10 / 52
9 知り合い?
しおりを挟む
会社から近いカフェだと、知り合いに会う可能性がある。私と先輩はひと駅分歩いて移動し、少し離れたカフェに入った。
キャラメルラテを先輩に奢ってもらい、二人で奥まった場所の席に座る。事情が事情だけに、自然と先輩と私の声は小さくなった。
「で、どうして御曹子に呼び出されたわけ? 先週から二人のあいだに妙な空気を感じるんだけど」
「そういう甘酸っぱさは無いんですよ……。先輩にはウチの家庭事情を伝えてましたけど、実は私にはまだ隠し事があってですね。絶対に秘密にしてほしいんですが、大丈夫ですか?」
「勿論よ。恩田の過去は旦那にだって秘密にしてる。どこから漏れるか分からないし、あんたも隠したいんでしょ? でも更なる秘密なんて私が聞いてもいいのかな」
「もう黙ってるのがつらいレベルなんですよぉ。誰かに話を聞いてもらわないと爆発しそうなんです」
私はキャラメルラテを飲みながら、副業に関することを洗いざらい話してしまった。人事には見逃してもらっていたことも、それが北条さんにバレて今回の同居に繋がったことも。さらに、母と叔母に大ぼら吹いてしまった事も打ち明けた。悄然と話す私だったが、なぜか先輩は話を聞くほどに目をキラキラさせている。
「なるほどね……! そういう流れだったんだ。いいわね、心くすぐられる展開だわ」
「どこがですかぁ……。自分が馬鹿だった自覚はありますけど、こんな事になるなんて想像もしてませんでした」
うな垂れる私の頭を千穂先輩がよしよしと撫でる。
「恩田の気持ちも分かるけどさ、私としてはやっぱり甘酸っぱいものを期待しちゃうわ。ねぇ、本当に本部長と知り合いじゃないの? インタビューの時からすでに違和感あったけど」
「知り合い……じゃないと思います。だって北条の家って東京にあるんでしょ? 本部長もずっと東京で育ったんじゃないかな」
北条家は本家も分家も東京にあるはずだ。だとしたら、北条さんと私に接点はない。
「恩田は小学校まで京都だっけ。でも本部長の履歴も、大学以降しか明かされてないからな……。もしかしたら子供の頃に京都にいたのかもよ」
「あんなイケメンを忘れるってありえるでしょうか。でも自信ないかも……。中学から人生がガラッと変わっちゃったので、記憶が曖昧になってるんです。むしろつらい時代の方がよく覚えてるかなぁ」
「恩田……。私はあんたの幸せを心から願ってるよ。この際だから、玉の輿も狙ってみたらどう? 絶好のチャンスじゃん。あんたが幸せになっても誰も恨まないと思う」
「千穂せんぱぁい……! ありがとうございます、私は一生先輩について行きます!」
「いや、私じゃなくて御曹子について行きなよ」
涙を浮かべて先輩の腕にすがりついたが、彼女は冷静だった。何でですか。今の私にとっては、得体の知れない御曹子よりも千穂先輩のほうがよっぽど頼りになるのに。
千穂先輩は大真面目な顔で「玉の輿を狙え」と言い、帰っていった。私も駅に向かい、電車に乗って帰宅する。先輩はどうも勘違いしている様子だ。北条さんは私をただの家政婦だと認識しているのだから、玉の輿なんて夢のまた夢である。
不動産屋に退去の連絡をし、古くて狭いアパートの中で荷造りしていると、私と北条さんの差をひしひしと感じた。もう夢なんて見ない。私はただ、堅実に生きていきたいだけなんだから。
キャラメルラテを先輩に奢ってもらい、二人で奥まった場所の席に座る。事情が事情だけに、自然と先輩と私の声は小さくなった。
「で、どうして御曹子に呼び出されたわけ? 先週から二人のあいだに妙な空気を感じるんだけど」
「そういう甘酸っぱさは無いんですよ……。先輩にはウチの家庭事情を伝えてましたけど、実は私にはまだ隠し事があってですね。絶対に秘密にしてほしいんですが、大丈夫ですか?」
「勿論よ。恩田の過去は旦那にだって秘密にしてる。どこから漏れるか分からないし、あんたも隠したいんでしょ? でも更なる秘密なんて私が聞いてもいいのかな」
「もう黙ってるのがつらいレベルなんですよぉ。誰かに話を聞いてもらわないと爆発しそうなんです」
私はキャラメルラテを飲みながら、副業に関することを洗いざらい話してしまった。人事には見逃してもらっていたことも、それが北条さんにバレて今回の同居に繋がったことも。さらに、母と叔母に大ぼら吹いてしまった事も打ち明けた。悄然と話す私だったが、なぜか先輩は話を聞くほどに目をキラキラさせている。
「なるほどね……! そういう流れだったんだ。いいわね、心くすぐられる展開だわ」
「どこがですかぁ……。自分が馬鹿だった自覚はありますけど、こんな事になるなんて想像もしてませんでした」
うな垂れる私の頭を千穂先輩がよしよしと撫でる。
「恩田の気持ちも分かるけどさ、私としてはやっぱり甘酸っぱいものを期待しちゃうわ。ねぇ、本当に本部長と知り合いじゃないの? インタビューの時からすでに違和感あったけど」
「知り合い……じゃないと思います。だって北条の家って東京にあるんでしょ? 本部長もずっと東京で育ったんじゃないかな」
北条家は本家も分家も東京にあるはずだ。だとしたら、北条さんと私に接点はない。
「恩田は小学校まで京都だっけ。でも本部長の履歴も、大学以降しか明かされてないからな……。もしかしたら子供の頃に京都にいたのかもよ」
「あんなイケメンを忘れるってありえるでしょうか。でも自信ないかも……。中学から人生がガラッと変わっちゃったので、記憶が曖昧になってるんです。むしろつらい時代の方がよく覚えてるかなぁ」
「恩田……。私はあんたの幸せを心から願ってるよ。この際だから、玉の輿も狙ってみたらどう? 絶好のチャンスじゃん。あんたが幸せになっても誰も恨まないと思う」
「千穂せんぱぁい……! ありがとうございます、私は一生先輩について行きます!」
「いや、私じゃなくて御曹子について行きなよ」
涙を浮かべて先輩の腕にすがりついたが、彼女は冷静だった。何でですか。今の私にとっては、得体の知れない御曹子よりも千穂先輩のほうがよっぽど頼りになるのに。
千穂先輩は大真面目な顔で「玉の輿を狙え」と言い、帰っていった。私も駅に向かい、電車に乗って帰宅する。先輩はどうも勘違いしている様子だ。北条さんは私をただの家政婦だと認識しているのだから、玉の輿なんて夢のまた夢である。
不動産屋に退去の連絡をし、古くて狭いアパートの中で荷造りしていると、私と北条さんの差をひしひしと感じた。もう夢なんて見ない。私はただ、堅実に生きていきたいだけなんだから。
2
お気に入りに追加
435
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜
湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」
30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。
一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。
「ねぇ。酔っちゃったの………
………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」
一夜のアバンチュールの筈だった。
運命とは時に残酷で甘い………
羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。
覗いて行きませんか?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
・R18の話には※をつけます。
・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。
・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる