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シルバを連れてこい10

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「は、はい。ではお言葉に甘えて・・・古い話になるけれど、私とミルは東の小国アスランテの出身で、幼い頃から貧しい暮らしをしていたの。」
アスランテは王国とは隣接していない国で、財政難の小国と聞いたことがある。
「3年前のある日、一家が食っていくのも困難になり、食い扶持を減らすためにミルを養子に出すこととなったわ。ミルの養父母はとても優しく裕福な方だったので、とても幸せだったと思う。」
子を養子に出すのはさほど珍しいことじゃない。世界は貧困に喘いでいるのだ。
「ところが2年前、ミルの養父母と連絡が取れなくなってしまった。私は心配になって、養父母の家に向かったわ。するとそこには誰もいなく、近所の人に話を聞くと強盗に襲われて養父母は殺された、と。」
「そして、ミルは人買いに?」
ニエ団長が神妙な面持ちで聞く。
「はい。独自に調べたところ、ムダックの組織が買い取ったらしいという情報を得またわ。ムダックはゴルディア王国西地区で何度か目撃情報があったので、私は西地区の保安部隊の募集に応募した。そして記録管理官として仕事しながら、ムダックの足跡を追ったのよ。」
なるほど。保安兵だと誰かとグループで動くことが多かっただろうが、記録管理官なら1人で行動する時間も多かったはずだ。
「そして1年前・・・私はムダックと対面した。妹はどこにいるのか問いただした。すると奴は、"あれは上玉だから、目の病気を治してから売る予定だ"と。妹はムダックの元に来る間に病気に掛かっていたのです。お抱えの医者が言うには目の病気が完治するまで1年掛かる・・・今ムダックを捕まえても妹の居場所は吐かない、だから私は・・・」
「ムダックに取引を持ちかけた。」
俺はポロッと言葉をこぼしてしまった。
「そう。奴は1年後のオークションに参加する権利を私にくれたわ。そこで"真っ当に"落札すれば妹は売ってくれるってこと。その日から私は金の亡者になったわ。悪人から金を搾り取り、同僚から金を巻き上げ、身体を売り、金目のものを盗んだ。」
シルバの評判が悪いのはそういうことか。
「ムダックは"最低1000万"と言った。じゃあ倍は稼がなきゃって、ガムシャラに金を集めた。でもオークションの日・・・そこにはムダックも妹もいなかった!」
シルバは拳をブルブルと震えるほど強く握っていた。爪が皮膚にくい込み、血が滴った。
「おそらく保安部隊の作戦がどこからか漏れたのでしょう。ムダックは目玉商品だけ連れて逃げる予定だったはずです。」
ニエ団長の言葉にシルバは震えていた。彼女がどんな1年を過ごしてきたか、常人には計り知れないだろう。
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