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27 サイモン現る
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怪力を手に入れた私の生活には、特に変化がなかった――と言いたいところだが、現実は甘くなかった。少し力を入れただけでペンは折れ、金属製品はぐにゃりと歪み、テーブルを運ぼうとしたら掴んだところにヒビが入り。
「ルシー嬢。申し訳ないですが、テーブルは弁償して頂きますよ」
「す、すみません……」
壊してしまった食堂のテーブルを、私のポケットマネーから弁償することになった。こんな事なら、ドラゴンの目玉なんか触るんじゃなかった。私の平穏な日々を返してよぉ!
机に突っ伏して嘆いていると、誰かがポンと私の肩をたたく。
「ルシー様、ルシー様!」
「殿下とカイラー様がお呼びですよ」
「ささ、お早く」
「へ?」
顔を上げると、アリシア達が椅子にすわる私を取り囲んでいる。彼女たちの顔はなぜかワクワクしており、まるで「告白じゃね?」と早とちりした高校生のようであった。とりあえず違うと思うけど。
誘われるままに廊下に出ると、確かに金と赤のコンビが立っている。うう、金ぴかでまぶしい。
「おはようございます。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「おはよう。実はきみが怪力で困っていると聞いてね。ある人物を紹介したいと思ったんだ」
「ちょっと変な奴だけど、腕は確かだぜ。きっとルシー嬢の助けになるんじゃねーかな」
「はあ」
ふたりが別室に案内するというので、大人しくついて行くことにした。この怪力が何となるなら、ワラにでもすがりたい。溺れる者は何とやらである。
校舎は四階まであるが、金赤のふたりは最上階の一室に私を連れて行った。扉には「魔法研究科」と書かれたプレートが掛けられている。研究室なんてあったのか。
「サイモン、失礼するよ」
ノックのあとに殿下が入り、カイラー、私と続く。室内の壁は本棚で埋めつくされ、机や棚にはよく分からない道具や実験機器がところせましと置いてあった。理系の研究室のような感じだ。
部屋のすみに置かれた机にも怪しげな実験機器があり、誰かが熱心にいじっている。私たちの姿はまったく目に入っていない様子だが、殿下とカイラーは気にすることもなくその人物に近寄った。
「サイモン。ちょっといいかな?」
「……うん? おお、殿下ではないか。カイラーまで! どうしたのだ?」
白衣を着た人物はようやく顔をあげ、私たちの方を見た。髪も瞳も深い海のような色で、細いフレームの眼鏡を掛けている。
確かこの人も攻略対象だったはずだ。いかにもインテリ系な見た目だったので少し覚えている。
「サイモンの力を借りたい人がいるんだ。ガイゼル侯爵家のルシーフェル嬢だよ」
「初めまして。ルシーフェルと申します」
「私はパードム公爵家のサイモンだ。よろしく頼む!」
出たよ、二大公爵家。カイラーのオースティン家とサイモンのチェンバース家だ。これで有名どころは全員そろった訳だね。
「サイモンは幼少時から神童と言われていた人物で、この学園も十歳の頃に卒業しているんだ」
「えっ! それは凄いですね!」
「しかし卒業後も研究のため学園に残り、今は魔法研究のスペシャリストとして名を馳せている。稀代のへんた……天才で」
「……」
今、あきらかに変態って言おうとしたよね。殿下に変態って言われるレベルの人なのか。見た目は冷静そうなインテリお兄さんなのに……。
「サイモン、魔力を吸収する指輪を作っていただろう? あれを一つ、ルシー嬢に渡してほしい」
「ほほう! つまり指輪の力を借りたいほど、強い魔力を持っているというわけだな? よし!」
サイモン氏は机の引き出しを開け、中から二十個ほどの指輪をゴロゴロと出した。形はほぼ同じだが、指輪に嵌められた石の色は様々だ。
「まずはこれから行こうか。魔力を吸収し、石にため込む指輪だ。ため込んだ魔力は後から引き出すことも出来るという、超便利グッズ! 魔力の低い者に指輪を渡せば、魔力の譲渡もできる!」
「説明はもういいから。ルシー嬢、指にはめてみろよ」
「は、はあ」
「ルシー嬢。申し訳ないですが、テーブルは弁償して頂きますよ」
「す、すみません……」
壊してしまった食堂のテーブルを、私のポケットマネーから弁償することになった。こんな事なら、ドラゴンの目玉なんか触るんじゃなかった。私の平穏な日々を返してよぉ!
