コレは誰の姫ですか?

月那

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「えなは、理系?」
 瑞浪家リビングでいつメンが集まって期末のテス勉中、涼が数学の教科書から目を上げて訊いてきた。
「あ、後期の選択?」
 一年生から二年生に上がる際にはクラス替えがないのだが、二年生の後期で文理の選択となる。ホームルームこそ同じだが、ここで選択授業によって少人数制のクラス分けがなされるのだ。それを踏まえて三年生に上がる時に、進学希望も考慮したクラス替えとなる。

「俺、そのまま付属の大学の工学部志望。家、出るつもりねーし」
 恵那が答えると、響も「俺も俺も。大学もバスケ続けるし、そのまま推薦貰うで」と続けた。
「じゃあ、土岐も?」の問いには、けれども。
「俺は外部受験」と言い切った。

「ええー」三人共、さすがに目を見開く。
「俺、将来パイロット志望だから」
 スンっと答えた土岐を三人がガン見しているから「何? 俺、変なこと言ったか?」と。

「え、だって……パイロットって、あの、飛行機操縦する?」
 恵那が呆然としながら問うと「それ以外に何があるってんだよ?」と土岐が鼻で笑った。

「狭き門だってのはわかってんだけどね。家、出るつもりでできるだけ国立の航空系に行きたいとは思ってるけど。金かかるし、今父さんとも相談中」
「知らんかった……」兄弟なのに、そんな話全然聞いていなかったから。
「おまえは俺に興味ねーだろがよ。ま、うちの付属大学にも宇宙工学科ってのがあるから、最悪そこもアリっちゃーアリ」
 土岐のセリフに、涼の目がわかりやすくハートマークになるから、恵那としてはムっとしてしまう。

「かあっこいい。土岐がパイロットって、めっちゃ似合ってるー」
「そおか? まあ、どこまでいけるかはわからないけどな。せっかくだからチャレンジは、したいじゃん」
「あかんわー。そんなん、土岐、カッコ良すぎやん」
「いや、だからまだなれるって決まってないから。目指してるってだけで」
「土岐ならなれるよ、きっと。頭イイもん。僕、土岐の操縦する飛行機、乗りたい!」
「だから気が早いっつの」
 涼も響も、土岐の発言に浮足立っていて。

 同じ屋根の下、双子としていつも一緒にいる土岐がそんな壮大な夢を抱えていたなんて、初耳な恵那としてはただただ茫然と弟を見つめるしかできない。
 自分が行きたいルートはまだ半分ボヤけていて、どっちかっていうと理系教科の方が得意だから漠然と「工学部」なんて思っていたけれど、だからってじゃあ何を専門にやりたいか、なんて全然決まってなくて。
 よくよく考えたら、涼だってずっと“建築家になりたい”なんてことを言っていて、当然この学校だってその最終目標に向かう為に選んだらしいし。
 
「とりま、期末でトップ集団に入っとくのはデフォだからさ。部活ないこのテスト期間くらいしかまともに勉強なんてできないから、一応頑張るよ」
「そいえば土岐、いつも上位一桁にいるよね」涼がわかりやすく“尊敬”な目で見る。
 各学年、定期考査の得点順位は上位五十位までは各学年棟の入口に張り出される。涼は名前が載ったり載らなかったりの微妙なラインを彷徨っているが、土岐は常にトップテン以内にいるし恵那だって名前が載らないことは一度もない。
 
「あー、涼っち。あんまし手放しで土岐ばっか褒めたったらあかん。恵那が拗ねとるぞ」
 黙り込んでしまっていた恵那を見た響が、涼を小突く。
「はー? 拗ねてなんか、ねーしー! 俺だって本気出せばトップテンくらい入れるしー、全然本気出してねーだけだしー」
「何子供みたいなこと言ってんだよ」
「うっせーばーか。俺だってやる気出したらおまえなんかヘでもねーんだよーだ」
 あっかんべー、なんてまるっきり幼児丸出しなことをするから、三人が笑う。

「正直俺かてまだ、全然具体的なこと決まってへんし、文理選択して三者面談言われても、何話すのか微妙っちゃービミョーだけどな」
 土岐と一緒に大学行ってもバスケするつもりでいた響だけに、ちょっと寂しい気がして。恵那ほどではないけれど、響だってショックは受けている。
「僕の場合、系列大学には行く気だけど家は出たいんだよね。ほら、付属の大学もココっていくつか県外にもあるし。親の手前そのまま上がるって話もしてるけど、本音のトコは県外出たい」
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