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第二章 集う幻魔

第10話 事件の朝

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 ガチャン!
 私は目が覚めた。どこだ、ここ。
 はあ、と野太いため息が聞こえた。
 思い出した。私は、下校中に声をかけられて、そのまま連れていかれたんだ。
 その時に殴られて、気を失ったのか。
 あんな返事するんじゃなかった。今更ながら後悔した。
「おはよう、お嬢ちゃん」
「・・・」
 誘拐犯の言葉に、私は答えなかった。
 気味の悪い笑顔だ。
「寂しいかい?君が助かる術が一つある」
 手を差し伸べて、静かに続ける。
「金をくれ。最低でも1万。この場で。出来なければ・・・判るな?」
 でも、そんなことするもんか。顔をキュッとしかめた。
 そんな私に、犯人は激しく迫ってくる。
「早く!!さあ、渡せ!!!」
 しつこいなあ、もう。
 渡さないっての。
「あんたなんかに、お金は渡さない!」
 精一杯の声を、響くくらいに貼った。
 すると。
「俺の言うことが聞けねえのか!?わざわざ警告したのにいい度胸だ・・・」
 彼が懐から出したのは、キッチンにあるナイフ。
 私はそのナイフという物に、大きな恐怖心を抱いた。
 その鋭い刃が私に向けられ・・・。
「うわあああああ」

「ふわあ、ねむー」
 登校中、私は大きなあくびをした。
 昨日勉強しすぎたせいかな。頭が全然回んないや。
「加奈ー」
 名を呼ばれた。声の主は。
「谷川さ・・・、違った。春」
 一昨日幻魔として、仲間になった春。 
 いつもポジティブで、元気だ。おまけにフレンドリーで、これまであまりかかわることが無かった私とも、今じゃすっかり一緒に登下校するようになっている。
「由紀はどこ?いつも一緒って聞いたけど」
「ああ、今日はもう学校にいるって。当番って言ってた」
「あ、風紀のか」
「そうそ。今日が初めてなんだって」
「確かに。しばらく先輩たちがやってたもんね」
 私の親友・由紀ちゃんは、風紀委員。朝早くにきて、制服のチェックをする、あの委員会だ。 
 昨日のメールでは、『明日が初めての仕事だから、ちょっと心配だよ~』とあった。その言葉に、『小学校の時にしっかりやってたから、きっと大丈ブイよ~』と返した。
 小学校に公民委員というものがあったが、やることは一緒である。え、私服だからやることないって?そういうことではないようだ。例えば、変な着方してないかだとか、ボタンがある服は一個でも外れてないかとか。小学校の方が服装に関して、うるさかった覚えがある。
 下駄箱に着くと、由紀ちゃんが生徒たちに向かって微笑みながら、プリントに何かを書いていた。
「えーと、ほぼ大丈夫だな。あっ、あの人第一ボタン外れてる。それから・・・」
「や。おはよ」
「?あ、加奈、春。おはよう」
 顔を上げて笑ってくれた。やっぱ由紀ちゃんは笑顔がいいなあ。
「どお?調子は」
 私が聞こうとしたことを、春が尋ねた。
「順調だよ。ありがとう」
 それは良かった、と私は言う。上手く出来てれば、安心だ。
 その時だった。
「おーい、ここにいたの」
「「「??」」」
 私達一同の後ろで声がした。振り向いてみる。
 そこには、私と同じくらいの身長(私は152センチ)の子がフツーに立っていた。顔だちも、少しだけ子供の面影がある。スリーウェイには、某有名の電気ネズミのキーホルダーをつけていた。
 その人を見たとき、春の口角が緩むのを見た。
「なーんだ、千代かあ。ごめん、先、着いちゃったわ」
「ずるーい、勝負になってないよー」
「判ったわかった。じゃ、本当の勝負は明日ね」
「やったー」
 なんだか、ものの感じ方が子供みたいで可愛い。仲いいのかな、この二人。へえ、千代ちゃんか。
「勝負ってなに?」
 確かに気になる。由紀ちゃんの言葉に、そうだねと言う。
「ほんとは今日、千代と待ち合わせして、どっちが速く正門をくぐれるか勝負する予定だったんだ」
「自己紹介しなきゃね。私、弓道部&緑化委員の佐々木千代でーす。1年5組だよ」
 あいさつ代わりの握手をする。弓道部員らしく、力がこもっていた。
「近衛さーん。お疲れ様ー。教室戻っていいよー」
 顧問の先生らしき大人が、声をかけてきた。
「お」
「教室入るか」
「うん」
 春が呼びかけ、千代ちゃんが応える。
 いっしょに1年のフロアへ行き、やがてそれぞれのクラスの前で別れた。
 この時私は気づいていなかった。思いもしていなかった。
 まさか千代ちゃんも、運命の仲間の一人だということに・・・。
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