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対面8

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迫るソビトにナショアは当然の如く牙を剥いた。
ソビトの肩口に食らいつき、両脇腹にいびつな指が突き刺さった。
「ガフッ・・・!」
ソビトは吐血しながらも、震える手で注射針をナショアの首筋に突き刺した。そして薬が注入された。
「今だ!オーリィ!」
俺が叫ぶと同時に、オーリィが素早くナショアに駆け寄る。そして目を見開き、ナショアに手を触れ、"治癒のセンス"を使った。
効果が出るかどうかはわからなかった。俺もただの思いつきを口にしただけだったから。だが、驚くべきことに"治癒"の効果はハッキリと見た目に現れたのだ。
ドロドロにただれた皮膚は青白い肌へと変わり、潰れた目も耳も鼻も人間のそれへと形を成していった。
オーリィが"治癒のセンス"を発動して15秒も経つと、ナショアはすっかり金髪美女へと変貌を遂げていた。
「やったな!オーリィ!」
「次っ!」
顔をほころばせた俺とは違い、オーリィは今だ顔を険しく、次はソビトに"治癒"を施し始めた。そういや、ソビトは生きてるのだろうか。
そんな心配も杞憂に終わり、ソビトの怪我もバッチリ完治したのだった。
「う・・・私は・・・?」
「よかったな。オーリィが治してくれたぞ。」
俺はソビトの横に膝をつき、彼の肩をポンと叩いた。
「・・・妻は!?ナショアはどうなりましたか!?」
ソビトのその言葉に、俺たち3人は床に横になっているナショアに黙って目線を送った。ソビトは今のナショアの姿を見て、飛び起きて駆け寄った。
「おおっ!!ナショア!昔の美しい姿に・・・ナショア?」
ソビトは人体研究者だ。すぐにわかったのだろう。
「ごめん・・・治したんだけど、その後すぐに・・・」
オーリィがうなだれる。人間の姿に戻ったナショアは・・・息をしていなかった。
ソビトは膝から崩れ落ち、泣き叫ぶでもなく、ナショアの亡骸の横でただ小刻みに身体を震わせていた。俺たちは何も言えず、それをただ見ていた。
そしてしばらくして、ソビトがようやく口を開いた。
「・・・オーリィさん、と言いましたね。ありがとう。ナショアが元の姿に戻って、人間として逝くことができたのはあなたのおかげです。あの日、薬を使った時に、ナショアは既に死んでいたのでしょう。」
ソビトがグッと唇を噛んだ。
「私はこれから命を弄んだ罪を償って生きていこうと思います。だから・・・」
そう言うとソビトの頬を一筋の涙が流れた。
「今だけは・・・2人きりにしていただけませんか・・・。」
俺たちは無言で研究室を出た。おそらくソビトはもう不老不死の研究はしないだろう。しかしここまでの成果を上げた研究内容は、きっと各国に狙われるだろう。ベールウール国は研究を続けさせたいだろうし・・・やはり王国で保護するのが1番いい気がする。

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