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キュートなSF、悪魔な親友
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「つっ……かれたー」
鹿倉が言って、リビングの隅に引き出物の大きな袋と余興で使用した衣装や小道具の入ったキャリーケースを置くと、いつもの定位置であるソファ前のラグにころんと横になった。
「お疲れー……」
そして田村も、同じ荷物を同じように並べ、ソファの上にごろんと横たわる。
そのまま、二人して黙ったまま死体のように転がっていて。
ソラが二人の死体を鼻で擽りに来たが、構ってもらえないことがわかったのかそのまま水を飲みに行ってしまった。
今日は、二人の同期である笠間の結婚式だった。
笠間は営業部、新婦である深山が経理部ということで、それぞれの部署からの披露宴参列者は大勢いたが、企画部からは二人だけしかいなくて。
ただ、二人はイベント企画のプロである。
ほぼほぼ会社メンバーだけになった二次会において、新郎である笠間と三人で超ハイクオリティな女装を決めると、その姿で某有名三人組女性ユニットのキレキレダンスを一曲丸ごと完コピし、会場の歓声を浴びたのだった。
思えばこの一か月。仕事の合間でダンスを覚え、踊りまくり、深山の友人であるプロのメイクアップアーティストと衣装とメイクの打合せを詰め。ほぼ休み返上で仕上げた完璧な余興で。
終わったと同時に蓄積された疲労がどっとあふれ出たのだ。
「……深山ちゃん、綺麗かったねー」
死体であることに飽きてきた鹿倉が、ぽそ、と口を開いた。
「うん。綺麗だった。笠間、ずっと目尻垂れさがってたし」
普段おとなし目のメイクでいる彼女だったから、ハレの日としての艶やかな姿を見たのは初めてで。
鹿倉がジャケットのポケットからスマホを取り出すと、今日撮った写真のフォルダを開いた。
「ほら……この二人がすっごい幸せそう」
少し体を起こして田村に見せる。
「だねー」
そのフォルダの中には、白いドレスの深山がフラワーシャワーの中で笠間にお姫様抱っこされている写真や、淡いラベンダー色のドレス姿の深山の横で笠間が幸せそうに彼女を見つめていたり。
勿論、新郎新婦と一緒に鹿倉たちもにこやかに笑って並んでいる写真や、深山の友人女性の群れに田村がへらへらと目尻を下げまくっている姿も収められていて。
そんな写真を一枚ずつ送って行くと。
「あ」
「出た」
二人で目を見合わせた。
まさに、ハイクオリティキレキレダンスの動画である。
深山の同僚が鹿倉のスマホで撮影してくれていたのだ。
ひらひらした赤いドレスは、三人とも少しずつデザイン違いになっていて、それぞれに似合うように、高身長の田村にはロングドレス、小さい鹿倉にはミニスカート、笠間にはその中間の丈だけれどドレープをたっぷり使ったふわふわなスカートと、まさにアイドルユニットさながらの衣装で。
式が終わった瞬間から、深山の友人にがっちり捕まえられ、完璧なメイクを施されているからどこからどう見ても「女の子」。
本家のようなハイヒールを履いたらさすがにダンスは無理だということで、三センチヒールの真っ赤なパンプスではあるが、脚にはちゃんとストッキングも履いている。
「メイクしてくれた篠原さんがさ、鹿倉の肌にすげーびっくりしてた」
「え? 何で?」
「男の子にメイクすんのに、ファンデ無しでここまで綺麗なのは初めてだって」
田村が言いながら、鹿倉の頬に触れる。
「そお?」
ふにふにと自分の頬をこねる。特に意識したことはないし、そもそもメイクなんてしたことがないわけで。
「俺、こんなだけど、女装は趣味じゃないからなー。わかんないや」
「でも一番似合ってたの、かぐだよ」
まさに、三人並ぶとそれはもう歴然で。
コテコテに塗ったり描いたりこねくりまわして作った田村と笠間に対し、鹿倉のメイクはつけまつげや口紅を足したくらいで殆ど手がかかっていないのに、どこから見てもしっかりと「女の子」になっていて。
