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第2部 犯罪者競技の祭典・東京五輪2XXX

第28話

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 有明コロシアムはテニスの国際大会をはじめ、各種スポーツの大きな大会で使われている。今回の五輪のために新築されたものではないが、生で見るのはハヤテにとって初めてのことだった。

 新国立競技場と違い、こちらはエントランスにカメラ以外の防犯設備はなかった。
 もし何かあれば警察と連携のうえで解決――
 ということでワタルも同行していたのだが、何事もなく中に入ることができた。

 ワタルはコロシアムの事務室へと向かったため、ハヤテは一人でコンコースを注意深く進んだ。
 打球音が聞こえた。
 また不審者が侵入しているのにプレーが続行されているのか、と呆れながら、出入り口からスタンド席に入った。

「……」

 コートは青かった。
 一面しかない会場なのだが、コートの外側やスタンド席が広く、想像以上のスケールだった。
 席は例によって誰もいない。どのくらい客がいたのかは定かではないが、すでに避難済みのようだ。
 獣機らしきものも、見える範囲では一体もいない。

 大昔は観客がスタンドに座って直接観ることが主流で、スタジアムは異様な熱気に包まれていたらしい――そうワタルからは聞いていた。
 だが今は、静寂の中で選手二人がボールを打ち合うだけ。
 やはり国立競技場同様、リアルでは無機質な景色だった。

 おこなわれていたラリーが途切れた。
 小さな子供くらいのサイズのボール拾いロボットが動き始めると、ハヤテは素早く、コートサイド席のところまで降りていった。

 コートサイド席は、選手がコートチェンジのときに休むベンチのすぐ後ろにある。
 獣機がいなかったこともあるが、ちょうどボール拾いが終わったようだったので、なんとなくハヤテは席に座ってしまった。

 次のプレーが開始された。
 と同時に、ハヤテは選手の片方が見覚えのある顔であることに気づいた。

(エーイチじゃねーか!)

 声を出してしまうところだった。
 白い帽子を深くかぶっていたため、それまで気づかなかった。

 そして、驚きはそれにとどまらなかった。
 エーイチは相手選手の速いショットに対応し、打ち合いをしていた。フットワークにも無駄がない。
 前に会ったときの鈍臭さなど微塵も感じない動きだった。

 フォアハンド、バックハンドとも、小気味の良いショットを左右に打ち分けるエーイチ。
 ハヤテがそれを見つめていると、先に相手選手が勝負のショットを放った。ストレート方向に放たれたフォアハンドが、エーイチ側のコートに深く刺さる。

「――!?」

 ハヤテは瞠目した。
 エーイチがギリギリ追いついたのである。
 バックハンドでうまく面を作って、返球。それがクロスの深いところに決まり、それに対する相手選手の返球が甘くなった。

 ふらふらとエーイチ側のコートに返ってきたボールは、コート中央、ネット寄りの位置に力なく弾む。
 すると、エーイチは絶妙なタイミングで前足の左足で地面を蹴り、派手なジャンピングフォアハンドをオープンコートに叩き込んだ。

 それがウィナーとなり、ポイントはエーイチのものに。
 ハヤテはまともにテニスの試合を見たことがない。だがそれでもスーパープレイに違いないと思った。

『ゲーム。ジャパン』

 静まり返ったままのコロシアムに、主審ロボットの音声が響く。今のポイントでちょうどエーイチが1ゲームを奪取し、ちょうどコートチェンジで休憩のタイミングとなったようだ。

 コート脇にある休憩用ベンチのほうに、エーイチが戻ってくる。
 そのベンチは、ちょうどハヤテの座っている席の目の前だった。

「あ、きみ!」

 無事だったんだね、よかった――と人懐っこい笑顔で近づいてきた。
 ヒーロースーツを着用しているというだけであればハヤテ以外のヒーローである可能性もあるはずなのだが、彼は完全に中身がハヤテであると決めつけていたようだ。むろん正解であるわけだが。

「あんた、すごいな。めちゃくちゃ動きいいじゃないか」
「ね、やるときはやるでしょ?」
「ああ。びっくりしたぜ」
「ふふふ。だまされてるだまされてる」
「ん?」
「やっぱりきみ、知らなかったんだね」

 クエスチョンマークを頭上に出すハヤテに、エーイチは笑いながら説明してきた。

「今の時代、プロスポーツ選手って基本的に犯罪者の一部がなる職業なわけだけど、みんながみんな運動神経いいとは限らないでしょ? だからプロスポーツ選手になる人は全員、昔にいた選手の動きのデータを使った特殊な補助ロボットで、強制的に昔の選手と同じ動きをさせられるんだ。それを反復させていけば、どんな運動音痴でも体で動きを覚えていって、そのうち近い動きができるようになる」
「そうなのか!? じゃあ、あんたも昔の選手と同じ動きをしてるわけか」
「そうそう。僕は二十一世紀の世界トップレベルだった日本のテニス選手の動きを、補助ロボットで身に着けたんだ。ほとんど同じプレーができているはずだよ」

 ハヤテは一瞬沈黙した。
 そして、「そうか」とだけ答えた。



(続く)
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