上 下
32 / 60
第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX

第32話

しおりを挟む
 事務室と放送室を回り、無事に競技と放送を停止させた、ヒーロー支部臨時職員・ワタル。
 残っていた職員の避難を誘導していたところ、遠く――エントランス付近で、ラケットバッグを持った二人の選手を見かけた。

 その片方に、見覚えがあった。エーイチと名乗った短髪の青年だった。
 見ていると、もう片方の選手がエントランスから外に出た。それをエーイチが見送り、内側から大きく手を振っている。

 そして。
 奥の方向に戻ろうとしていた。

 ワタルはそれを見てすぐに走り出していた。

「ちょっと待って!」

 その叫びで、エーイチは気づいたようだ。
 ワタルの顔を見るや否や、慌てて逃げるように加速した……が、足を滑らせて転倒した。

 そこにワタルが飛びかかる。
 彼の背中のラケットバッグに乗り、手際よく腕も押さえつけた。支部でトレーニングを継続しておこなっている成果が出ているようだ。

「君、また現場に戻ろうとしてるんだね?」
「あちゃー、バレたか」

 エーイチは背中の圧に若干苦しそうにしながら、苦笑いをしている。

「この前もそうだったね。どうして危険なところに行こうとするの」
「いやー、ちょっとコートに忘れ物をしちゃってさ」
「コートは今ハヤテ……って言ってもわからないか。ヒーローが獣機と戦ってるだろうからダメだよ。流れ弾に当たったりしたら死んじゃうから」

 あまりの彼の軽いノリに、ついついワタルは押さえこんでいる力が強くなってしまう。

「イテテ……ちょっと、痛いって」
「わかってなさそうだからね。僕らヒーロー支部は、一人の犠牲者も出したくないんだ」
「わ、わかった。わかったって。ちゃんと外に出て行くから」
「ホントかな? じゃあ、僕はこれから守衛室に寄りたいんで、さっさと避難してもらうよ」

 ワタルは押さえつける圧が少しゆるめた。

「隙ありっ」
「あっ」

 スルっとエーイチがワタルの下から抜ける。
 今度はワタルが組み敷かれてしまった。

 そしてあらかじめラケットバッグの中に用意されていたのか、紐を出され、足をきつく縛られてしまった。

「ってことで! じゃあね!」
「あっ、ちょっと……ちょっと待て!!」
「……」

 エーイチが走り出したところで思わずワタルが怒鳴ると、彼の足は一度止まった。
 ただ、振り向くことはなかった。
 首がわずかに下がったように見えただけだ。

 ワタルはその背中に、一転、静かに話しかけた。

「君さ、もしかして――」
「行ってくるね!!」
「あっ」

 ワタルは慌てて紐をほどこうとしたが、エーイチはあっという間に行ってしまった。
 転ばなければ足は速いようだった。



 ◇



「はあ゛ぁッ! ああ゛あッ――――!」 

 ハヤテはついに二回目の射精を迎えた。

「おーし。まだまだいきますよ」

 KCCは右手でなおもハヤテの股間をスーツ越しに包み、揉んでいく。

「あれ、さすがに二回出しちゃうと勃たないですか」
「ぅ……く……」

 柔らかいままのモノをさらに揉む。
 が、やはり少し大きくなるだけで、そこから先の変化はなかった。

 一度手を離すと、腕を組んだ。

「うーん、ダメですか。じゃあそろそろ殺そうかな……あ、そうだ」

 何かを思いついたように、手を叩いた。

「BF-1、いったんヒーローさんを放していいですよ。どうせもう逃げる体力はないでしょうから」
『かしこまりました』

 四肢を拘束していた四本のワイヤーがほどけ、それぞれ肘や膝に格納されていく。
 自由となったハヤテは、一度そのままコート上に崩れ落ちた。
 そしてなんとか膝を立てた彼に対し、KCCは少し距離を取ってから言った。

「そこで、土下座して『お願いします助けてください』って言ってください」
「……は?」

「一度ヒーローの命乞いが聞きたいと思ってたんです。やってくれたら命は助けてあげます。もちろんその後はそちらの組織には帰しませんが……。でも悪いようにはしませんよ。あなたが持ってる内部情報を提供してくれれば、こちらの組織で良い待遇で迎えます」
「だ、誰が……お前らになんか――」
「約束は守りますよ。そもそも、中継もされてない中でヒーローを一人殺したところで大勢に影響はありませんし、特にボクにもメリットはありませんからね。だから見たいなあ。命乞い」
「俺は、そんなことはしない……っ!」

 膝立ちの姿勢から立ち上がるハヤテに対し、KCCは少し首を上げ宙を見た。

「なぜそんなに真面目にヒーロー稼業をするのでしょう。命かけてなんかいいことあります? モチベーションがさっぱりわかりませんね」
「そうしたいと思うからだっ」
「だから、それは、あなたの脳がそう思うように、機械か何かを使って吹きこまれていんでしょう? さっさと堕ちて降参しましょうって」
「死んでもお断りだ!」
「あ、そうですか。末端戦闘員Aは自分の頭で考えることもしないんですね。といいますか、余計なこと考えないように作られてる感じですか? ボクらでいう犬型の雑魚のやつと一緒で」

 KCCが肩をすくめる動作をした。

「じゃあ、望みどおり死んでもらいましょうか。BF-1、ヒーローさんにとどめを――」

 そこまで言いかけたとき。
 スコーンという音とともに、KCCの頭がわずかに横にブレた。

「ぁ?」

 KCCが横を向く。
 その視線の先、コートの出入り口から中に少し入ったところに、ラケットを持っている短髪の青年が立っていた。



(続く)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

義兄に寝取られました

天災
BL
 義兄に寝取られるとは…

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...