30 / 46
第29話 ダメってことは……
しおりを挟む
前菜が終わると、『本日のパスタ』と称するパスタ料理が運ばれてきた。
それを見て、大卒内定者四人が目を丸くする。
巨大なボウル型の皿が三つ。
それぞれ、
「サーモンとほうれん草のクリームソーススパゲティ」
「バジルのジェノベーゼスパゲティ」
「挽き肉と赤ワインのトマトソースペンネ」
であり、どれも、これでもかというほど盛られている。
まるで巨大な三つの山だ。
横に置かれた取り皿が醤油皿のような小ささに見えてしまうほどだった。
「え? なんか量が異様に多いんだけど。ウケる」
「僕もいっぱい食べるほうだけど、これはちょっと」
コイケさんとカミナリくんがそんな突っ込みをしている。
これはもちろんダイチ対策のため、あらかじめ私が店にお願いしていたものだ。
「うん。ダイチくんがいっぱい食べるからね。これでも足りないかも」
私のその言葉に、全員が彼に注目した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
途中、ダイチくんの希望で取り皿を大きいものに変更してもらった。
そして結局、彼が八割ほどを食べ、見事にパスタは完食となった。
彼はもちろん平気な顔。
そして続いて出された魚料理や肉料理もペロッと平らげてしまう。
「すごい! すごいよ!」
大絶賛したのは、おデブさん体系のカミナリくん。
年齢的にお酒が飲めないダイチくん以外は、もうみんなアルコールも回ってきている。
そのせいか、私に会社のことや仕事のことを聞いてくることもなくなり。
ほぼ学生の飲み会のようなノリになっていった。
そして唯一素面のダイチくんは。
ちょうど正面に座っている婚約破棄のコイケさんに絡まれていた。
「ねえねえ、ダイチくんは彼女いるのぉー?」
な、なんちゅー質問を。
ホラ。戸惑っているじゃないの。
いや、でもよくぞ聞いてくれたという感じもあるかな?
私からは気になったとしても聞けないし。
「いえ、いませんが」
「好みのタイプとかあるの?」
すごい突っ込むなあ。
そう思いながらも、私は聴き逃すまいと耳をダンボにした。
「好み、ですか」
「年上年下とかっ」
「年上、ですね」
「胸は大きい方がいいの?」
「ま、まあ……」
いや、それは律儀に答えなくてもいいんじゃないの?
ちょっと逆セクハラ気味よ?
ダイチくん赤くなっちゃってるし。
ここは私が盾になって、青少年をしっかり守らなきゃ。
「コイケさん。そういうのはあまりしつこく突っ込んでいくのはダメだよー?」
「えー、でもダイチくんがフリーだったら私が貰っちゃおうかなってっ」
――!?
ぬわにぃー?
婚約破棄は同情するけれども……それは許さん。
「あら。彼女はいないけど、好きな人はいるかもしれないじゃないの?」
「あははっ、それもそうですよね。
あ! もしかして。年上で胸大きい人が好みって……ダイチくんはアオイさんが好きなの?」
私はグラスワイン飲んでいたが、盛大に吹いた。
隣でダイチくんもハーブティーを吹いて咳き込んでいる。
「ちょ、いきなり何を言うの――」
「だって今日ずっと仲良さそうだったじゃないですか~」
笑いながらからかってくるコイケさん。
他の大卒組三人も、私とダイチくんを見て笑っている。
思わずダイチくんのほうを向く私。
彼もこっちを見てきたので、目が合ってしまった。
そして両者ともプイっと逸らしてしまう。
「い、いやそれはちょっと色々あって――」
「あれ、やっぱりもう付き合ってたりですぅ~?」
「いや本当に違うよ!?」
「本当ですかぁ?」
「本当!」
「じゃあ貰おうかな?」
「ダメ!」
「違うのにダメなんです?」
「ふぇ? え? あっ?」
私が慌てていると、ニヤッと笑うコイケさん。
「ふーん。なんか煮え切らない感じですねぇ~。
よーし。じゃあ、こうしましょう! 飲み負けたら私おとなしく引き下がります!」
こんにゃろー、無礼講をいいことに楽しそうに挑発しおって。
飲みまくってくれるわ。
「店員さん~もっとワインお願いします~」
「え、アオイさんって、いっぱい飲めるんでしたっけ?」
「飲めないけどいっぱい飲むよ~!」
不安そうに聞いてきたダイチくんを一蹴して!