「そいえば。スカート履くと中身まで女の子になるのかなー。笠間のスカート捲ろうとしたら、凄い勢いでキャッとかゆって裾を抑えてたから超笑ったわー」
フリっフリのスカートなんて私生活で目にすることなんてないから、面白がってスカート捲りしようとした鹿倉が、恥ずかしがる笠間を追いかけるという姿を思い出した田村が。
「なんでおまえ、必死で笠間のスカート捲ってんだよ」
「だって、田村のスカートってタイトだったし。腿までスリット入ってるから超エロだし、それ捲るのは勇気がいる」
鹿倉が言うと、田村がけらけら笑った。そして。
「俺らさ、ボクサー派じゃん? 笠間ってトランクス派らしいんだけどさ。ストッキングの下にトランクスはダメって言われたらしくてさ」
「あ、まじで? 知らんかった」
「で。笠間の高校時代の友達がいたじゃん? そいつが遠征組だったから自分の予備パンツあるよってなったんだけど、笠間が“ヤロウの使用済みパンツ履くくらいなら嫁のパンツ履いた方がいい”なんて言い出したから、面白がった深山ちゃんが自分の下着履かせたんだよ。ほら、あの二人あのままホテルのスイート泊だったし」
「なるほど。そりゃ、嫁のパンツをよそのオトコに見せるわけにはいかないか」
「そ。だから必死で隠してたの。笠間っち追いかけるおまえ、ちょーおもろかったけど」
暫く思い出して二人で笑っていると。
「かぐのミニスカ、結構評判良かったよ。女子が捲りたいーってきゃあきゃあゆってたし」
「ヤロウのパンチラなんか、誰が喜ぶんだよ」
「少なくとも俺は見たい」
「ばっかじゃねーの?」
「かぐちゃん、もっかい着てみない?」
「着ねーわ。俺、女装趣味ねーつってんじゃん」
「いいじゃん。衣装記念に貰ってんだしさ、せっかくだから楽しもうよー。かぐ、絶対似合ってんだから。俺、もっかいタンノーしたい」
いつになく、強めに推してくる。
実際、本来は“女の子好き”な田村なわけだから、“可愛い女の子”に対して情熱を傾ける気持ちはわからなくもないので。
「……メイクはできねーから、顔はこのまんまだぞ?」
「いいよお。かぐちゃんの顔、好きってゆってんじゃん」
何となく、たまには田村の願望を叶えてやるのもいいかと、鹿倉は引き出物袋の横にあった衣装袋を持って寝室へと向かい、いそいそと着替えた。
田村たちの衣装はワンピースだったが、鹿倉の衣装は上下別れていて、胸の大きく開いたオーガンジーのブラウスのようなものを上から着ると、丈の短いスカートはウエスト部分で幅広のベルトでぎゅっと縛るようになっていて。
細い鹿倉のウエストを強調したかったらしいが、代わりに胸に詰め物をするために下にブラジャーなんてものまで付けさせられ。
ストッキングにしろ、ブラジャーにしろ、当然生まれて初めて身に着けたのだが、こんなにも窮屈なものだとは知らなかった、と鹿倉は世の女の子に敬意を払う。
顔こそ何もしていないけれど、ロングなストレートヘアのウィッグも被ってフル装備になると、
「こんなもんかな?」
と姿見で確認。
我ながら、本家のなんとかちゃんに似てなくもない、なんてくふっと鼻で笑った。
「たーむー。こんな感じ?」
廊下を出、リビングの扉を開けて上半身だけをそっと覗かせた。
「…………」
その姿に、田村が固まる。
「おいおい。可愛いとか何とかゆえよ。こっちは結構恥ずいんだから」
少し赤くなった鹿倉が、口を尖らせながら全身を現すと。
「……すげ」
つかつかと歩み寄ると、そのまま鹿倉を横抱きにした。
「え?」
「めっっっちゃ可愛い!!!」
ぎゅうっと抱きしめながら言うと、そのままソファへとそっと横たわらせる。
「……たむ?」
「やっぱ、おまえの可愛さは異常だわ」
「なにおお?」
ちょっとばかにされてるのかと眉を顰めた鹿倉に、田村がキスをした。
「このまんま、ヤっていい?」
「……中身は俺のままだぞ?」
その声を遮るように、今度は深く口付け舌を潜り込ませる。
ぴちゅぴちゅと音を立てて、お互いに口の中を味わう。
鹿倉も、こんな流れになることはわかっていたから当然異論はない。
流されるだけじゃなく、応えるように舌を絡ませた。それだけでも、息が上がる。熱が、加わる。
