ」
「で
デートの話なんだけど」
「こんな時に?!」
「ちょっとこれからそいつらを一緒に潰しにいかないか?」
「何言っているの!
連中のターゲットは私なのよ」
「だからデートだって
いや
俺デートってしたことが無くてさ
今日一日
ずっとどうすればいいのか
考えてたんだけど
結局分からなくてさ」
「あなた
命を狙われている最中にそんなことを」
「それでさ
自分のフィールドだったらそんな問題はない」
俺は彼女の眼をまっすぐ見て聞く
「どうだろう?」
「いいわ
そのデート受けて立ちましょう」
「うーん
なんかデートへの返事としては変な感じだけど」
銃のマガジンを確認する
「それじゃあ行こうか」
「あ
そーだ
どさくさに紛れて俺狙っちゃダメだからね」
「どうかしら
手元が狂うかも」
「今日一日
君の手元は一度も狂わなかった」
俺が笑って
マリーも笑った
二人の乗った竜が戦場を駆ける
ナインの乗る黒いイザナミとマリーの乗る赤のキリンジが
まるでダンスを踊るかのように弾丸の嵐の中で舞った
マリーの乗る赤竜キリンジは【麒麟種】と呼ばれる変わり種だ
東洋の麒麟のイメージに似ていて
ウマやヤギなど脚力の強い4足歩行の動物と竜のハイブリット
4足歩行で馬の様に駆ける
出足の速さは素晴らしいものがある
ナインの黒竜イザナミほどではないが
世界有数のスピードを持つ竜である
二丁拳銃のナインとマリー
二人はまるでオーケストラで楽器を奏でるかの如く
自分の竜と共に敵を倒し続ける
途中
マリーは自分が笑ってることに気づく
戦いの場で笑ったことなどこれまで一度もないのに
ナインとその黒い竜と一緒に戦う事で
マリーは初めての感情を内に秘めた
落ちる薬きょうとテンポを合わせる様に
次々と倒れていくルード傭兵団
そんな中で
一瞬の油断
マリーは敵の攻撃の爆風で体勢を崩す
右手からは彼女の愛銃のワイルドターキーがこぼれ飛んで行く
それを見て敵が迫る
「受け取れ!」
その瞬間ナインは
自分の二対の銃の一つをマリーに投げていた
マリーはそれを受け取り迫りくる敵をしとめる
ナインは飛んできたマリーの銃をキャッチし
再び敵を撃つ
二人のその一連の動きはあまりに自然で
美しかった
どれだけの時間が経っただろうか
敵も大方打倒した頃
マリーにも疲れがみえはじめていた
大丈夫か?
と近寄るナイン
そのナインに銃口を向けるマリー
刹那ためらいもなく銃を撃つ
間一髪よけるナイン
後ろではルード傭兵団の頭が
額を撃ち抜かれ
ゆっくりと倒れた
こうしてルード傭兵団が壊滅した
「今
俺狙ったんじゃないよね」
「どうかしら」
夕日
静かに煙の筋がいくつも立っていた
ナインがマリーに聞く
「初デートか
なぁ
デートってこんな感じでいいのかな?」
「知らないわよ
私だって
始めてだったし……」
「次はいつ会えるかな?」
「さぁ
かたきのスペードがあなたじゃなかったから
別のスペードを探しに行かないといけないし」
「その旅
やめにできないか?」
「どうして」
「キミの腕が悪くないのは分かった
でも相手はスペードだ」
「どういうことよ」
「スペードってのは
元々俺たちの団でもとりわけ戦闘に特化した連中だったんだ
少なくとも全員俺クラスの実力を持ってる
今日俺を討てなかったキミは
他の連中なら容赦なく即返り討ちだ」
「それでも兄のかたきだから」
うつむき銃を見ながらマリーは続ける
「どのみち私の手は血に染まってしまったの
今更他の生き方なんて
結局この旅の終焉は
かたきを討つか
私が死ぬか
なの」
「そうか分かった
一つだけ
相手が『シックス』だった時は
悪いけどそいつは俺がやる」
「なぜ?
仲間だったんじゃないの」
「団を壊滅させた裏切り者だ
団の生き残りが全員で探しちゃいるが
その影すらつかめていない」
「出来たらお互い生き残って
そしてまたデートをしよう」
「そうね
今度は世間一般で言う所のデートっていうのも
悪くないわね」
「そうだ!
あなたの銃を返さないと
素晴らしい銃だったわ」
「ラッキーストライクって言うんだ」
「これが噂の
本当に素晴らしい銃ね
ファンが多い理由が分かったわ」
「持っていてくれ」
「でもこれ
世界中の傭兵が欲しがる名銃じゃない」
「好きな人には自分の大切な物をあげるって話だ」
「それじゃあ
私の銃もあなたが持っていて
あなたのって程じゃないけど」
「ワイルドターキー
大切にするよ」
「これはあくまでも交換よ
次に会う時に互いに返すの
その銃は
兄の形見の大事な物なんだから」
「たしか君の兄さんってのは銀行員だったよな」
「そうよ
それがどうかした?」
「あ
いや
別に」
ワイルドターキー
大振りな銃口で
軍に採用される様な代物だ
この銃は素人の銀行員が簡単に扱える物ではないが
まぁ今はいいかとナインは考える
「それじゃ
さよなら」
「そんなんじゃダメだ
またな
だろ」
「そうね
それじゃ
また」
その夜
ナインは連絡の取れる元団員全員に知らせを送った
内容は以下だ
「マリー・レッドフォードという傭兵が来たら
殺さないように頼みます
俺の大切な人だから」
その中の一通には別の文も加えた
「ライじい
銃の整備・調整をお願いしに
近日伺うので
よろしく」
俺
ナイン・スペードは生まれて始めの経験をする
それは本来
思春期に済ませておくべきイベントだ
命を狙われる事は星の数ほど
そもそもいつも戦場にいた訳だし
小さい頃からいつ死ぬとも分からない傭兵稼業
俺は実際
「恋」
というモノを知らない
幼い頃から傭兵団にいて
今日生きるか死ぬか
相手を殺せるか殺せないかという尺度でしか
考えた事が無かったから
これは
多分
「初恋」というやつだ
ただその相手というのが……
銃弾の雨
手りゅう弾の爆風
飛び散るガラス片
割れた皿と粉々になる料理
逃げ惑う人たちの怒号
店主の叫び声
初めて恋した相手は
俺を殺しに来た女性だった
出会いはある酒場
視線に気づきそちらに振り向くと
こっちを見てる女性がいた
すると給仕の男が
その女性からだというビールをテーブルに置いた
「どーも」と軽い会釈とともに
持ち上げたそのジョッキが
炸裂した
その女の手には銃
その瞬間
恋に落ちた
いやいや
自分がどうかしてるのは分かってる
彼女の名前は
マリー・レッドフォード
なんでもその娘は新進気鋭の傭兵らしく
敬愛する兄を
トランプ傭兵団スペードのメンバー(ナンバーまでは分からない)に
殺されたらしい
で
そのスペードを狙い旅をしている内に
腕を上げ
名も上がったらしい
元々銃は警官だった父親に
幼い頃から仕込まれていたらしい
彼女の二つ名の代表格は
“鮮血の赤”
“ブラッディ・マリー”
とてもカッコイイ
一方
俺と言えば
“死神”
“不幸の黒”
“不吉の使者”
“チビカラス”
などなど……
もっとこう……
気にしてないっ!
と言えば嘘になるが
基本二つ名は他人がつけるモノ
本人がどうこう言う物ではない
だが
この一連のセンスの無い悪意のこもった二つ名を
知り合いギルド職員が広めていると最近知った
サッソのやろう
あいついつかほんとうにしめる
酒場の襲撃の翌日も
彼女は俺に
ひたすら弾丸をプレゼントしてくれる
俺のどんな質問にも
丁寧に銃弾で応える彼女
言葉を何も返してくれないので
俺は決心した
その日の夜
彼女との会話を目指し
俺は彼女の寝床に忍び込んだ
そして
彼女を縛った
動けない様にちょっときつ目に
……いや
趣味ではないんだ
あくまでも彼女と冷静に話をするためにだよ
ほんとうだって
ただ暴れられると困るので
若干きつ目に縛った
おかげでちょっと体のラインが分かる
「殺せ!」
念願かなってやっと彼女の声が聞けた
カワイイ声だ
「いやいや
殺すならもう殺してるよ
それにしても
カワイイ寝顔だったね」
彼女はカーッと顔を赤らめる
「殺せ!!」
「ちょっと待ってて」
俺は彼女の銃をバラバラにする
少なくとも戻すのに1分はかかる
「まず一つ
俺はキミのお兄さんを殺していない
時期を聞いたが
その頃俺はスパニアの国にいた
ギルドの記録を見てもらえれば分かるはずだ」
彼女は黙って聞いている
「二つ目
人違いだからと言って
簡単には振り上げた拳はおろせないだろ
だから明日一日決闘をしよう
憎いかたきの一員だったことは間違いないんだからね
それに……」
俺は彼女の目をまっすぐと見て言った
「スペードの力を実感として知った方がいい
命があるうちにね」
彼女はまだ黙ってこちらをじっと見ている
かわいい……
「で
肝心の三つ目
キミが勝ったらそれでおしまい
まぁ俺が死んでる訳だしね
ただ
俺が勝ったら……」
勇気を出して言う
「デートをしてほしい」
おどろいた顔をしている
後で聞いた話だとこれは完全にあきれた顔だったらしい
俺はステキな提案に喜んでくれていると思っていた
「分かったらうなずいてくれるかな」
彼女はうなずく
俺は彼女の縄をほどく
「じゃあ
決闘の方なんだけ……!」
いきなり金的を食らった
「!?
