affection

月那

文字の大きさ
上 下
48 / 53
消えない想い

消えない想い -4-

しおりを挟む
 確かに。そんな先入観は持っていた。
 高校時代、華の成瀬、艶の篠田、無邪気の入江という、男子の中でも高嶺の花だった三人である。
「でもさ。違うんだよ。成瀬は結構一途なタイプで、ルカのこと入学してからずっと好きだったらしくて。ほら、入江……えっと、妹の方のリコだっけ? あいつが女バスだったろ? で、結構そっから情報仕入れて頑張ってルカに近付こうとしてたらしい」
 入江、そう言えば双子だっけ。深月と一緒のグループにいたのは入江那湖いりえなこで、姉の方だった。確か、双子の割にあまり似てない妹の莉湖りこは女子バスケの副キャプテンをやっていたハズで。男子バスケの副キャプだった坂本はリコとよく話をしていた覚えがある。
「あの三人はさ、華やかな見た目と中身のギャップが激しいらしくて、結構それでつるんでることが多いみたいだよ」
「そっか。女子のそういう話には全然興味がなかったから気付かなかった」
 そして。自分は気付かなかったけれど、坂本はちゃんとそれを理解してやったのだろう。
 人懐こい性格の坂本は、ひとの気持ちにすぐに寄り添ってやれる奴だから。
 篠田がちゃんと“人を見る目”をもって坂本を選んだということが、素直に嬉しいと思う。
「だからさ。成瀬がまたルカに会えて、それからどんどんまた好きになって行ったって気持ちは、わかるんだよ、俺は」
「…………」
「で。頑張って告って、成瀬はまたフられたわけだよ」
「またって」
「成瀬的には高校の時のもフられてるとしか思ってないから」
「…………」
「だから、泣いてたんだよ。泣くしかなかったんだよ」
 泣きながら、深月が篠田に伝えたのだろう。そして、そのまま坂本にも。
「でも俺、まだ忘れられないから」
「だから! それだよ。もう、成瀬とヨリを戻せとは言わないけどさ、いい加減それも忘れろっての」
「そんなに簡単に言うなよ」
「言うさ。だって、相手にされるわけないだろ? あんな美女。しかもどえらい年上なんて」
 きっぱりはっきり言われて、ルカはまた心が痛む。
「俺もさ。ずっと、好きな人、いたよ? 話したろ?」
「うん」
「でもさ。もう結婚して、完全に相手にされないってわかって、それでも想い続けるなんて、無理なんだよ」
「…………」
「いや、無理とかじゃないな。相手にとって迷惑だよ」
 迷惑!
 坂本に言われて、かなりの衝撃が走った。
「そうだろ? しかもお前の場合、ちゃんとお前から告ってはっきりフられてんだろ? したらさ、そのままずっと追いかけるのって、半分ストーカーだぜ?」
「そんな! 俺は迷惑かけるようなこと、何もしてない!」
 会ってない! 会いたいって言ってもない! 
「してなくても。いや、今はまだしてないかもしれないけど、このままずっとグダグダやってて、お前どーするつもりなのさ?」
「……どーも、しないし」
「永久片想い、続けんのかよ?」
「……うん」
 想う、だけ。
 ただ、好きな、だけ。
 それでも、ダメなのかな?
「マジでゆってる?」
「……うん」
 頷いたルカに、坂本は大きくため息を吐いて。もう、手には負えない、とでも言うようにコーラを飲み干した。
「しょーが、ないんだよ」
「何が?」
「だって。彼女が言ったんだ。俺の傍にいるって。成長を見守らせてって」
 何故なら、母だから。
 ゆかりにとっての自分は“息子”だから。
「…………」
「だから。いいんだ。俺は彼女の息子だから。もう、それ以外の何物でもないから」
 呟くような、ぼやくような。
 ルカのその力のこもらない言葉に、坂本は黙って頷いた。
「わかったよ」
「え?」
「もう、どーしよーもないからなー。お前、実はすっげー頑固なの、知ってるし」
「え? 俺って頑固かな?」
「頑固だよ。こう、と決めたら絶対譲らねーし。タクマ先輩の最後の試合だってさ、自分で絶対スリーポイント決めるっつって、絶対譲らなくて」
「あれはだって。俺しか決めれる奴いなかったし」
「ほら! そこだよ! あの時お前まだ二年だったじゃん。三年に回せってみんな言ってるのに、ぜーったい譲らないから」
「…………でも、決めたし」
「はいはい、あん時はお前がちゃんと決めたよ。お前の頑固にみんなが負けたけど、最終的にお前の頑固のお蔭で勝てたんだから」
 懐かしい試合の話。
 でも、そんな話に坂本が持って行ってくれたから。
 もう、ゆかりのことはルカが好きなだけ“好き”でいればいい、と言ってくれているようで。
「しょーがない、お前が燃え尽きて灰になるまで見守っててやるよ。俺しかいねーもんな」
 にやり、と笑った坂本が、嬉しくて。
 もう、先のことは何も見えないけれど、この気持ちがちゃんと昇華されるまで、ただただ、黙って想い続けようと、ルカは心に決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

処理中です...