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 二人がそうやってじゃれているのを、朋樹はただ茫然と見ていることしかできなくて。
 だって毎度のことながら、意味が、わからない。
 
 基本的に人の言葉の表面しか捉えられない自分だってことはちゃんとわかっている。
 逆にこの二人が、言葉の裏側ばかりを読み合って、肝心な部分だけボかして会話して、こっちを翻弄して楽しんでいることだって、勿論わかっているけれど。

「えと……ほのかはさっくんの彼女じゃなくて、キョウさんの、彼女?」
「そ。だからキョウさんは最近俺のいない時間にウチに来ては、ほのか口説いて帰ってくの」
「口説いてねーっつの」
「あーごめんごめん、デートの約束して帰ってくの」
「それもしてない。いい加減なこと言ってんなよな」
「ほんとのことゆってるもーん」
 再びじゃれ合って。
 姉と弟、な二人の関係は可愛いけれど、朋樹にはやっぱりちょっとジェラ。

「じゃあさ、さっくんは? 誰と付き合ってんの? 俺、ちゃんとフったよ?」
「うん、フったねえ。えらかったよ、トモさん。トモさんが朔に応えてたら確実に泣いてる人がいたわけだから。あ、まあ俺もだけどさ」
「だってさっくん、俺に対してちゃんと本気で向き合ってるわけじゃなかったじゃん。俺口説いてるフリして櫂斗とじゃれるのを楽しんでるっぽかったし」

 朋樹の意外な目線に、ほのかが笑う。
「ほほー、それはまた斬新な見方だな」
 櫂斗は眉を顰めて不快な表情を浮かべているが。

「さっくん、だって櫂斗のこと絶対好きだろーなーって思ってた。多分、スキなコイジメて自分に構って欲しいって感じで。だから俺のことダシにしてんだろなって。ね、俺だってちゃんとそーゆー読み、できてるだろ?」
 二人ばっかで楽しんでるのはずるい、とばかりにドヤってみせると。

「ま、あながち間違っちゃーいないと思うよ。だいたいこの店の常連はみんな、櫂斗のこと大好きだからね」
 ほのかがフン、と鼻で笑う。
「それほのかの勘違いだからね、ゆっとくけど。うちの客、基本的にほのか狙いで来てんの。雫ですら、それ気付いてたぜ? いい加減認めろっつの」
「はいはい、勝手に言ってなさいって。看板息子って肩書が重いんだろーけど、それはもうあんたの持って生まれた宿命だと思ってちゃんと背負っときな」
 この件に関しては、二人の意見は絶対にすれ違う。
 お互いに一歩も譲らないから、お互いに“まーたゆってるし”と内心鼻で笑って争いを避ける。

 仕方がないから女将さんが、レジの前で“あなたたちは三人共看板です”とだけ内心主張しておく。

「櫂斗、今日どーすんの? トモくんち?」
 レジ締め作業を終えた母から問われ、
「うん、トモさんちー。明日のバイトまで帰んない」
と答えると、朋樹が「いつもすみません」と頭を下げた。

「あそ。じゃあ二人共店の戸締り確認して、ウチから出てねー。あたし、もう家帰るから後は任せた」
 基本的に休前日は朋樹の家に櫂斗が泊まりに行くのが当たり前になっているので、慣れたものである。
 塾があればちゃんと行っているし、なくても宿題や自学自習は一応やっているのは母もその成績で認めているから、二人の関係に口を出すこともない。

「あれから、連絡あった?」
 ほのかの問に、
「ないねー」すぱん、と答える。
 当然、櫂斗はほのかが何を訊いているのかわかっているし、朋樹にはさっぱりわかっていないわけだが。

「だから多分、上手くいってんだろ」
「あー、ねえ」
「……そーゆーのがムカつくんだってば!」
 朋樹が口を尖らせて、二人で笑った。
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