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第11話 やっぱり、喜んでる
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うちの会社の本社が入っているビルから、すぐ近く。
歩いて三分ほどのところ。
四十階建ての、とても大きなビルがある。
私とダイチくんが二人でやってきたのは、そのビルの一階にあるイタリア料理の店だ。
ランチは千円。パスタ大盛り無料。サラダバーにドリンクバー付き。
すでにダイチくんが大食漢であることは判明している。
ここなら、彼の胃袋とのマッチングは二重丸。きっと満足させることができるはず。
私はそんな密かな自信を胸に、入店。
よし。まだ時間が早いからすぐに座れそうだ。
人気店なので、少し時間がずれるだけで待ちが発生してしまう。
今日は良いスタートが切れてよかった。
「この店はダイチくん初めて?」
「はい。初めてですよ」
「よっしゃあああっ!」
「?」
総店舗数がさほど多くないとはいえ、この店はチェーン店。
よそで同名の店に入ったことがあるかもしれない、という一抹の不安はあったので安心した。
初体験のほうが私も連れてきた甲斐がある。
席に案内される際に、ドリンクバーやサラダバーのコーナーの前を通ることになる。
後ろをチラッと振り返ると、ダイチくんが並んでいるものを一通り見て「おおっ」というような顔をしていた。
ふふふ、見逃さなかったぞ。
席につくと、私は先にランチメニューをダイチくんに渡した。
すぐに店員さんがスプーン、フォーク、おしぼりを持ってきて、注文を確認してくる。
ランチメニューは少ししか種類がない。
後で店員さんを呼ばなくても、その場で決めることが可能だ。
「俺はカルボナーラで」
「じゃあ私もカルボナーラ」
店員さんはサラダバーについては詳しく説明しなかった。
ここに平日のランチで来るような客は、このあたりの会社で働いている人しかいない。
もう慣れている人が多いため、あまりくどい説明はしないようにしているのだろう。
「あれは……勝手に取りに行っていいんですか?」
店員さんが去ると、ダイチくんは視線をサラダバーに向けた後、私へとそう聞いてくる。
初めて来る人は戸惑って当然だ。
「うん。一緒に行こう!」
ということで、ダイチくんと一緒にサラダバーへ突撃。
「サラダバーなのにケーキもあるんですね」
「ふふふ。ケーキもあるしフルーツもあるしフォカッチャも! この世の全てがあるよ!」
「?」
さァ盛れや!
私は、目を輝かせて皿にサラダを盛っていくダイチくんを眺め……
……って、想像以上にものすっごく山盛りにしてるし!
これ……理科の資料集で見た鐘状火山の形!?
「えっ、すごい量だけど大丈夫なの?」
「はい、大丈夫ですよ?」
近くにいた店員さんが怪訝な顔でこちらを見ている。
サラダバーのコーナーをあらためて見ると、ダイチくんの取り過ぎで一部荒れている。
こんなに盛るのはマナー的によろしくない気がするけど……
……ああでもこれはこれで、どんな風に食べるのか見たい。
悩んだ末に、今回はこのまま食べてもらい、あとでゆっくり注意することにした。
お店に対してはちょっぴり申し訳ない。
ということで、カウンター内にいた長身でチョビ髭の中年男性――
店員さんのリーダーとおぼしき人に対して、「ごめんなさい」という意味でアイコンタクトを取ってみる。
すると向こうは「うむ」という感じでハードボイルドにうなずき、他の店員に「補充しろ」と指示した。
微妙に誤解されてしまったか。
「じゃあ、いただきます」
「さァいただけ!」
「え?」
「あ、いやなんでもない! どうぞ!」
うおおっ、フォークでガツガツ食べてるっ。
本当に私の実家の柴犬のような食べっぷりだと思う。これは凄い。
……って、もうスッカラカンになったし! メインのパスタはまだ当分こないのに。
私はいつものペースで食べているので、パスタ運ばれてくる頃にサラダが片付くだろう。
炭水化物の前にサラダを食べる。血糖値の急激な上昇が抑えられて良いと聞く。
健康を考える上では理にかなっている順番だ。
で、速攻で手が空いてしまったダイチくんは……。
「あの、アオイさん」
「ん? どうしたの?」
「……あれってもう一回取りに行ってもいいんですか?」
「ぷっ」
「?」
もー、こんなの笑うって。
「いいはず! 行ってこいー!」
お店が大変なので、次言われたらさすがに止めよう。
私はそう決意し、今度こそはということで。
お店のリーダーさんに目を合わせ、手のひらを向けて、「もう大丈夫ごめんなさい」の口パクも添えて合図をした。
するとまた「うむ」とうなずき、他の店員に「ギンギラギンに補充しろ」と指示している。
なんで通じないの。
今度はフォカッチャ山盛りに、ケーキとフルーツも搭載。
またガッツガツと食べていく。
これ、メインのパスタは胃袋に入るのかしら? そう思っていたけど。
「ここのサラダバー、おいしいのばかりです」
そう言うダイチくんは、別に苦しそうでもなく、無理して食べている感じもない。
いたって普通の様子だ。
「お待たせしました。メインのパスタです」
そしてカルボナーラも一瞬で消えた。
「パスタ……おかわり頼んでいいですか?」
――!?
