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第4話
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薬師寺くんの家は、建物自体は普通だった。
普通でなかった点は、周りに広い畑があったこと。兼業農家らしい。
ぼくは彼の部屋で、テレビに向かってあぐら座り。
格闘ゲームをすすめられ、なぜかそれを一人で始めることに。
彼はというと、ぼくの横でそれを見ていた。
普通は格ゲーなら対戦でもするものだと思うけど、どうやらその気はないようだった。
学校でも昼休みはいつもクラスメイトとサッカーをして遊んでいるようだし、ゲームはあまり好きではないのかもしれない。
ちなみに、彼の私服姿は初めて見た。
校舎では制服姿、テニスコートでは体操服姿しか見られないので、新鮮だった。
赤いTシャツと白のハーフパンツは、彼のきれいな褐色肌や黒髪によく似合っている。やっぱりまぶしかった。
ぼくはボーダー柄のTシャツと緑のハーフパンツを着ているけど、たぶん彼ほど似合っていない。うらやましい。
「いきなり誘って悪かったな」
そしてそんなことを言いだすので、ぼくの心臓が跳ねる。
「えっ? あっ、ううん。全然悪くないというか。うん。ありがとう誘ってくれて」
チラッと横を見ると、彼は笑っていた。
やっぱりまぶしい。でもじっとは見ていられなくて、すぐ画面に目を戻してしまう。
「学校だとなかなか一対一になれないしさ」
「そ、そうだね」
「仲良くなれって先生にも言われただろ? だから仲良くしようぜ」
一対一なら、お互いで話すしかない。そんな状況を作るために彼がぼくを誘ったようだ。
なるほど、という感じだ。
行動力のありそうな彼らしいアイディアだ、と思った。
会話が続かない。
会話がないわけじゃない。
彼がしゃべって、ぼくがうまくそれを広げられなくて、沈黙に戻る。その繰り返しだった。
「……」
「……」
そのうち彼から話を振ってこなくなって、沈黙が続いてしまう。
とうとう彼はあきらめた、つまりぼくは見限られたのかもしれない、と思った。
でも、そうじゃなかった。
あぐらが疲れてきたので、ぼくが体育座りに姿勢を変えると――。
横にいた彼が、ぼくの後ろに回って。
座りながら、ぼくの体を後ろからギュッと抱えた。
「――!?」
ぼくの首に、彼の頬が。
ぼくの背中に、彼の胸と腹が。
ぼくのおなかに、後ろから回された彼の腕と手が。
立てた膝の下に、彼の両足の裏があった。
彼は後ろからぼくに抱きついてあぐら座りをするようなかたちになっていた。
本当に、びっくりした。
そして少し、いや、だいぶ恥ずかしかった。
でも同時に、これを振りほどいたり逃げたりすることは許されない気がした。
バクバク言っている心臓が破裂したとしても、このままでいたほうがいい気がした。
「……」
温かかった。
前に肩を組まれたときにも少し思ったけど、なんだか甘くていい匂いがする。
頭がクラクラした。
意識が飛びそうになったけど、なんとか踏みとどまった。
(続く)
普通でなかった点は、周りに広い畑があったこと。兼業農家らしい。
ぼくは彼の部屋で、テレビに向かってあぐら座り。
格闘ゲームをすすめられ、なぜかそれを一人で始めることに。
彼はというと、ぼくの横でそれを見ていた。
普通は格ゲーなら対戦でもするものだと思うけど、どうやらその気はないようだった。
学校でも昼休みはいつもクラスメイトとサッカーをして遊んでいるようだし、ゲームはあまり好きではないのかもしれない。
ちなみに、彼の私服姿は初めて見た。
校舎では制服姿、テニスコートでは体操服姿しか見られないので、新鮮だった。
赤いTシャツと白のハーフパンツは、彼のきれいな褐色肌や黒髪によく似合っている。やっぱりまぶしかった。
ぼくはボーダー柄のTシャツと緑のハーフパンツを着ているけど、たぶん彼ほど似合っていない。うらやましい。
「いきなり誘って悪かったな」
そしてそんなことを言いだすので、ぼくの心臓が跳ねる。
「えっ? あっ、ううん。全然悪くないというか。うん。ありがとう誘ってくれて」
チラッと横を見ると、彼は笑っていた。
やっぱりまぶしい。でもじっとは見ていられなくて、すぐ画面に目を戻してしまう。
「学校だとなかなか一対一になれないしさ」
「そ、そうだね」
「仲良くなれって先生にも言われただろ? だから仲良くしようぜ」
一対一なら、お互いで話すしかない。そんな状況を作るために彼がぼくを誘ったようだ。
なるほど、という感じだ。
行動力のありそうな彼らしいアイディアだ、と思った。
会話が続かない。
会話がないわけじゃない。
彼がしゃべって、ぼくがうまくそれを広げられなくて、沈黙に戻る。その繰り返しだった。
「……」
「……」
そのうち彼から話を振ってこなくなって、沈黙が続いてしまう。
とうとう彼はあきらめた、つまりぼくは見限られたのかもしれない、と思った。
でも、そうじゃなかった。
あぐらが疲れてきたので、ぼくが体育座りに姿勢を変えると――。
横にいた彼が、ぼくの後ろに回って。
座りながら、ぼくの体を後ろからギュッと抱えた。
「――!?」
ぼくの首に、彼の頬が。
ぼくの背中に、彼の胸と腹が。
ぼくのおなかに、後ろから回された彼の腕と手が。
立てた膝の下に、彼の両足の裏があった。
彼は後ろからぼくに抱きついてあぐら座りをするようなかたちになっていた。
本当に、びっくりした。
そして少し、いや、だいぶ恥ずかしかった。
でも同時に、これを振りほどいたり逃げたりすることは許されない気がした。
バクバク言っている心臓が破裂したとしても、このままでいたほうがいい気がした。
「……」
温かかった。
前に肩を組まれたときにも少し思ったけど、なんだか甘くていい匂いがする。
頭がクラクラした。
意識が飛びそうになったけど、なんとか踏みとどまった。
(続く)
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