上 下
35 / 52

35 皇都へ

しおりを挟む
 ハートンから皇都へは二日かかる。

 私たちは途中の都市で一泊し、翌日も朝から馬車に揺られた。
 日が沈む頃になってようやく皇都ラビロニアへ入り、フェリオスがぽつりと言う。

「ララシーナ。夕日の横にあるのが皇城だ」

「あれが……」

 巨大な城が夕日に照らされ赤く染まっている。白い城壁は真紅に、鋭くとがった塔の先端は漆黒に塗りつぶされ、異様な雰囲気だった。

 なぜか拒絶されているような気がして、思わず体を抱きしめてしまう。
 私が巫女姫だからそう感じるのかも知れない。

 私たちが乗った馬車は城の門をくぐり、分岐点で東側の道に進んだ。荘厳な本宮にくらべ、瀟洒しょうしゃな作りの建物――皇太子宮が見える。

「ようこそお越しくださいました。主に代わり歓迎いたします」

 エントランスに入った私たちを、皇太子の婚約者であるケニーシャ様が出迎えてくれた。
 蜂蜜のような金の髪とアメジスト色の瞳を持つ美女だ。私よりもやや背が高く、しかも胸元も豊かである。正直に言って、羨ましい。

 ケニーシャ様は私たちを別々の客間へ案内した。まだ婚約しているだけなので、部屋を分けてくれたらしい。
 ほっとしたような、残念なような。

「結婚したら同じお部屋ですからね。姫様、元気だしてください」

「べ、別に、がっかりしてるわけじゃないわ!」

 私の失望を感じ取ったカリエが慰めるように言ったが、考えてみたら部屋が別々なのは当たり前だ。皇帝陛下が結婚を認めていないのに、その陛下がいる皇城で私たちが同じ部屋というのはあり得ない。

「私、頑張るわ。結婚を認めていただけるまで、しつこく皇都に居座ってみせる!」

「でもそれだと、お留守番してるイリオン殿下はキツイんじゃないですか?」

「……そうかもね。イリオン様のこと忘れてたわ」

 今回の夜会にはイリオン皇子は不参加である。彼はフェリオスに言われてハートンに残ったので、今ごろ執務室で膨大な書類に囲まれているだろう。
 想像すると確かに可哀相かも。

 フェリオスは夕食の席に現れなかった。皇帝と皇太子に挨拶をしに行ったとのことで、遅くなるから先に休むようにとの事だ。

 ケニーシャ様と同席して夕食をいただいたが、緊張しているためかほとんど味がしない。

 皇太子に認めて欲しいんだから、ケニーシャ様にも認めてもらった方がいいのよね?
 もっとお洒落なドレスを着たほうが良かったかしら。

「ララシーナ様、緊張なさらなくても大丈夫ですよ。陛下が皇太子宮へ来ることはまずありません。今夜はわたくし達だけで、ゆっくりと食事を楽しみましょう」

「はい……!」

 私が陛下に嫌われている事をご存知のようだけど、かと言って軽んじるような発言もなさらない。気遣ってくれている。

 いい人だ……!
 美人で尚かつ性格までいいなんて、すごい事だわ。

 エンヴィードの上位貴族の中から選ばれた、たった一人の妃として相応しい方である。

 すっかり緊張がほぐれた私は、調子にのってデザートまで残さず頂いてしまった。ケニーシャ様に食事のお礼を言って部屋に下がり、湯浴みのあとに寝台へ横になる。

「明日はいよいよ夜会か……。レクアム様にお会いできるかしら」

 今日は会えずじまいだったし、明日こそ挨拶ぐらいはしたい。皇太子だからかなり多忙だろうが、私だって目的を果たさずにハートンへ帰るわけにはいかないのだ。

 フェリオスもイリオンも、なぜか兄である皇太子の容貌を教えてくれない。
 明日の夜会でレクアム様を見つけられるか不安だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

捨てられた王女、銀の王に寵愛されて王妃を目指す

千堂みくま
恋愛
王妃にうとまれ離宮で暮らしてきたアイリス。17歳になったある日、王宮へ呼び出され新王となった男と出会う。男の名はヨシュア。アイリスの父によって殺された先王の遺児であり、彼は「あなたには利用価値がある」と告げ、婚約をしようと持ちかけてきた。一度は婚約を断ったアイリスだったが、自身の目的のために王妃を目指そうと決意する。 ヨシュアとの九年という年齢と経験の差をなんとか埋めようと奮闘するが、王様はなかなか手強くて本心を見せてくれない。彼がアイリスと婚約したのには、なにか秘密があるらしく……?

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

【完】前世で子供が産めなくて悲惨な末路を送ったので、今世では婚約破棄しようとしたら何故か身ごもりました

112
恋愛
前世でマリアは、一人ひっそりと悲惨な最期を迎えた。 なので今度は生き延びるために、婚約破棄を突きつけた。しかし相手のカイルに猛反対され、無理やり床を共にすることに。 前世で子供が出来なかったから、今度も出来ないだろうと思っていたら何故か懐妊し─

聖なる巫女は隣国の王子と真実の愛を誓う

千堂みくま
恋愛
わけあって山村で生きてきた王女セイラには、聖なる巫女という不思議な力があった。何も知らずに暮らしていた彼女だが、ある日突然、敗戦国の姫として敵国に嫁ぐことになってしまう。 夫となった王子は見惚れるような美男子だったが愛情表現が病的で、いつでも妻と一緒にいようとする。重たい愛に疲れてくるセイラ。 彼の愛をかわしたいと思っていたのに、聖の女神は「巫女の使命は夫と真実の愛を誓うこと」などと、とんでもない神託を授けてきた。 女神の力によって王子の過去を知ったセイラは彼を懸命に愛そうとするのだが、王子の心の闇はなかなか深く……。 (過去になろうで公開していた作品です。)

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...