コレは誰の姫ですか?

月那

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「昨日先輩たちに教えて貰ったんだよ。涼たち、二人でちんたらやってっから、多分知らねーだろーと思ったから」
 いつものように恵那がドヤる。
「せっかくだから、こーゆーのも伝承して行かねーとな。来年は俺らが後輩に教えてやるんだから」
 早朝ランニングのトレーニングは、本当に無駄じゃないのだと涼が思い知る。

「夜景も綺麗らしいよ。ただ、アレも出るかも、だから覚悟もいるけどな」
「え、アレって?」
 涼がきょとん、と問うと恵那がにや、と笑って掌を垂らしてぶらぶらと振る。
「ユーレイ」

「うっそだー。えな、知らないの? 神社って神様がいるトコだから悪い霊が寄って来れないんだよお」
「おまえの反応、可愛くない。もーちょっと怖がれよな」
「ほらやっぱ嘘なんじゃん!」
 ち、と舌打ちする恵那の背中に涼が軽くグーパンチして。

「でもほんと、夜景は綺麗だろうね。高い場所だから街全体を見渡せるし」
 二人のやりとりをくすくす笑いながら見ていた三宅が言った。
「まあでも、車でもない限りこんな山ん中ちょっと来れねーけどな」
 つまり、夜景が見える時間だとユーレイではなくちょっとしたオトナカップルがわんさかいるわけで。
 年頃の男の子特有のアレコレ、を想像してしまって三人してちょっと黙ってしまう。

「あ……った!」
 沈黙を破ったのは涼の悲鳴だった。
「ん、どした?」
「痛いー。なんか、目に入ったー」
 吹きっ晒しのその場所でぼんやりと景色を眺めていたせいか、どうやら小さなゴミか虫が涼の目に入ったらしく。

 痛い痛いと言いながら目を擦ろうとするから。
「やめろ、擦るな。石とか入ってたら目に傷が付く」
 慌てて恵那がその手を止めた。

「痛いー」
「ほら、見せてみな」
 半泣き状態の涼の顎に手をかけた恵那が、その目をじっと見る。
 涙でゴミを排除させようとしている涼の本能のたまもので、どうやらゴミらしきものはもう見えないが。
 それでも涼がぐずぐずと「痛い、痛い」と言うから。

「もー。はいはい、大丈夫大丈夫」
 そう言って涙ごとぺろ、と眼球を舐めた。

「え……」
「も、何もないよ。どうしても気持ち悪かったらセンター戻って目薬貰ってやっから。そろそろ帰ろうぜ」
 恵那が言って歩き出した。
 が。

 当人と、隣で見ていた三宅としては。
 どこからどう見ても「景色のイイ場所で、顎クイして、瞼にちゅう」という光景でしかなかったその瞬間が。
 あまりにも衝撃的過ぎて。

「おいコラ、何やってんだよ。辰巳先輩じゃねーけど、おんぶなんかしねーぞ?」
 んな体育会系のトレーニングみたいなことできるか、と恵那が眉を顰めて言って。

「あ……うん」
 凍り付いていた二人も慌ててその後に続いた。
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