机に突っ伏して嘆いていると、誰かがポンと私の肩をたたく。
「ルシー様、ルシー様!」
「殿下とカイラー様がお呼びですよ」
「ささ、お早く」
「へ?」
顔を上げると、アリシア達が椅子にすわる私を取り囲んでいる。彼女たちの顔はなぜかワクワクしており、まるで「告白じゃね?」と早とちりした高校生のようであった。とりあえず違うと思うけど。
誘われるままに廊下に出ると、確かに金と赤のコンビが立っている。うう、金ぴかでまぶしい。
「おはようございます。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「おはよう。実はきみが怪力で困っていると聞いてね。ある人物を紹介したいと思ったんだ」
「ちょっと変な奴だけど、腕は確かだぜ。きっとルシー嬢の助けになるんじゃねーかな」
「はあ」
ふたりが別室に案内するというので、大人しくついて行くことにした。この怪力が何となるなら、ワラにでもすがりたい。溺れる者は何とやらである。
校舎は四階まであるが、金赤のふたりは最上階の一室に私を連れて行った。扉には「魔法研究科」と書かれたプレートが掛けられている。研究室なんてあったのか。
「サイモン、失礼するよ」
ノックのあとに殿下が入り、カイラー、私と続く。室内の壁は本棚で埋めつくされ、机や棚にはよく分からない道具や実験機器がところせましと置いてあった。理系の研究室のような感じだ。
部屋のすみに置かれた机にも怪しげな実験機器があり、誰かが熱心にいじっている。私たちの姿はまったく目に入っていない様子だが、殿下とカイラーは気にすることもなくその人物に近寄った。
「サイモン。ちょっといいかな?」
「……うん? おお、殿下ではないか。カイラーまで! どうしたのだ?」
白衣を着た人物はようやく顔をあげ、私たちの方を見た。髪も瞳も深い海のような色で、細いフレームの眼鏡を掛けている。
確かこの人も攻略対象だったはずだ。いかにもインテリ系な見た目だったので少し覚えている。
「サイモンの力を借りたい人がいるんだ。ガイゼル侯爵家のルシーフェル嬢だよ」
「初めまして。ルシーフェルと申します」
「私はパードム公爵家のサイモンだ。よろしく頼む!」
出たよ、二大公爵家。カイラーのオースティン家とサイモンのチェンバース家だ。これで有名どころは全員そろった訳だね。
「サイモンは幼少時から神童と言われていた人物で、この学園も十歳の頃に卒業しているんだ」
「えっ! それは凄いですね!」
「しかし卒業後も研究のため学園に残り、今は魔法研究のスペシャリストとして名を馳せている。稀代のへんた……天才で」
「……」
今、あきらかに変態って言おうとしたよね。殿下に変態って言われるレベルの人なのか。見た目は冷静そうなインテリお兄さんなのに……。
「サイモン、魔力を吸収する指輪を作っていただろう? あれを一つ、ルシー嬢に渡してほしい」
「ほほう! つまり指輪の力を借りたいほど、強い魔力を持っているというわけだな? よし!」
サイモン氏は机の引き出しを開け、中から二十個ほどの指輪をゴロゴロと出した。形はほぼ同じだが、指輪に嵌められた石の色は様々だ。
「まずはこれから行こうか。魔力を吸収し、石にため込む指輪だ。ため込んだ魔力は後から引き出すことも出来るという、超便利グッズ! 魔力の低い者に指輪を渡せば、魔力の譲渡もできる!」
「説明はもういいから。ルシー嬢、指にはめてみろよ」
「は、はあ」
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