96 / 98
未来のはじまり
最終話:騒がしくて賑やかな日々
しおりを挟む玲司さんと八十神くんが来ているからか、夕食はいつもより気合が入ったメニューとなっていた。
アジフライ、豚の角煮、カレーライス。
若い男の子が好きそうなガッツリした料理だ。
他にもおかずが所狭しとテーブルに並んでいる。
「おかわりたくさんあるからね~!」
お母さんは、八十神くんがまだ裏の家に住んでいた頃から彼のぶんのお茶碗や箸を買い揃えていた。いつか食べに来てくれると信じて。それをようやく使うことが出来たんだ。
自分専用の食器を見て、八十神くんは感動のあまり何も言えなくなっていた。お母さんが彼を想って選んだものだ。その気持ちが分かるからこそ、涙が出そうなくらい嬉しいんだろう。
ちなみに玲司さんもよく来るので専用のお茶碗や箸が用意されている。
「……僕、ここんちの子になりたい」
八十神くんが呟いた言葉。
それは彼の心からの望みだ。
「いいわよ、時哉くんなら大歓迎!」
「ほんと?」
「ええ!」
お母さんから快諾されて、八十神くんは笑顔になった。こんな屈託のない表情も出来たんだね。
んん?
それってうちの養子になるってこと?
今の身元引受人である玲司さんのおじいさんからお母さんが引き継ぐ形になるのかなあ。
「待ったァ! ここの息子になるのは俺だ!!」
「なんで玲司が張り合うんだよ」
テーブルを挟み、再び睨み合う二人。
お兄ちゃんは玲司さんの隣で呆れ顔だ。
おや?
玲司さんは家族がいるのに。
別に養子にならなくてもよくない?
そう思ってたら、バッと同時にこっちを向いた。
「夕月ちゃん、俺を選んで!」
「榊之宮さん、僕だよね?」
「…………はい?」
何故あたしに聞くの?
養子の件ならお母さんと決めればいいのに。
「夕月モテモテじゃないの~! さあて、どっちがお婿さんになるのかしら?」
「お、お婿さん!?」
はあ?
そんな話だったっけ???
「義理の弟がこの二択なんて嫌過ぎる……! 夕月、急いで決める必要ないからな。まだ色んな出会いがある。もっとマシな男が他にいるはずだ!!」
「はあ」
「そもそも結婚なんかしなくていい。ずっと兄ちゃんと一緒にいような?」
「う、うん……???」
なんだか妙なことになった。
お兄ちゃんは天界と交信出来るようになった。
仕事を請け負う代わりに七つの魂が祀られている場所を教えてもらうのだ。
今まで遠出したことがないから、とりあえず近場の仕事を回してもらい、初回は八十神くんが同行してやり方を教わるらしい。
「朝陽さん新幹線乗ったことないの?」
「……仕方ないだろ、今まで家からあんまり出られなかったんだから」
「天界からの仕事で公共の交通機関はかなり利用するんで、早めに慣れてくださいね」
「わ、分かったよ」
こんな感じで二人揃って出掛けていった。
なんだかんだ言って、少しずつ打ち解けてきてる気がするんだよね。なんといっても、今は仕事仲間なんだから。
──で。
玲司さんが家に遊びに来たので、あたしが話し相手をすることになった。お兄ちゃんが留守なの知ってるはずなのに、なんでだろう?
「夕月ちゃん、この前の話だけどさ」
「はい」
「八十神に釣られて焦って言っちゃったけど、アレ一応本気だから考えといてくれる?」
「はい?」
「だ、だから、ここの息子になる件」
「ああ! あれ、冗談だと思ってた」
「…………やっぱり」
玲司さんは苦笑いを浮かべている。
いや、だって、ねえ?
玲司さん、どう見てもあたしよりお兄ちゃんが好きじゃん。それに、たぶん、あの人の記憶に引き摺られてるだけだと思う。
「確かに、御水振と同調した時にアイツの過去を追体験して、それで気持ちが動いたのは確かだ。でも、俺、その前から……!」
「れ、玲司さん」
がしっと肩を両手で捕まれ、間近で玲司さんを見上げる。その表情はあの時と同じくらい真剣で、思わずドキッとしてしまった。
ど、どうしよう。
目が反らせない。
見つめ合ったまま動けずにいたら、玲司さんのスマホに着信があった。音に驚いて、反射的に手が離される。
『おい玲司、今なにか悪さしようとしただろ』
「そ、そんなことは……」
『天界と繋がった僕に嘘は通用しないからな。留守中に夕月に近付くな、分かったな?』
「えええ」
『返事は!?』
「イ、イエッサーッ!!」
なんと、電話の相手はお兄ちゃんだった。
どうやら離れていてもある程度行動が把握出来るみたい。それは玲司さんの魂が神格化して天界の管理下にあるからだろう。
電話を切ってから、玲司さんは深い溜め息をついた。心なしか疲れ切った顔をしている。
「まずは朝陽に認めてもらうとこからかぁ」
「はあ」
「俺頑張るから、考えといて」
「……あの、でも、あたし、今までの人生でも恋愛って全然したことがなくて……」
「十四までしか生きられなかったんだもんね」
過去七回の人生で恋愛関係だったのは御水振さんただ一人。それも親同士が決めた相手だったし、結婚前だから清い交際だった。
「だから、ええと、答えを出すの、すっごく時間が掛かるかもしれない……」
今世は完全に手探り状態。
ここから先の人生、全部が初めてなんだよ。
その気持ちが伝わったのか、玲司さんはニカッと笑って、俯くあたしの頭をポンと軽く叩いた。
「いいよ、どんだけでも待つ。だから、悔いのないようによく考えて」
また玲司さんのスマホが鳴った。
無視してもしつこく鳴り続けている。
「…………悪いけど、俺まだ何もしてないって朝陽に説明してくれる?」
「玲司さんてホントお兄ちゃんに弱いよね」
「アイツ怒らせると怖いんだって!」
そう言いながら差し出されたスマホを受け取り、通話ボタンを押す。
「あ、お兄ちゃん?」
『夕月、大丈夫か? 玲司に何かされる前に警察呼ぶんだぞ!』
「朝陽、そりゃねーだろ!」
『おまえ、いつまでウチにいる気だよ』
「おばさんが晩メシ食べてけって言ってくれたもーん」
『天音さんのごはん、僕も食べたい! 朝陽さん早く帰ろ!!』
『まだ現場に着いてないだろ! それに仕事が終わったら君は自分の家に帰れよ!!』
『榊之宮さん、もうすぐ帰るからね~!』
向こうもこっちも大騒ぎだ。
離れてるのに賑やかで楽しい。
こんな毎日がずっと続いていくのかな。
だとしたら、なんて幸せなんだろう!
今度休みを合わせて彼らに会いに行こうか。
あたしの愛しい今世の仲間と
あたしの愛しい七つの魂の元へ。
『神成りの娘。』 完
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~
白乃いちじく
恋愛
愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。
その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。
必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?
聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。
***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
デッドエンド・シンフォニー
はじめアキラ
キャラ文芸
「六丁目のお化け屋敷って、姉ちゃん知ってる?」
弟・逢知のその言葉が、全ての始まりだった。
友人達と近所の廃屋(?)に遊びに行ってしまったまま、帰ってこなかった逢知。姉の逢花は弟を探して一人、そのお化け屋敷に向かうことに。
まさかそれが、恐ろしいデスゲームの始まりだったなどと、一体誰が予想していたことだろうか。
パートナーと共に知恵を絞り、与えられた異能力と勇気で謎の空間から脱出せよ!
これは弟想いの少女の、絆と愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる