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 第6.5章 機械仕掛けのアラビアンナイト

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赤獅子国

季節は秋に近づいている。
そして漁師のチームが長期の漁から戻って来た。
なんでも大物が釣れたとかで港が賑あっていた。

氏康はミリアに連れられてそれを見に来た。当然の様にミリアの兄のセンドリックも着いて来た。
「いつも兄がすいません」
「もう慣れましたよミリアさん、空気だと思えば気にならない」
「おい、氏康。誰が空気だ、誰が」
「風が何か言ってますね、氏康さん」
「ミリア、お前まで」
そんなやり取りをしてると漁師の長が氏康のもとへ来た。
「おお、国主さん! 今日は凄いのが釣れましたぜ。カタの字が大活躍でね」
漁師になった狼人のカタオカが大活躍だった様だ。
漁師仲間にすっかり溶け込みカタの字と呼ばれている。
カタオカたち数人で打ち上げたのは大きなクジラだった。
「大将、これはクジラじゃないか」
「おうよ! この世界の海でも取れて感無量だぜ、俺はよぉ!」
センドリックが氏康に向かって言う。
「氏康、俺たちの世界ではクジラは保護動物だ」
「そうなのか、大和の国ではクジラ漁は一般的だぞ。これで多くの者の食事が確保される。乱獲する訳ではないので、生態系には打撃は無いだろう」
ミリアが言い添える。
「動植物の調査の数の調査をしてはどうですか? 我々も食べて行かなければならないですが、希少種ならば保護すべきでしょう」
「調査か。確かに、我が国土もハッキリしないし。そろそろちゃんとしないとだな」

漁師たちは慣れた手つきでクジラの解体を始める。
大和の国の文化ではクジラはその全ての部位を生活活用する。
この解体でもカタオカの爪は多いに役に立っていた。

すると中から大きな金属体が出て来た。
始め鉄亀<アペシュ>かと思ったが、それは人型で顔は犬のような形だった。
そこに沿岸の警備から戻って来たオルフェが合流した。
「氏康、なんだこれは?」
「今クジラの中から出てきたところだ」
オルフェが爪を出し言う。
「真っ二つにするか」
「いやいや、形から察するに人間が入っている可能性がある」
氏康は通信機を取り出し工房に繋いだ。
「ライザ殿たちと経蔵に見てもらおう」

数分後、ライザたちミスル人たちと経蔵がやって来た。
「こりゃボディアーマーみたいだな。スキャンするから私たちの研究所へ運ぶぞ」

工房でミスルの機械を使い調査をする。
「中に人がいるな。しかし大した技術だぞ、これを作った者は」
「というのは?」
「あらゆる環境想定に対応できそうだ。しかも、中の人間はコールドスリープの状態だ」
「コールドスリープ?」
「ああ、簡単に言えば人間を冷凍保存して年を取らずに保管する感じだ」
「起こせるかな? 事情を知りたい」
「やってみる」

数時間後、氏康はライザたちの工房に呼び戻した。
金属体の中の人間を起こせそうだと連絡が来たのだ

ボディスーツはゆっくりと開いた。
機械からは白い湯気の様な物が漏れた。
横たわったスーツから男が半身を起こした。
「ここは?」
「赤獅子国だ」
氏康が答えるが、男は右手を動かしデータを確認している。
「何だ! まだ1年も経ってないのか!?」
「俺はこの国の国長東城氏康だ お主は?」
「俺の名はサイード・マフムード。国を渡って旅をしている。チッ、強制的に起こされたのか」
男は顔を向けずデータの確認を続けている。
経蔵が何かに気づいた。
「まさか、あんたペルシア共和国の出身か?」
すると男は初めて経蔵の方を向いた。
「ああ、でもなぜその国の名を知っている」
「共通の知り合いがいるからだよ」
「経蔵、それは誰だ?」
「氏康様、あの機械見てピンとこない?」
そう言うと経蔵は愛機のソロモンで誰かに連絡を入れた。
「待ってな、直ぐに来るはずだ」
次の瞬間、部屋の何もなかった場所が突然光った。
光が収まったところに氏康も知っている人間がいた。

「アーディル、久々だな。しかしどうして?」
「ディモネットで経蔵が連絡をくれましてね。ああ、この男です。写真で見た通りだ」
サイードと名乗った男はアーディルの顔を見るが、誰だという風だ。
そんなサイードにアーディルは話しかける。
「大商人の娘アーシャ・アズハルを知っているか?」
「アーシャ? ああ、アーシャは覚えている。アレは燃える様な恋だった」
「ならば、やはりあなたは僕の父だ」
「なんだと? そうなのか……」
「父さん」
「息子よ」
サイードは両手を広げる。
アーディルはゆっくりと近づく。
次の瞬間。

ドゴーーーーーーン!

アーディルの機械のアームは、目一杯の力でサイードの左頬をぶち抜いていた。
「な……ぜ……」
「その理由も分からないからだ。正義は執行されたよ、母さん」
サイードはそのまま意識を失った。

数時間後
サイードが目を覚ました。
だがその身体はベットに縛られている。
逃亡予防だ。
さらに逃亡阻止のため、国でトップの忍びである陽炎が見張り役を任せられていた。
目が覚めたのを確認すると直ぐに氏康とアーディルたちが呼ばれた。

「頼む、協力する、何でも言ってくれ。とりあえずこれを外してくれ」
「だめです、この男(父親)の足取りを追って確認してきましたが、この男はこうやって協力すると言って、次の瞬間に姿を消すそうです。あのボディスーツで次元を渡ってね」
「なんなんだこのクソ生意気な小僧は。親の顔が見てみたいぜ!」
お前だよ、という一同の突っ込みが心の中で行われた。
「さて、では先ほどの会議で話した通り」
「はい、これまでに関係のあった女性の所を全部回って最後に僕の母のところに連れてい行きます」
サイードは慌てて哀願する。
「それだけはやめてくれ! 殺される!」
その姿に不敵な笑みを浮かべアーディルが伝える。
「ではこうしましょう。マーリド、例のやつを」
「はいご主人様」

マーリドとはアーディルが開発した万能支援型のロボットでランプ型の機械から実体化するロボットだ。
氏康たちはランプの巨人とそれを呼んでいる。

マーリドは何かを作りだしアーディルはそれを受け取った。そしてサイードの腕にそれを巻き付けた。
それはリストバンドの様な物だった。
「何かの縁ですし、まずは1年間この赤獅子国で技術的な奉仕をしてください。逃亡を図った場合、もしくはそのバンドを外そうとした場合、爆発します」
「はあ? 何言ってるんだこの小僧は、どうゆう教育を受けて来たんだ」
お前がほったらかしにしたからだよ、という一同の突っ込みが再び心の中で行われた。
「言っておきますが、あなたのアヌビスの力を使ってもこのリストバンドは外せませんからね」
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