まだ始まってな……」
倒れ込む俺
「ねっ……
寝顔を見た分よっ!」
「あ
はい」
翌朝
「決闘はきっちり24時間
範囲はこの町アルカディア
ここを出てはならない」
「分かったわ」
「キミは実弾を使用
で
俺はこの『水鉄砲』!」
「ふざけないで!」
「ふざけてないよ真剣さ
だって
君を傷つけたくないから」
「知らないわよ!
私はアンタを殺す!」
「そのつもりで来てくれないと張り合いがない」
俺は町の中心を振り向き
最後のルールを告げた
「開始は町の中央時計が昼12時をさした時」
12時になり
街に鐘の音が響く
町中の決闘とは言え
俺はいつも通りの生活を送る
決闘の噂を聞きつけた数人が観戦に来ている
まったく物好きな連中だ
酒場で酒を飲み
知り合いとカードをやって
なじみの銃の店は騒ぎに巻き込まれたくないと入店拒否をしてきた
確かに火竜粉に引火でもしたら大変だしな
「……彼女の情報は以上だよ
さぁ用事は済んだでしょ
さっさと帰ってくださいよ」
「そうつれない事言うなよ
俺とお前の仲だろ
サッソ♪」
サッソは傭兵ギルドの職員
俺に仕事や情報を流す事を生業にしている
仕事はとても優秀なのだが
非常に残念な事にひねくれた性格をしている
俺の酷い二つ名を広めている件だけでも
それを少しは理解してもらえると思う
あと女友だちが非常に多く
そのうちその中の誰かに殺されるだろうと俺は思ってる
「友人じゃない
そもそも友人なら流れ弾の危険にさらさせないです」
「彼女の腕はそんなにひどくないって」
実際俺が身体を動かす度に
元居た位置に床や壁に穴が開いた
「凄いな全て急所コースじゃないですか」
「な
いい腕してるだろ」
「ところで」
「なに?」
「壁の穴の修復費用
全部ナインさんに回しますから」
「マジで」
「当然ですよ」
「分かったよ
ああ
それと
“J”の情報は?」
「今回も空振りでした
ただ」
「ただ?」
「まったくの別件なのですが
ちょっと面白い話があってですね……」
「話せ」
「いくら出します?」
「聞いてからだよ」
「高く買ってくださいよ
実は……」
終了の24時間まで残り時間はわずか
マリーはスナイパーライフルを構える
照準は俺に合っている
静かに引き金を絞る
俺の衣装に穴が開く
しかし無反応
やがて俺の身体が静かに倒れていく
しかしそれは
「かかし!?」
「その通り」
マリーが声の方に銃を向けるより速く
俺の水鉄砲がマリーの背筋に水を撃ち込んだ
「ひゃっ!?」
「はい
俺の勝ち」
街に鐘の音がなる
12時になったのだ
「ふざけないで!」
「それがふざけてもいられなくてね」
「?」
マリーが何の事という顔をする
「キミ
ルードって傭兵団に聞き覚えは無い?」
「去年
一味に元トランプのスペードを名乗る奴がいたから襲撃をした
結局偽物だったけど」
「そいつらが報復に向かって来てる」
「迎え討つわ」
「で
デートの話なんだけど」
「こんな時に?!」
「ちょっとこれからそいつらを一緒に潰しにいかないか?」
「何言っているの!
