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28 崩れる日常 ※

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 昨夜はいつもと違った趣向でやろうとイグニスが言い出し、協力者であるルルシェは彼の要望を叶えるために指示に従ったのだった。


 イグニスはベッドに腰掛け、湯浴みを終えたルルシェを呼んで乳房を出すようにいう。恥ずかしくてまごついていると勝手に釦を外され、俺の前にしゃがめと命令してきた。

『しゃがむんですか?』

『膝立ちでもいい。今日はおまえのおっぱいを使ってみたい』

『お、おっぱ……』

 まさか王子が“おっぱい”という単語を口にするとは思わず、ルルシェは唖然としていた。その間にイグニスは下穿きの前をくつろげて硬くなったものを取り出し、ルルシェの胸の谷間にずにゅっと差し込んでしまう。

『やぁっ、何して……!』

 赤黒い肉茎が、白い胸の谷間に深々と刺さっている。目の前の光景にルルシェが目を見開いていると、上から気持ち良さそうな声が。

『あー……、柔らかい。ルルシェ、俺のを胸でぎゅっと挟んでくれ』

『う、うぅ……こうですか』

 ルルシェは上体を倒し、乳房を外側から押して雄根を圧迫した。変な感じだ。異物感がすごい。

『そう、そのまま……胸で俺のを擦って、先端を舐めてくれ』

『……!!』

 舐める? 僕がコレの先っぽを舐めるの?

 信じられない思いで顔を上げれば、少年のようにキラキラした瞳でこちらを見ているイグニスと目が合った。何てあどけない顔なんだろうか。これは断りにくい。 

(しょ、しょうがないな……)

 ルルシェは言われた通り、乳房で擦りながら谷間から突き出た先端に唇を寄せた。舌を伸ばしてくぼみを舐めると、青臭い匂いと一緒に苦味が口腔に広がる。

『んっ、んんぅ……』

 苦い。変な味。ツルツルしてて、なめし革みたい……。
 唾液と先走りが混ざり合って、胸の谷間がぬるぬると滑る。思い切って舌を伸ばし、雁首のくびれた部分を舐めるとイグニスが切なそうな声を漏らした。

『はぁッ……ルルシェ……』

 端正な顔に情欲を滲ませ、男の色香を漂わせながらルルシェの紫銀の髪に指を差し込んでくる。

 悦んでるんだ――何故か嬉しくなり、ルルシェは口を大きく開けて亀頭をぱくりと咥えこんだ。頭を撫でていたイグニスの手が一瞬だけ止まる。

 が、すぐに撫でる動きは再開された。まるでそれでいいと褒めるかのように。

『んむぅ、んんっ……ん、んん……』

 唇をすぼませて一生懸命に咥えていると、頭の上から逼迫した呼吸が聞こえてくる。彼が悦んでいると感じるたびに胎の奥が疼き、じゅわりと熱い蜜が溢れて媚肉を潤した。

(ああ、僕……興奮してる……。殿下のを舐めながら、濡らしちゃうなんて……)

 呼吸するたびに雄の匂いが鼻腔に入り込んでくる。怒張の滑らかな舌触り。口の中で脈打つ感触。頭の芯がドロドロに溶けて目眩がする――。

『ッ、もういい……』

 イグニスがルルシェの頭を後ろに引き、ちゅぽんと音がして陰茎が口から抜けた。唾液と先走りで艶やかに光っている。

『はぁ……。顎が疲れました』

 床にへたり込むルルシェをイグニスが抱き上げ、ベッドに寝かせた。

『今夜は後ろからだ』

 低い声が聞こえたかと思うと、うつ伏せにして腰だけ上げる格好にさせられる。疲れたルルシェは顔を枕に埋めていたが、イグニスの声でハッと我に返った。

『……濡れてるな。俺のを舐めて興奮したのか?』

『ちっ、違……!』

『違わないだろ、こんなにトロトロにして。よく頑張ったな。いい子には褒美をあげよう』

 勝手に納得して、花びらを割るように屹立をぐっと押し付けてくる。あとは同じだ。ルルシェが達するまで、熱い剛直で割れ目をしつこく擦られる。

『あっ、あン、くぅ……っ、あっ、あっ、あぁう――っ……!』

 ルルシェが絶頂を迎えた直後にイグニスも分身を引き抜き、蜜口に先端を押し当てて射液を噴出した。熱い白濁が膣口から雌芯へとろりと流れていく。

『ッく……! 本当は、おまえの中に出してしまいたい……』

 耳に唇を寄せて熱っぽく囁かれ、何故か腰がぶるりと震えた。頭の中が蕩けて、ただの女になってイグニスに身を委ねたい衝動に駆られた。

(昨夜は危なかった。このままだと、殿下に流されそうで怖い……)

「ここからスピードを上げるぞ」

「……あ、はいっ」

 昨夜のことを考えている間に街道から土の道に変わり、クロウが勢いよく駆け出す。ルルシェもあとに続いた。

 現場ではアンディとニェーバが懸命に橋を作っていた。数ヶ月たってかなり親密になったようだ。言葉が通じなくても、身ぶり手ぶりで意思疎通している。通じないからこその親密さかもしれない。

 ルルシェとイグニスは少し離れた場所から邪魔にならないように工事を観察した。予定よりも完成は遅れそうだが、大きな問題は発生していないと報告を受け、その場を後にした。

 あの日と同じように天候が徐々に崩れだし、馬に乗っている間にぽつぽつと顔に雨があたる。前を進んでいたイグニスが、以前雨宿りをした大木のほうに移動して行った。今回も木の下で雨をしのごうというのだろう。ルルシェも同じように大木に向かって進む。

「懐かしいな。去年の秋もここで雨宿りをした……あの時はおまえのことを、男だと思っていたけどな」

「まあ、そうでしょうね」

 隙を見せないようにしていたのだから、男だと思われて当然だ。イグニスはあの日のように荷物から布を出し、ルルシェの頭を拭いている。

(だから、ぼさぼさになるって言うのに。また嫌味でも言ってやろうか)

 だがイグニスはルルシェの嫌味を聞く前に、髪のリボンをほどいてしまった。母に散髪してもらった髪は少しずつ伸びてきている。侍従長にでも切ってもらおうかなと考えていると、武骨な手が頬をすりっと撫でた。

 熱を閉じ込めた炎の瞳がルルシェを見ている。なぜだか動けなくて、彼の顔が近づいてくるのを大人しく待っていた。少し冷たい唇がそっと重ねられる。

 彼は何度か角度をかえてキスを繰り返し、最後のキスのあとに髪を結ってくれた。とても丁寧な手つきで、イグニスがルルシェを大切に思っているのがよく分かる。光栄だけど少し複雑な気分だ。

 ふと顔を上げると、大木から離れた所に誰かが立っていた。傘を手に持った女性のようだ。イグニスとルルシェを観察するように見ている。ルルシェはその場に凍りつき、微動だにせず女性を見つめ返した。

 ――まさか、キスするところも見られていた?

 道から外れた森の中だからと油断していた。当然のようにイグニスのキスを受け止めてしまい、今さらながら自覚が足りなかったと悔やまれる。今のルルシェは側近であり、男なのに。

 女性はルルシェたちから視線をはずし遠ざかって行った。彼女の姿が見えなくなってもルルシェは動けず、イグニスから「行くぞ」と声を掛けられるまで呆然としていた。
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