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対面9

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俺たちは地上へと続く暗い階段をゆっくりと昇っていった。オーリィは力の使いすぎでヘナヘナなので俺がおんぶしている。
「・・・ちょっといい?」
シルバが口を開いた。なんだか声のトーンが低い。
「あたしがムダックに刺された傷・・・治したの救護班じゃなくてオーリィでしょ?」
ギクッ。そういえばダンドンに頼んで秘密にしてもらってたんだった。
聖女と同じ"センス"を持ってるなんて知れ渡ったらろくなことにならないからな。
「やっぱりね。傷跡が残らなかったし、おかしいと思ってたのよ。まさかあんな奇跡みたいなことしてもらってたなんて・・・なんで教えてくれなかったのよ!」
シルバが俺の腕を小突く。オーリィが落ちる、オーリィが。
「・・・二度と"治癒のセンス"は使わせないつもりだった。それだけだ。」
「・・・・・」
俺の言葉の意味を理解したのか、してないのか、シルバはそれ以上何も聞いてこなかった。ただ、階段を昇る足音に紛れて、「ありがとう」と聴こえた気がした。

階段を登りきり、ペットショップへと戻ってきた。とにかくヘトヘトだ。一刻も早く宿へ戻ろう。
建物の外へ出ようと扉を開けた。
「お疲れ様です。」
目の前の光景に背筋が凍った。
そこにはローブを着た男、ギザと対面した。
そしてギザは両手から何かをぶら下げていた。
その"何か"を脳が理解するまで時間がかかった。
ギザは右手でソビトの首を、左手でナショアの首を掴んでぶら下げていた。
「うああああああ!!」
シルバが短刀を抜き、ギザに斬り掛かる。
しかし、襲いかかるシルバを前に、ギザはフッと姿を消した。
「どうやってこの女を人間の姿に戻したのか気になりますが・・・」
どこからかギザの声がする。俺たちは周囲を見回し、警戒した。
「あそこだ!」
オーリィがペットショップの屋根の上を指さした。そこにはナショアの首をブラブラさせながら俺たちを見下ろすギザの姿があった。
いつの間に・・・いや、間違いない。こいつの"センス"は転移・・・"瞬間移動"だ!
「私の計画ではこの女があなた方を殺し、この町を破滅させて、私はソビトの研究内容を手に入れて万々歳~、の予定だったんですが・・・まぁいいです。最低限の目的は果たしましたから。」
そう言ってギザはソビトの首を持ち上げ、頬ずりして見せた。
「こっちの頭の中には研究内容が。そしてこっちの頭の中には、どうやって"あの状態"から人間に戻れたかの情報が詰まってますからねぇ。どうやらあなた方も"センス"があるようなので、無駄な争いは避けさせてもらいます。」
どういうことだ?ギザは"治癒のセンス"には気づいていない。なのにオーリィがセンス持ちなのはわかった??
その時、俺の背中にいたオーリィがギザに向けて素早く矢を放った。
しかし、オーリィの放った瞬速の矢は虚しく暗い空へと消えていった。
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