連中のターゲットは私なのよ」
「だからデートだって
いや
俺デートってしたことが無くてさ
今日一日
ずっとどうすればいいのか
考えてたんだけど
結局分からなくてさ」
「あなた
命を狙われている最中にそんなことを」
「それでさ
自分のフィールドだったらそんな問題はない」
俺は彼女の眼をまっすぐ見て聞く
「どうだろう?」
「いいわ
そのデート受けて立ちましょう」
「うーん
なんかデートへの返事としては変な感じだけど」
銃のマガジンを確認する
「それじゃあ行こうか」
「あ
そーだ
どさくさに紛れて俺狙っちゃダメだからね」
「どうかしら
手元が狂うかも」
「今日一日
君の手元は一度も狂わなかった」
俺が笑って
マリーも笑った
二人の乗った竜が戦場を駆ける
ナインの乗る黒いイザナミとマリーの乗る赤のキリンジが
まるでダンスを踊るかのように弾丸の嵐の中で舞った
マリーの乗る赤竜キリンジは【麒麟種】と呼ばれる変わり種だ
東洋の麒麟のイメージに似ていて
ウマやヤギなど脚力の強い4足歩行の動物と竜のハイブリット
4足歩行で馬の様に駆ける
出足の速さは素晴らしいものがある
ナインの黒竜イザナミほどではないが
世界有数のスピードを持つ竜である
二丁拳銃のナインとマリー
二人はまるでオーケストラで楽器を奏でるかの如く
自分の竜と共に敵を倒し続ける
途中
マリーは自分が笑ってることに気づく
戦いの場で笑ったことなどこれまで一度もないのに
ナインとその黒い竜と一緒に戦う事で
マリーは初めての感情を内に秘めた
落ちる薬きょうとテンポを合わせる様に
次々と倒れていくルード傭兵団
そんな中で
一瞬の油断
マリーは敵の攻撃の爆風で体勢を崩す
右手からは彼女の愛銃のワイルドターキーがこぼれ飛んで行く
それを見て敵が迫る
「受け取れ!」
その瞬間ナインは
自分の二対の銃の一つをマリーに投げていた
マリーはそれを受け取り迫りくる敵をしとめる
ナインは飛んできたマリーの銃をキャッチし
再び敵を撃つ
二人のその一連の動きはあまりに自然で
美しかった
どれだけの時間が経っただろうか
敵も大方打倒した頃
マリーにも疲れがみえはじめていた
大丈夫か?
と近寄るナイン
そのナインに銃口を向けるマリー
刹那ためらいもなく銃を撃つ
間一髪よけるナイン
後ろではルード傭兵団の頭が
額を撃ち抜かれ
ゆっくりと倒れた
こうしてルード傭兵団が壊滅した
「今
俺狙ったんじゃないよね」
「どうかしら」
夕日
静かに煙の筋がいくつも立っていた
ナインがマリーに聞く
「初デートか
なぁ
デートってこんな感じでいいのかな?」
「知らないわよ
私だって
始めてだったし……」
「次はいつ会えるかな?」
「さぁ
かたきのスペードがあなたじゃなかったから
別のスペードを探しに行かないといけないし」
「その旅
やめにできないか?」
「どうして」
「キミの腕が悪くないのは分かった
でも相手はスペードだ」
「どういうことよ」
「スペードってのは
元々俺たちの団でもとりわけ戦闘に特化した連中だったんだ
少なくとも全員俺クラスの実力を持ってる
今日俺を討てなかったキミは
他の連中なら容赦なく即返り討ちだ」
「それでも兄のかたきだから」
うつむき銃を見ながらマリーは続ける
「どのみち私の手は血に染まってしまったの
今更他の生き方なんて
結局この旅の終焉は
かたきを討つか
私が死ぬか
なの」
「そうか分かった
一つだけ
相手が『シックス』だった時は
悪いけどそいつは俺がやる」
「なぜ?
仲間だったんじゃないの」
「団を壊滅させた裏切り者だ
団の生き残りが全員で探しちゃいるが
その影すらつかめていない」
「出来たらお互い生き残って
そしてまたデートをしよう」
「そうね
今度は世間一般で言う所のデートっていうのも
悪くないわね」
「そうだ!
あなたの銃を返さないと
素晴らしい銃だったわ」
「ラッキーストライクって言うんだ」
「これが噂の
本当に素晴らしい銃ね
ファンが多い理由が分かったわ」
「持っていてくれ」
「でもこれ
世界中の傭兵が欲しがる名銃じゃない」
「好きな人には自分の大切な物をあげるって話だ」
「それじゃあ
私の銃もあなたが持っていて
あなたのって程じゃないけど」
「ワイルドターキー
大切にするよ」
「これはあくまでも交換よ
次に会う時に互いに返すの
その銃は
兄の形見の大事な物なんだから」
「たしか君の兄さんってのは銀行員だったよな」
「そうよ
それがどうかした?」
「あ
いや
別に」
ワイルドターキー
大振りな銃口で
軍に採用される様な代物だ
この銃は素人の銀行員が簡単に扱える物ではないが
まぁ今はいいかとナインは考える
「それじゃ
さよなら」
「そんなんじゃダメだ
またな
だろ」
「そうね
それじゃ
また」
その夜
ナインは連絡の取れる元団員全員に知らせを送った
内容は以下だ
「マリー・レッドフォードという傭兵が来たら
殺さないように頼みます
俺の大切な人だから」
その中の一通には別の文も加えた
「ライじい
銃の整備・調整をお願いしに
近日伺うので
よろしく」
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