ひたすら!
飲む!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「うう……。の、飲み過ぎた」
飲み比べに勝って……というかコイケさん全然平気そうだったので、多分勝たせてもらって。
挨拶をして〆て懇親会を終わらせ。
無事に会計を済ませ。
内定者たちと別れて……。
帰る方向が同じダイチくんと、一緒に駅に行き、一緒に電車に乗り。
最寄り駅で、降り。
いちおう、記憶はある。
そう。いちおう。
でも電車に乗っているときから、徐々に全身の血が下がっていくような感じがあった。
貧血を起こしたときの感覚に似ているかもしれない。
降りてからはさらに酷くなり、手足もしびれてきている。
「大丈夫ですか? アオイさん」
「だ、だいじょう……ぶ……」
大丈夫だ、と思いたい。
が、視界も白っぽくなってきた。
もう辺りはすっかり暗いはずなのに、徐々に白っぽくフェードアウト……。
あと数分歩けば、アパートに着くのに。
その前に体が墜落……しそう……。
「アオイさん。肩貸します」
「――!?」
私の左腕が、がしっと掴まれた。
そしてそのまま上に回され……あ、これはダイチくんの首。
私の腕を首に巻いたんだ……。
「ぇえ……でも吐いたら……ヤバいよ? 少し離れたほうが――」
「別にかまいません」
さらにそのまま、今度は私の背中と右わき腹に……
しっかり支えられてホールドされる感じが……。
これは……ダイチくんの右腕と……右手?
不思議な安心感の中、私の意識は途絶えた。
それを見て、大卒内定者四人が目を丸くする。
巨大なボウル型の皿が三つ。
それぞれ、
「サーモンとほうれん草のクリームソーススパゲティ」
「バジルのジェノベーゼスパゲティ」
「挽き肉と赤ワインのトマトソースペンネ」
であり、どれも、これでもかというほど盛られている。
まるで巨大な三つの山だ。
横に置かれた取り皿が醤油皿のような小ささに見えてしまうほどだった。
「え? なんか量が異様に多いんだけど。ウケる」
「僕もいっぱい食べるほうだけど、これはちょっと」
コイケさんとカミナリくんがそんな突っ込みをしている。
これはもちろんダイチ対策のため、あらかじめ私が店にお願いしていたものだ。
「うん。ダイチくんがいっぱい食べるからね。これでも足りないかも」
私のその言葉に、全員が彼に注目した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
途中、ダイチくんの希望で取り皿を大きいものに変更してもらった。
そして結局、彼が八割ほどを食べ、見事にパスタは完食となった。
彼はもちろん平気な顔。
そして続いて出された魚料理や肉料理もペロッと平らげてしまう。
「すごい! すごいよ!」
大絶賛したのは、おデブさん体系のカミナリくん。
年齢的にお酒が飲めないダイチくん以外は、もうみんなアルコールも回ってきている。
そのせいか、私に会社のことや仕事のことを聞いてくることもなくなり。
ほぼ学生の飲み会のようなノリになっていった。
そして唯一素面のダイチくんは。
ちょうど正面に座っている婚約破棄のコイケさんに絡まれていた。
「ねえねえ、ダイチくんは彼女いるのぉー?」
な、なんちゅー質問を。
ホラ。戸惑っているじゃないの。
いや、でもよくぞ聞いてくれたという感じもあるかな?
