キュートなSF、悪魔な親友

月那

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キュートなSF、悪魔な親友

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 田村が通っているトレーニングジムは、会社と自宅マンションの丁度中間辺りにある。
 車で通勤しているから、仕事帰りに寄ることもできるし、がっつり汗をかいた後付属のサウナとシャワーという流れで自宅に帰れば、後は家で軽く夕食を済ませて寝るだけ。ということもできる。
 とは言え、そんなに都合のいい流れで寄れることなんてほとんどなく。
 休日に半日くらい、筋トレしたりバイクやトレッドミルで有酸素運動をして、サウナとシャワーで締めて帰る、というのがいつもの流れになってしまっているのだが。
 その日も、昼食を鹿倉と食べた後、自宅に帰るという鹿倉を見送り、昼過ぎからジムに入っていた。
バーベルを持ち上げたり、ベンチプレスやチェストプレスでひたすら筋トレ。
最近ハマっているのは、背筋を鍛えるマシン。昔から腹筋は日課のようにやっているので、腹だけは大抵いつも割れているのがちょっとした自慢なのではあるが、ちょっと前に堀が着替えている姿を見た時、その背中が意外にごつごつしているのを見てちょっとジェラったのである。
ケーブルマシンや、ローイングバーを使って背中の筋肉をガシガシといじめてると、なんというか、自分でもちょっとやばいんじゃないかというゾーンに入ってきて。
実際、仕事で堀に張り合うのはアリでも、筋肉で堀に張り合うのはちょっと違う気もするし。
近くの椅子で少し休むと、準備していたプロテインドリンクを飲み、軽く自嘲すると大きく深呼吸した。
そろそろ有酸素運動に切り替えようとトレッドミルのマシンに向かっていると、ふいに声をかけられて。
「田村?」
 振り返ると。
「え? 山本っさん?」
 特に会社の近所というわけでもないし、そうそう知り合いに会うことなんて今までになかっただけに、目の前の山本にかなり驚いた。
「何、田村もここ通ってんだ?」
 山本は、年齢は田村の二個上で大差ないが、大手の企業から引き抜かれてやってきたバリバリのエリートで。
 アメリカ人ハーフなせいで――フルネームは山本ジェイコブ律という――、顔立ちはやたらと濃く整っているし、物腰は優雅で更に仕事ができるという完璧超人だと田村は思っているせいか、ちょっと腰が引けてしまう。
 とは言え、バスケをやっていたのもあってそこそこ身長のある田村は、百八十を超える高身長の山本とそんなに目線がずれることもなく。引くこともない、と気持ち体勢を立て直す。
「びっくりしたー。一年前くらいから通ってるけど、知り合いに会うの初めてっス」
「俺も俺も。半年くらいかなー? ここ、年中無休だし二十四時間営業だから通いやすいなーと思って」
「ですです」
「俺、あと一時間くらい走ったらサウナ行くけど、その後軽く一杯付き合わない?」
「いいっスねー。んじゃ、お互い頑張りましょう」
 言って、山本とは別のマシンと向き合った。
 最近は鹿倉が山本と二人だったり、更に後輩を入れて三人でやっている仕事が多いので、鹿倉がよく山本の名前を出すけれど、自分が二人で組んだことがないのであまり突っ込んで付き合ったことはない。
 ベースの五人でやっているメインの仕事での山本の印象は、ただただデキル男。
 ヘッドハンティング、なんて自分には全くかかわりのない世界だと思って生きてきたけれど、三年前に山本が大手からまさに「ヘッドハンティング」されてやってきたという話を聞いた時はかなり驚いた。
 その噂だけでも驚いていたのに、実際にやってきて目の前に現れた男がまた。
長身に彫の深い端正な顔立ちの青年が入ってきた瞬間、社内の全女性社員の目がハートマークになり、自分みたいにモテない系男子としてはかなり引くような容姿の山本は、どんな男も敗北にひれ伏すしかなく。
それだけかと思えば、実際一緒に仕事をしてみると痒いところに手が届くような気配りや、どこでそんなに繋がってるんだという交友関係で手広く情報を集めてくるキレの良さに、完敗の白旗を上げざるを得ず。
もはや「仲間で良かった」と思う以外の何物でもないわけで。
ライバルなんておこがましいかもしれないけれど、そう思えるくらい自分も仕事がデキル男になってやろうとは、思ってる。
なんたって、課内でも指折りのデキル男である堀を冠しているチームなわけで。業績を上げるチャンスはいくらでもある。あとは努力だけ。
気合を入れなおすと、トレッドミルの速度を上げ、ラストスパートとして十分程走り上げた。
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