「ぷぷっ」
「?」
だめだ笑いが止まらない。
「いいよ! 世界中からデュラム小麦のセモリナがなくなるくらいの勢いで食べて!」
歩いて三分ほどのところ。
四十階建ての、とても大きなビルがある。
私とダイチくんが二人でやってきたのは、そのビルの一階にあるイタリア料理の店だ。
ランチは千円。パスタ大盛り無料。サラダバーにドリンクバー付き。
すでにダイチくんが大食漢であることは判明している。
ここなら、彼の胃袋とのマッチングは二重丸。きっと満足させることができるはず。
私はそんな密かな自信を胸に、入店。
よし。まだ時間が早いからすぐに座れそうだ。
人気店なので、少し時間がずれるだけで待ちが発生してしまう。
今日は良いスタートが切れてよかった。
「この店はダイチくん初めて?」
「はい。初めてですよ」
「よっしゃあああっ!」
「?」
総店舗数がさほど多くないとはいえ、この店はチェーン店。
よそで同名の店に入ったことがあるかもしれない、という一抹の不安はあったので安心した。
初体験のほうが私も連れてきた甲斐がある。
席に案内される際に、ドリンクバーやサラダバーのコーナーの前を通ることになる。
後ろをチラッと振り返ると、ダイチくんが並んでいるものを一通り見て「おおっ」というような顔をしていた。
ふふふ、見逃さなかったぞ。
席につくと、私は先にランチメニューをダイチくんに渡した。
すぐに店員さんがスプーン、フォーク、おしぼりを持ってきて、注文を確認してくる。
ランチメニューは少ししか種類がない。
後で店員さんを呼ばなくても、その場で決めることが可能だ。
「俺はカルボナーラで」
「じゃあ私もカルボナーラ」
店員さんはサラダバーについては詳しく説明しなかった。
ここに平日のランチで来るような客は、このあたりの会社で働いている人しかいない。
もう慣れている人が多いため、あまりくどい説明はしないようにしているのだろう。
「あれは……勝手に取りに行っていいんですか?」
店員さんが去ると、ダイチくんは視線をサラダバーに向けた後、私へとそう聞いてくる。
初めて来る人は戸惑って当然だ。
「うん。一緒に行こう!」
ということで、ダイチくんと一緒にサラダバーへ突撃。
「サラダバーなのにケーキもあるんですね」
「ふふふ。ケーキもあるしフルーツもあるしフォカッチャも! この世の全てがあるよ!」
「?」
さァ盛れや!
私は、目を輝かせて皿にサラダを盛っていくダイチくんを眺め……
……って、想像以上にものすっごく山盛りにしてるし!
これ……理科の資料集で見た鐘状火山の形!?
「えっ、すごい量だけど大丈夫なの?」
「はい、大丈夫ですよ?」
近くにいた店員さんが怪訝な顔でこちらを見ている。
サラダバーのコーナーをあらためて見ると、ダイチくんの取り過ぎで一部荒れている。
こんなに盛るのはマナー的によろしくない気がするけど……
……ああでもこれはこれで、どんな風に食べるのか見たい。
悩んだ末に、今回はこのまま食べてもらい、あとでゆっくり注意することにした。
お店に対してはちょっぴり申し訳ない。
ということで、カウンター内にいた長身でチョビ髭の中年男性――
店員さんのリーダーとおぼしき人に対して、「ごめんなさい」という意味でアイコンタクトを取ってみる。
すると向こうは「うむ」という感じでハードボイルドにうなずき、他の店員に「補充しろ」と指示した。
微妙に誤解されてしまったか。
「じゃあ、いただきます」
「さァいただけ!」
「え?」
「あ、いやなんでもない! どうぞ!」
うおおっ、フォークでガツガツ食べてるっ。
本当に私の実家の柴犬のような食べっぷりだと思う。これは凄い。
……って、もうスッカラカンになったし! メインのパスタはまだ当分こないのに。
私はいつものペースで食べているので、パスタ運ばれてくる頃にサラダが片付くだろう。
炭水化物の前にサラダを食べる。血糖値の急激な上昇が抑えられて良いと聞く。
健康を考える上では理にかなっている順番だ。
で、速攻で手が空いてしまったダイチくんは……。
「あの、アオイさん」
「ん? どうしたの?」
「……あれってもう一回取りに行ってもいいんですか?」
「ぷっ」
「?」
もー、こんなの笑うって。
「いいはず! 行ってこいー!」
お店が大変なので、次言われたらさすがに止めよう。
私はそう決意し、今度こそはということで。
お店のリーダーさんに目を合わせ、手のひらを向けて、「もう大丈夫ごめんなさい」の口パクも添えて合図をした。
するとまた「うむ」とうなずき、他の店員に「ギンギラギンに補充しろ」と指示している。
なんで通じないの。
今度はフォカッチャ山盛りに、ケーキとフルーツも搭載。
またガッツガツと食べていく。
これ、メインのパスタは胃袋に入るのかしら? そう思っていたけど。
「ここのサラダバー、おいしいのばかりです」
そう言うダイチくんは、別に苦しそうでもなく、無理して食べている感じもない。
いたって普通の様子だ。
「お待たせしました。メインのパスタです」
そしてカルボナーラも一瞬で消えた。
「パスタ……おかわり頼んでいいですか?」
――!?
「ぷぷっ」
「?」
だめだ笑いが止まらない。
「いいよ! 世界中からデュラム小麦のセモリナがなくなるくらいの勢いで食べて!」
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