田村がスカートの中に手を入れた。
鹿倉が言って、リビングの隅に引き出物の大きな袋と余興で使用した衣装や小道具の入ったキャリーケースを置くと、いつもの定位置であるソファ前のラグにころんと横になった。
「お疲れー……」
そして田村も、同じ荷物を同じように並べ、ソファの上にごろんと横たわる。
そのまま、二人して黙ったまま死体のように転がっていて。
ソラが二人の死体を鼻で擽りに来たが、構ってもらえないことがわかったのかそのまま水を飲みに行ってしまった。
今日は、二人の同期である笠間の結婚式だった。
笠間は営業部、新婦である深山が経理部ということで、それぞれの部署からの披露宴参列者は大勢いたが、企画部からは二人だけしかいなくて。
ただ、二人はイベント企画のプロである。
ほぼほぼ会社メンバーだけになった二次会において、新郎である笠間と三人で超ハイクオリティな女装を決めると、その姿で某有名三人組女性ユニットのキレキレダンスを一曲丸ごと完コピし、会場の歓声を浴びたのだった。
思えばこの一か月。仕事の合間でダンスを覚え、踊りまくり、深山の友人であるプロのメイクアップアーティストと衣装とメイクの打合せを詰め。ほぼ休み返上で仕上げた完璧な余興で。
終わったと同時に蓄積された疲労がどっとあふれ出たのだ。
「……深山ちゃん、綺麗かったねー」
死体であることに飽きてきた鹿倉が、ぽそ、と口を開いた。
「うん。綺麗だった。笠間、ずっと目尻垂れさがってたし」
普段おとなし目のメイクでいる彼女だったから、ハレの日としての艶やかな姿を見たのは初めてで。
鹿倉がジャケットのポケットからスマホを取り出すと、今日撮った写真のフォルダを開いた。
「ほら……この二人がすっごい幸せそう」
少し体を起こして田村に見せる。
「だねー」
そのフォルダの中には、白いドレスの深山がフラワーシャワーの中で笠間にお姫様抱っこされている写真や、淡いラベンダー色のドレス姿の深山の横で笠間が幸せそうに彼女を見つめていたり。
勿論、新郎新婦と一緒に鹿倉たちもにこやかに笑って並んでいる写真や、深山の友人女性の群れに田村がへらへらと目尻を下げまくっている姿も収められていて。
そんな写真を一枚ずつ送って行くと。
「あ」
「出た」
二人で目を見合わせた。
まさに、ハイクオリティキレキレダンスの動画である。
深山の同僚が鹿倉のスマホで撮影してくれていたのだ。
ひらひらした赤いドレスは、三人とも少しずつデザイン違いになっていて、それぞれに似合うように、高身長の田村にはロングドレス、小さい鹿倉にはミニスカート、笠間にはその中間の丈だけれどドレープをたっぷり使ったふわふわなスカートと、まさにアイドルユニットさながらの衣装で。
式が終わった瞬間から、深山の友人にがっちり捕まえられ、完璧なメイクを施されているからどこからどう見ても「女の子」。
本家のようなハイヒールを履いたらさすがにダンスは無理だということで、三センチヒールの真っ赤なパンプスではあるが、脚にはちゃんとストッキングも履いている。
「メイクしてくれた篠原さんがさ、鹿倉の肌にすげーびっくりしてた」
「え? 何で?」
「男の子にメイクすんのに、ファンデ無しでここまで綺麗なのは初めてだって」
田村が言いながら、鹿倉の頬に触れる。
「そお?」
ふにふにと自分の頬をこねる。特に意識したことはないし、そもそもメイクなんてしたことがないわけで。
「俺、こんなだけど、女装は趣味じゃないからなー。わかんないや」
「でも一番似合ってたの、かぐだよ」
まさに、三人並ぶとそれはもう歴然で。
コテコテに塗ったり描いたりこねくりまわして作った田村と笠間に対し、鹿倉のメイクはつけまつげや口紅を足したくらいで殆ど手がかかっていないのに、どこから見てもしっかりと「女の子」になっていて。
「そいえば。スカート履くと中身まで女の子になるのかなー。笠間のスカート捲ろうとしたら、凄い勢いでキャッとかゆって裾を抑えてたから超笑ったわー」
