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「トモさん、おはよお」
日曜日。おうちデート、という日である。
遠足が楽しみで待ちきれない小学生のごとく、櫂斗が朋樹の部屋のインターフォンを鳴らしたのは朝九時だった。
「……どおぞ」
完全に、今起きました、という声でモニタに返事をすると、エントランスを開けてやった朋樹は、
「そいえば、時間指定してなかったな……」
玄関の鍵だけ開けると、洗面所に向かった。
「トモさん、朝飯まだだろ? 一緒に食べようと思ってお弁当作ってきた」
寝起きの朋樹なんて完全想定内。
もへーっとした顔でいる朋樹に、櫂斗はにっこり笑い。
「お味噌汁もあるから。トモさん、二日酔いとかだったりする?」
「……や、そんなになる程は酒飲めねーし。昨夜はバイトの後帰って資料作成して……寝たのが三時だったから」
「そか。じゃあ、とりあえずキッチン借りて準備するから、トモさん顔洗ってきなよ」
そのまま寝かしては、くれねーよなあ。と、朋樹は身支度を軽く整える。
大学生男子の一人暮らしだから、スタンダードに一K。
ワンルームじゃないのは、引っ越した当時彼女がいたから、泊まりに来た彼女が台所に立つことを想定していたわけで。
残念ながらそんな夢は叶うことなく、キッチンは常に飲み物の処理でしか使われていない。
リビング兼寝室は八畳程の部屋で、窓際にベッドとPC用のデスクがあり、入口側にラグを敷いて食卓として小さなテーブルを置き、テレビを観ながらまったりできる空間となっている。
とにかくシンプルな部屋にして、物を置かないようにしているのは、家事なんて殆どしない自分が簡単に片づけや掃除ができるようにするためだ。
朋樹はキッチンの向かい側にあるバスルームで顔を洗い終え、既にキッチンでの作業を済ませて、リビングのテーブルに広げられた朝食に感動した。
なんてデキたお子さんだろう、櫂斗というコは。
トモさんち、行きたい。と言った櫂斗に、どおぞーと軽く返事をしたのは事実で。
そもそもカッコつけるような相手じゃないし、と何も決めないで迎えた当日となってしまったから、じゃあウチで何すんだ? なんて今頃になってぼんやり考える。
「後でさ、一緒にそこのスーパーに買い物行こうよ」
「何か、いる?」
「だって、今見たけどトモさんちの冷蔵庫って飲み物しか入ってねーもん。お昼、何か作ろうと思ってたけど、俺こんな空っぽな冷蔵庫見るの、初めて。家電屋かよって思った」
「まあ、俺料理できねーし」
「うん、炊飯器すらないし。ここまでさっぱりしてると逆に潔いよね」
オンナの影が見えないのが何より嬉しい、なんて櫂斗が呟く。
「櫂斗、料理好きなんだ?」
「特別に好きってわけじゃねーけど、とりあえずトモさんの胃袋は掴んどく方が得策かなーとは思ってる」
「……俺、そのうち櫂斗に食われそーだな」
「ん。食う気満々」
「え」
「はい、こっちが梅入りでこっちが鮭フレーク入り。お味噌汁はー、最近俺新玉ネギ入れるのがマイブームだから、新玉とわかめ。小葱も持ってきたし」
櫂斗はいつも、肝心なギモンを流すから。
朋樹は流されるままに、くるりと海苔を巻いて手渡されたおにぎりを頬張りながら、目の前でにこにこと自分を見つめる少年を見つめ返してみた。
「おいし?」
「ん」
「梅干し、目が覚めるっしょ?」
「ん」
「コレ、食ったら二人でまったりしよーね」
「ん……ん?」
「今日は、トモさんちでまったりおうちデートだから」
「……あの……櫂斗?」
「あ、出掛けたかった? こないだはお出掛けデートだったし、って思ったんだけど。どっか行きたいトコあんなら、全然付き合うよ?」
「じゃなくて」
もう、いつもいつも、不思議で仕方なかったこと。それは。
「櫂斗、俺なんかといて、楽しい?」
