85 / 98
未来のはじまり
第84話:朝陽と時哉
しおりを挟む「……おまえのことは正直嫌いだけど、僕たちは境遇が似ている」
八十神くんの重い生い立ちの話を聞いてみんなが沈黙する中、お兄ちゃんが口を開いた。眼鏡の奥の瞳は相変わらず八十神くんを睨みつけてはいるけれど。
生まれた時から霊や神仏が視えるって、確かにお兄ちゃんもそうだ。強過ぎる力を持って生まれたせいで魂と身体のバランスが狂ってしまい、下手をすれば若いうちに死んでいたかもしれない。そう聞いたことがある。
その言葉に八十神くんは口元を歪めた。
「全然似てないよ、榊之宮 朝陽。君は親から棄てられなかった。おかしなことばかり口走るし体調をよく崩す育てづらい子どもだったろうに、君の両親は君を手放さなかった。……僕とは違う」
笑顔のはずなのに、涙も流してないのに、何故か彼が泣いているような気がした。
「君と僕の差が何なのか、それが知りたくてこの仕事を受けた。目の前で最愛の妹が死んだらどんな顔するだろうって、少し楽しみですらあったよ」
膝の上に置かれた拳に力が入る。
部屋の中の空気は静まり返っている。彼の言葉を遮ろうとする人はいなかった。
「でも、実際に来てみたら色々想像と違ってた。榊之宮さんがお人好しなのはプログラムのせいだって分かってるのに、優しくされたらやっぱり心が揺らぐし避けられたら悲しくなった。それに、認識阻害を掛けていたのに、おばさんは毎日夕食のおかずを届けに来てくれた」
八十神くんが引っ越してきて以来、お母さんは毎日欠かさずおかずをタッパーに入れて差し入れしていた。家に誘ったのも一度や二度ではないらしい。
「母親の手料理なんて覚えてないし、普段は施設の給食だから、ああいうあったかい家庭料理とか、食べたのは、初めてで、……」
そこまで言うと、八十神くんは下を向いてしまった。この話は彼にとって辛いものなのかもしれない。
「──だから、追加で徳を分配したのか」
えっ、どういうこと?
「君の目的が僕の神格化にあることは気付いていた。昔、御水振さんたちから過去の話を聞いた時にピンときたんだ。今度は僕の番だって。だから僕は夕月が命を落とさないように、この町にあるおかしな場所を鎮めていった」
「随分と察しがいいね」
「お陰様でね。……今回は七つの魂が守護に付いてるし、余程のことが無ければ大丈夫だろうと思っていたよ。でも、君が引っ越してきてから急に事態が動いた。あからさま過ぎて笑えるくらい」
「……」
「もし天界の目論見通り僕が神格化したとしても、夕月の魂はまた転生して同じ運命を辿らされてしまう。それを回避する為に今世の成果を増やそうと考えたんだ」
お兄ちゃんは来世のあたしのことまで考えてくれていたんだ。
「玲司のおじいさんは最も有力な候補だった。実際徳が高いしね。次は千景ちゃんと鞍多先生かな、素質的に有り得るのは。そう考えた上で七つの光との相性を見て協力してもらった」
他の神格化候補として選んでいたんだ。
ここまで巻き込むことをわかった上で。
「でも、さすがに七人全員が神格化するのは予想していなかった。幾ら動物霊の浄化分や末社の神の加護を上乗せしたとしても無理がある。君がこれまで関わってきた事件や忌み地の亡者を浄化した『徳』を『分配』して足りないぶんを補った。……そうだろ?」
八十神くんがみんなの神格化に手を貸していたってこと?
一体なんのために?
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~
白乃いちじく
恋愛
愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。
その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。
必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?
聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。
***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
デッドエンド・シンフォニー
はじめアキラ
キャラ文芸
「六丁目のお化け屋敷って、姉ちゃん知ってる?」
弟・逢知のその言葉が、全ての始まりだった。
友人達と近所の廃屋(?)に遊びに行ってしまったまま、帰ってこなかった逢知。姉の逢花は弟を探して一人、そのお化け屋敷に向かうことに。
まさかそれが、恐ろしいデスゲームの始まりだったなどと、一体誰が予想していたことだろうか。
パートナーと共に知恵を絞り、与えられた異能力と勇気で謎の空間から脱出せよ!
これは弟想いの少女の、絆と愛の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる