上 下
82 / 98
選び取る未来

第81話:事件の翌日

しおりを挟む


「昨日のこと、夢じゃないよね」
「ンなワケないじゃん。見てよこの傷」
朝陽あさひさんたちが庇ってくれなかったらもっと怪我してたかもしれないわ」

 翌日。
 いつものように三人で学校に向かいながら、互いの腕や足に出来た擦り傷を見せ合う。絆創膏で隠れる程度の小さなもの。この傷が痛む度に昨夜の出来事が夢ではないのだと思い知らされる。


 歩香あゆかちゃんは学校を休んだ。
 捜索隊の人たちに保護されてすぐ意識を取り戻したが、何故夜の山の中にいたのか全く覚えていなかったため、念のため検査入院することになった。

 叶恵かなえちゃんと八十神やそがみくんは普通に登校している。

 ちなみに、お兄ちゃんは帰宅途中から瑪珞バラクさんに憑いてもらい、身体を動かしてもらっていた。そのまま今日も寝込んでいる。かなり無茶をしていたから、また二、三日安静にしなければならないかも。






「やあ、昨夜は大変だったね」

 授業の合間の休憩時間に、にこやかな笑顔で八十神くんが話し掛けてきた。歩香ちゃんがいないからか堂々と教室内で。
 千景ちゃんはあからさまに顔をしかめ、夢路ちゃんがあたしの前にスッと出た。

「やだなあ、もう何もしないよ」
「どーだか。それより明日、ちゃんと来いよ」
「分かってるよ。初めて女の子の家にお呼ばれしたから緊張しちゃうな」
「その言い方やめろ!」

 あんなことがあったにも関わらず、八十神くんは飄々としている。下手をすれば全員に大怪我をさせるところだったのに気にしていないみたい。
 またね、と言ってすぐに自分の席に戻っていった。

「アイツ、ほんと意味わかんない」
「やっぱり笑顔が嘘っぽいのよね」
「……」

 二人の八十神くんに対する警戒はMAXだ。
 でも、あたしはどうしても彼を憎めない。みんなを傷付けようとしたことだけは許せないけど、それでもやっぱり、そうせざるを得ない理由があったんじゃないかと思う。

 こんなこと、千景ちゃんたちに言ったらまた怒られちゃうかもしれないけど。





鞍多くらた先生、大丈夫?」
「大丈夫なわけねーだろ」

 昼休みに三人で保健室に行くと、鞍多先生は机に顎を乗せてグッタリとしていた。昨夜みんなを庇ったことで七人の中では一番傷が多い。白衣はボロボロになっちゃったから今は着ていない。

「湯船に浸かると全身滲みて痛えのなんの……手当てするにも数が多くてめんどくせえし」

 確かに、顔にも腕にも擦り傷がある。見えないところにもたくさんあるんだろう。

「身を呈して里巳さとみを助けたっつー話になってるから周りからは褒められたけどよ、夜に女子生徒連れ出して怪我させちまったから校長から小言もらっちまったぜ。ったく」

 ああ、やっぱり怒られてた。

「ご、ごめんね先生。巻き込んじゃって」
「おまえは悪かねーだろ。後悔はしてねえよ。……助かって良かったな」
「うん」

 頭を下げて謝ると、鞍多先生は歩み寄って頭を撫でてくれた。その手が大きくてあたたかくて、あたしは何だか泣けてしまった。

「な、泣くな! 俺が泣かせたみたいじゃねーか」
「だって」
「あー、先生が夕月ゆうづき泣かしたー!」
「校長先生に言っちゃおうかしら」
「やめろ!!」
しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~

白乃いちじく
恋愛
 愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。 その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。  必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?  聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。 ***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***

京都式神様のおでん屋さん

西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~ ここは京都—— 空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。 『おでん料理 結(むすび)』 イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

処理中です...