日曜日。おうちデート、という日である。
遠足が楽しみで待ちきれない小学生のごとく、櫂斗が朋樹の部屋のインターフォンを鳴らしたのは朝九時だった。
「……どおぞ」
完全に、今起きました、という声でモニタに返事をすると、エントランスを開けてやった朋樹は、
「そいえば、時間指定してなかったな……」
玄関の鍵だけ開けると、洗面所に向かった。
「トモさん、朝飯まだだろ? 一緒に食べようと思ってお弁当作ってきた」
寝起きの朋樹なんて完全想定内。
もへーっとした顔でいる朋樹に、櫂斗はにっこり笑い。
「お味噌汁もあるから。トモさん、二日酔いとかだったりする?」
「……や、そんなになる程は酒飲めねーし。昨夜はバイトの後帰って資料作成して……寝たのが三時だったから」
「そか。じゃあ、とりあえずキッチン借りて準備するから、トモさん顔洗ってきなよ」
そのまま寝かしては、くれねーよなあ。と、朋樹は身支度を軽く整える。
大学生男子の一人暮らしだから、スタンダードに一K。
ワンルームじゃないのは、引っ越した当時彼女がいたから、泊まりに来た彼女が台所に立つことを想定していたわけで。
残念ながらそんな夢は叶うことなく、キッチンは常に飲み物の処理でしか使われていない。
リビング兼寝室は八畳程の部屋で、窓際にベッドとPC用のデスクがあり、入口側にラグを敷いて食卓として小さなテーブルを置き、テレビを観ながらまったりできる空間となっている。
とにかくシンプルな部屋にして、物を置かないようにしているのは、家事なんて殆どしない自分が簡単に片づけや掃除ができるようにするためだ。
朋樹はキッチンの向かい側にあるバスルームで顔を洗い終え、既にキッチンでの作業を済ませて、リビングのテーブルに広げられた朝食に感動した。
なんてデキたお子さんだろう、櫂斗というコは。
トモさんち、行きたい。と言った櫂斗に、どおぞーと軽く返事をしたのは事実で。
そもそもカッコつけるような相手じゃないし、と何も決めないで迎えた当日となってしまったから、じゃあウチで何すんだ? なんて今頃になってぼんやり考える。
「後でさ、一緒にそこのスーパーに買い物行こうよ」
「何か、いる?」
「だって、今見たけどトモさんちの冷蔵庫って飲み物しか入ってねーもん。お昼、何か作ろうと思ってたけど、俺こんな空っぽな冷蔵庫見るの、初めて。家電屋かよって思った」
「まあ、俺料理できねーし」
「うん、炊飯器すらないし。ここまでさっぱりしてると逆に潔いよね」
オンナの影が見えないのが何より嬉しい、なんて櫂斗が呟く。
「櫂斗、料理好きなんだ?」
「特別に好きってわけじゃねーけど、とりあえずトモさんの胃袋は掴んどく方が得策かなーとは思ってる」
「……俺、そのうち櫂斗に食われそーだな」
「ん。食う気満々」
「え」
「はい、こっちが梅入りでこっちが鮭フレーク入り。お味噌汁はー、最近俺新玉ネギ入れるのがマイブームだから、新玉とわかめ。小葱も持ってきたし」
櫂斗はいつも、肝心なギモンを流すから。
朋樹は流されるままに、くるりと海苔を巻いて手渡されたおにぎりを頬張りながら、目の前でにこにこと自分を見つめる少年を見つめ返してみた。
「おいし?」
「ん」
「梅干し、目が覚めるっしょ?」
「ん」
「コレ、食ったら二人でまったりしよーね」
「ん……ん?」
「今日は、トモさんちでまったりおうちデートだから」
「……あの……櫂斗?」
「あ、出掛けたかった? こないだはお出掛けデートだったし、って思ったんだけど。どっか行きたいトコあんなら、全然付き合うよ?」
「じゃなくて」
もう、いつもいつも、不思議で仕方なかったこと。それは。
「櫂斗、俺なんかといて、楽しい?」
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