フリっフリのスカートなんて私生活で目にすることなんてないから、面白がってスカート捲りしようとした鹿倉が、恥ずかしがる笠間を追いかけるという姿を思い出した田村が。
「なんでおまえ、必死で笠間のスカート捲ってんだよ」
「だって、田村のスカートってタイトだったし。腿までスリット入ってるから超エロだし、それ捲るのは勇気がいる」
鹿倉が言うと、田村がけらけら笑った。そして。
「俺らさ、ボクサー派じゃん? 笠間ってトランクス派らしいんだけどさ。ストッキングの下にトランクスはダメって言われたらしくてさ」
「あ、まじで? 知らんかった」
「で。笠間の高校時代の友達がいたじゃん? そいつが遠征組だったから自分の予備パンツあるよってなったんだけど、笠間が“ヤロウの使用済みパンツ履くくらいなら嫁のパンツ履いた方がいい”なんて言い出したから、面白がった深山ちゃんが自分の下着履かせたんだよ。ほら、あの二人あのままホテルのスイート泊だったし」
「なるほど。そりゃ、嫁のパンツをよそのオトコに見せるわけにはいかないか」
「そ。だから必死で隠してたの。笠間っち追いかけるおまえ、ちょーおもろかったけど」
暫く思い出して二人で笑っていると。
「かぐのミニスカ、結構評判良かったよ。女子が捲りたいーってきゃあきゃあゆってたし」
「ヤロウのパンチラなんか、誰が喜ぶんだよ」
「少なくとも俺は見たい」
「ばっかじゃねーの?」
「かぐちゃん、もっかい着てみない?」
「着ねーわ。俺、女装趣味ねーつってんじゃん」
「いいじゃん。衣装記念に貰ってんだしさ、せっかくだから楽しもうよー。かぐ、絶対似合ってんだから。俺、もっかいタンノーしたい」
いつになく、強めに推してくる。
実際、本来は“女の子好き”な田村なわけだから、“可愛い女の子”に対して情熱を傾ける気持ちはわからなくもないので。
「……メイクはできねーから、顔はこのまんまだぞ?」
「いいよお。かぐちゃんの顔、好きってゆってんじゃん」
何となく、たまには田村の願望を叶えてやるのもいいかと、鹿倉は引き出物袋の横にあった衣装袋を持って寝室へと向かい、いそいそと着替えた。
田村たちの衣装はワンピースだったが、鹿倉の衣装は上下別れていて、胸の大きく開いたオーガンジーのブラウスのようなものを上から着ると、丈の短いスカートはウエスト部分で幅広のベルトでぎゅっと縛るようになっていて。
細い鹿倉のウエストを強調したかったらしいが、代わりに胸に詰め物をするために下にブラジャーなんてものまで付けさせられ。
ストッキングにしろ、ブラジャーにしろ、当然生まれて初めて身に着けたのだが、こんなにも窮屈なものだとは知らなかった、と鹿倉は世の女の子に敬意を払う。
顔こそ何もしていないけれど、ロングなストレートヘアのウィッグも被ってフル装備になると、
「こんなもんかな?」
と姿見で確認。
我ながら、本家のなんとかちゃんに似てなくもない、なんてくふっと鼻で笑った。
「たーむー。こんな感じ?」
廊下を出、リビングの扉を開けて上半身だけをそっと覗かせた。
「…………」
その姿に、田村が固まる。
「おいおい。可愛いとか何とかゆえよ。こっちは結構恥ずいんだから」
少し赤くなった鹿倉が、口を尖らせながら全身を現すと。
「……すげ」
つかつかと歩み寄ると、そのまま鹿倉を横抱きにした。
「え?」
「めっっっちゃ可愛い!!!」
ぎゅうっと抱きしめながら言うと、そのままソファへとそっと横たわらせる。
「……たむ?」
「やっぱ、おまえの可愛さは異常だわ」
「なにおお?」
ちょっとばかにされてるのかと眉を顰めた鹿倉に、田村がキスをした。
「このまんま、ヤっていい?」
「……中身は俺のままだぞ?」
その声を遮るように、今度は深く口付け舌を潜り込ませる。
ぴちゅぴちゅと音を立てて、お互いに口の中を味わう。
鹿倉も、こんな流れになることはわかっていたから当然異論はない。
流されるだけじゃなく、応えるように舌を絡ませた。それだけでも、息が上がる。熱が、加わる。
田村がスカートの中に手を入れた。
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