私からは気になったとしても聞けないし。
「いえ、いませんが」
「好みのタイプとかあるの?」
すごい突っ込むなあ。
そう思いながらも、私は聴き逃すまいと耳をダンボにした。
「好み、ですか」
「年上年下とかっ」
「年上、ですね」
「胸は大きい方がいいの?」
「ま、まあ……」
いや、それは律儀に答えなくてもいいんじゃないの?
ちょっと逆セクハラ気味よ?
ダイチくん赤くなっちゃってるし。
ここは私が盾になって、青少年をしっかり守らなきゃ。
「コイケさん。そういうのはあまりしつこく突っ込んでいくのはダメだよー?」
「えー、でもダイチくんがフリーだったら私が貰っちゃおうかなってっ」
――!?
ぬわにぃー?
婚約破棄は同情するけれども……それは許さん。
「あら。彼女はいないけど、好きな人はいるかもしれないじゃないの?」
「あははっ、それもそうですよね。
あ! もしかして。年上で胸大きい人が好みって……ダイチくんはアオイさんが好きなの?」
私はグラスワイン飲んでいたが、盛大に吹いた。
隣でダイチくんもハーブティーを吹いて咳き込んでいる。
「ちょ、いきなり何を言うの――」
「だって今日ずっと仲良さそうだったじゃないですか~」
笑いながらからかってくるコイケさん。
他の大卒組三人も、私とダイチくんを見て笑っている。
思わずダイチくんのほうを向く私。
彼もこっちを見てきたので、目が合ってしまった。
そして両者ともプイっと逸らしてしまう。
「い、いやそれはちょっと色々あって――」
「あれ、やっぱりもう付き合ってたりですぅ~?」
「いや本当に違うよ!?」
「本当ですかぁ?」
「本当!」
「じゃあ貰おうかな?」
「ダメ!」
「違うのにダメなんです?」
「ふぇ? え? あっ?」
私が慌てていると、ニヤッと笑うコイケさん。
「ふーん。なんか煮え切らない感じですねぇ~。
よーし。じゃあ、こうしましょう! 飲み負けたら私おとなしく引き下がります!」
こんにゃろー、無礼講をいいことに楽しそうに挑発しおって。
飲みまくってくれるわ。
「店員さん~もっとワインお願いします~」
「え、アオイさんって、いっぱい飲めるんでしたっけ?」
「飲めないけどいっぱい飲むよ~!」
不安そうに聞いてきたダイチくんを一蹴して!
ひたすら!
飲む!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「うう……。の、飲み過ぎた」
飲み比べに勝って……というかコイケさん全然平気そうだったので、多分勝たせてもらって。
挨拶をして〆て懇親会を終わらせ。
無事に会計を済ませ。
内定者たちと別れて……。
帰る方向が同じダイチくんと、一緒に駅に行き、一緒に電車に乗り。
最寄り駅で、降り。
いちおう、記憶はある。
そう。いちおう。
でも電車に乗っているときから、徐々に全身の血が下がっていくような感じがあった。
貧血を起こしたときの感覚に似ているかもしれない。
降りてからはさらに酷くなり、手足もしびれてきている。
「大丈夫ですか? アオイさん」
「だ、だいじょう……ぶ……」
大丈夫だ、と思いたい。
が、視界も白っぽくなってきた。
もう辺りはすっかり暗いはずなのに、徐々に白っぽくフェードアウト……。
あと数分歩けば、アパートに着くのに。
その前に体が墜落……しそう……。
「アオイさん。肩貸します」
「――!?」
私の左腕が、がしっと掴まれた。
そしてそのまま上に回され……あ、これはダイチくんの首。
私の腕を首に巻いたんだ……。
「ぇえ……でも吐いたら……ヤバいよ? 少し離れたほうが――」
「別にかまいません」
さらにそのまま、今度は私の背中と右わき腹に……
しっかり支えられてホールドされる感じが……。
これは……ダイチくんの右腕と……右手?
不思議な安心感の中、私の意識は途絶えた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる