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めでたくエンヴィードのメイド服を手に入れた私は、隣の洗濯場に紛れ込むことにした。
「お手伝いに来ました。よろしくお願いします!」
洗濯するメイドたちに声をかけ、しれっと仕事に混ざる。私の顔を見た人はほとんどいないので、誰もロイツから来た巫女姫だと気づかないようだ。
ああ愉快。
ほっほっほ!
「私、ロイツから来たお姫様に付いて来たんです」
「ああ……巫女姫さまか。国を守るために嫁いで来られたんでしょ。お若いのにしっかりしてらっしゃるわ」
「皇子殿下が大切にしてくださったらいいわねぇ……」
大切にしてもらってないです。
閉じ込められてます。
「皇子殿下ってお好きな人はいないんでしょうか? 姫様は少し気にされてました」
監禁されるぐらいなら、いっそエンヴィードの貴族に嫁いだ方がましだった。
フェリオスだって好きな女性を妻にすればいいのに。
「殿下が大切にされてるのは、今のところ妹姫だけかねぇ。体が弱いってんで、わざわざ郊外に離宮を建てたそうだし。皇都よりもこっちの方が、空気が綺麗なんだってさ」
「へえ~」
あの冷酷皇子に妹さんがおられるとは。
しかも、離宮を建てるほど可愛がっているとは!
「皇女殿下はおいくつなんでしょう?」
「ええとね……確か今年で九つだったかな? 皇子殿下と12離れてると聞いたから、多分あってると思うけど」
12歳も離れてるのか。
だから余計に可愛いんだろうな。
でもお飾りの妻なんかには、会わせてくれないわよね……。
「もう石鹸が無くなりそうですね。新しいのあります?」
「あるけど、あまり使いすぎないようにね。ハートンでは石鹸がすごく貴重で、数が少ないんだよ」
「石鹸が貴重? わりと簡単に作れるのに?」
「あんたの国では簡単だったのかもしれないけどね……。ここでは石鹸を作る会社を貴族が独り占めしてんのさ。だからなかなか流通しないってわけ」
そう言えば馬車の中で、フェリオス皇子も「貴族が利益を独占している」って言ってたな。
ちょっと調べてみようかしら。
夕刻まで働いてから洗濯場を抜け出し、部屋の下に戻った。カリエはずっと窓に張り付いていたのか、私を見るなりすぐに命綱を垂らしてくれる。
腰に命綱を固定して壁を登って部屋に入ると、カリエはなんと泣いていた。
「ごっごめんなさい! なにか怖いことでもあった?」
「な、なにもないです。でも、あの怖い皇子殿下が来られたらどうしようって、ずっと不安で……」
カリエは私のひとつ下、16歳だ。
しかし記憶を取り戻した私の精神年齢はお婆ちゃんなので、まるで孫のような気持ちである。
カリエの頭をよしよしと撫でていると、部屋の外から「夕食です」と声がした。
「カリエ、一緒に食べよう。あなたがいてくれて良かったわ。一人の食事は味気ないもの」
「姫様……! カリエはずっとお傍におります!」
「うん。二人で頑張ろうね」
私はこれからも部屋を脱け出す予定だから、カリエにも耐えてもらう必要がある。
でも洗濯場で聞いた話では皇子が大切にしているのは妹姫だけだし、私のことはほっといてくれるだろう。今も別々に食事をとるぐらい冷え切った関係だ。この部屋に来たりはしないはず。
記憶を取り戻してよかった。
何の記憶もない17歳の娘のままだったら、今の状態には耐えられなかったかもしれない。
敵国に嫁に来て、放置されてるんだから。
「お手伝いに来ました。よろしくお願いします!」
洗濯するメイドたちに声をかけ、しれっと仕事に混ざる。私の顔を見た人はほとんどいないので、誰もロイツから来た巫女姫だと気づかないようだ。
ああ愉快。
ほっほっほ!
「私、ロイツから来たお姫様に付いて来たんです」
「ああ……巫女姫さまか。国を守るために嫁いで来られたんでしょ。お若いのにしっかりしてらっしゃるわ」
「皇子殿下が大切にしてくださったらいいわねぇ……」
大切にしてもらってないです。
閉じ込められてます。
「皇子殿下ってお好きな人はいないんでしょうか? 姫様は少し気にされてました」
監禁されるぐらいなら、いっそエンヴィードの貴族に嫁いだ方がましだった。
フェリオスだって好きな女性を妻にすればいいのに。
「殿下が大切にされてるのは、今のところ妹姫だけかねぇ。体が弱いってんで、わざわざ郊外に離宮を建てたそうだし。皇都よりもこっちの方が、空気が綺麗なんだってさ」
「へえ~」
あの冷酷皇子に妹さんがおられるとは。
しかも、離宮を建てるほど可愛がっているとは!
「皇女殿下はおいくつなんでしょう?」
「ええとね……確か今年で九つだったかな? 皇子殿下と12離れてると聞いたから、多分あってると思うけど」
12歳も離れてるのか。
だから余計に可愛いんだろうな。
でもお飾りの妻なんかには、会わせてくれないわよね……。
「もう石鹸が無くなりそうですね。新しいのあります?」
「あるけど、あまり使いすぎないようにね。ハートンでは石鹸がすごく貴重で、数が少ないんだよ」
「石鹸が貴重? わりと簡単に作れるのに?」
「あんたの国では簡単だったのかもしれないけどね……。ここでは石鹸を作る会社を貴族が独り占めしてんのさ。だからなかなか流通しないってわけ」
そう言えば馬車の中で、フェリオス皇子も「貴族が利益を独占している」って言ってたな。
ちょっと調べてみようかしら。
夕刻まで働いてから洗濯場を抜け出し、部屋の下に戻った。カリエはずっと窓に張り付いていたのか、私を見るなりすぐに命綱を垂らしてくれる。
腰に命綱を固定して壁を登って部屋に入ると、カリエはなんと泣いていた。
「ごっごめんなさい! なにか怖いことでもあった?」
「な、なにもないです。でも、あの怖い皇子殿下が来られたらどうしようって、ずっと不安で……」
カリエは私のひとつ下、16歳だ。
しかし記憶を取り戻した私の精神年齢はお婆ちゃんなので、まるで孫のような気持ちである。
カリエの頭をよしよしと撫でていると、部屋の外から「夕食です」と声がした。
「カリエ、一緒に食べよう。あなたがいてくれて良かったわ。一人の食事は味気ないもの」
「姫様……! カリエはずっとお傍におります!」
「うん。二人で頑張ろうね」
私はこれからも部屋を脱け出す予定だから、カリエにも耐えてもらう必要がある。
でも洗濯場で聞いた話では皇子が大切にしているのは妹姫だけだし、私のことはほっといてくれるだろう。今も別々に食事をとるぐらい冷え切った関係だ。この部屋に来たりはしないはず。
記憶を取り戻してよかった。
何の記憶もない17歳の娘のままだったら、今の状態には耐えられなかったかもしれない。
敵国に嫁に来て、放置されてるんだから。
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