上 下
80 / 98
選び取る未来

第79話:成長の理由

しおりを挟む


 必死の形相でこちらを見つめる七人。
 その瞳にさっきまでの悲壮感は感じられない。
 あるのは強い意志のみ。

 八十神やそがみくんは顎に手を当てて少し考えてから、まず玲司れいじさんのおじいさんを指差した。

「……富多見 誠司ふたみ せいじ。事業に成功して得た財を地域に還元し、近隣の寺社に度々寄進している。信頼も厚く人望がある」
「な、なんだね急に」

 突然見ず知らずの男子中学生にフルネームで呼ばれ、おじいさんはたじろいだ。

「数年前に曰く付きの山を知人から購入、その地にあった壊れた祠を新たな場所に移設した件で徳を積んだ。放っておいても死後数十年後くらいに富多見家の祖霊として神上かみあがりしそうではあったけれど……だいぶ予定が早まったね」

 移設先の土地を購入し、縁結びの祠を新しく作り直したり、それらの費用は全部玲司さんのおじいさんが負担している。

「そして、徳の余剰分が孫の富多見 玲司ふたみ れいじに流れている」
「なんだそりゃ。俺はじーちゃんのおこぼれで成長してんのかよ!」
「いや、君の成長は真の友を得た時から始まっている。同年代のまとめ役として、集団から孤立した人間をさりげなくサポートしているね。君の働きで自死を諦めた人も少なくない」
「え、そーなん?」

 玲司さんも色々やっていたみたい。それを聞いて、お兄ちゃんがムッと眉間に皺を寄せた。

「……つまり、おまえが僕にしつこく電話やメールしてくるのもサポートの一環だったのか」
朝陽あさひは違うって。俺がしたいから連絡してんの!」
「どうだか」

 小声での言い争いが続く中、八十神やそがみくんが視線を移した。

伊能 千景いのう ちかげ。君の家は代々この辺りの地主で、ここの神社の氏子総代を何度も務めている。だから、さっきから御祭神がうるさいんだよね。君に危害を加えるなと怒っている」
「え、神様が?」

 ここは近所にある神社の裏にある森。
 だから神様の目が届くんだろうか。

「それと、明野 夢路あきの ゆめじ鞍多 寅生くらた とらお。二人の家もこの神社の氏子だよね」
「わ、私たちも?」
「それより、おまえ、なんで俺の下の名前まで知ってんだ。あと呼び捨てやめろ」

 あたしも先生のフルネーム初めて聞いた。

「他の若い人たちと違い、君たちはこの町から出ようという気がない。だから特別な加護を受けている。……いや、逆だな。加護を受けているから出ていかないのか。そして、この前榊之宮さかきのみやさんが浄化した動物の魂。その徳が神社を通じてそれぞれに分配され、これが魂の成長の元になっている。それと末社の神がそれぞれ追加で加護を授けてる。この前小火ボヤを出した竈の神は鞍多先生に。火と相性いいのかな」

 慰霊碑の動物霊を浄化した徳?
 神社が徳の分配を仲介してるって面白いな。
 鞍多先生には炎を操る華陀真カダマさんが憑いている。性格は真逆だから不思議だったけど、属性の相性だったみたい。

田鎬 叶恵たなべ かなえは転生の度に里巳 歩香さとみ あゆかを支える運命さだめにある。毎回迷惑を掛けられてるのに辛抱強く側に居続けている。それと、さっきの縁結びの神との結び付きが強い。本来なら神格化まであと数度転生して修行を積まなくてはならなかったはずなのに、今回の件でクリアしてる」
「え、私と歩香ってそうなの?」

 転生する度に一緒ってすごい。
 しかも毎回迷惑を掛けられるのが確定してる。
 それでも叶恵ちゃんは見捨てなかったんだね。

「今回、君たちは神格化した魂とそれぞれ同調シンクロし、同じ気持ちを共有した。それが一番魂に影響を与えている」

 最後に、八十神くんはお兄ちゃんを見た。

「──そして、榊之宮 朝陽さかきのみや あさひ。こうなるように仕組んだのは君だね? 今回の人選は単なる寄せ集めじゃない。もしかして最初からこれを狙っていたんじゃない?」
「……まさか。たまたま近くにいた頼れる人たちがこのメンバーだっただけだよ」

 睨み合う八十神くんとお兄ちゃん。
 間に挟まれたあたしは、ただただ二人を交互に見るしか出来ない。

 えーと、これ、どういうことなの?

「なんで八十神くんはそんなことが分かるの?」
「ちょっとイレギュラーな展開になったから天界に問い合わせた」
「問い合わせとか出来るんだ……」

 コールセンターでもあるのかな?
 過去から現在に至るまで、全ての情報を把握されてるってことだよね。なんだか怖い。

「さて、どうしようか」

 八十神くんは本当に困った顔をしている。
 どうしようかって……どうなるの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「幼馴染を敬愛する婚約者様、そんなに幼馴染を優先したいならお好きにどうぞ。ただし私との婚約を解消してからにして下さいね」

まほりろ
恋愛
婚約者のベン様は幼馴染で公爵令嬢のアリッサ様に呼び出されるとアリッサ様の元に行ってしまう。 お茶会や誕生日パーティや婚約記念日や学園のパーティや王家主催のパーティでも、それは変わらない。 いくらアリッサ様がもうすぐ隣国の公爵家に嫁ぐ身で、心身が不安定な状態だといってもやりすぎだわ。 そんなある日ベン様から、 「俺はアリッサについて隣国に行く!  お前は親が決めた婚約者だから仕方ないから結婚してやる!  結婚後は侯爵家のことはお前が一人で切り盛りしろ!  年に一回帰国して子作りはしてやるからありがたく思え!」 と言われました。 今まで色々と我慢してきましたがこの言葉が決定打となり、この瞬間私はベン様との婚約解消を決意したのです。 ベン様は好きなだけ幼馴染のアリッサ様の側にいてください、ただし私の婚約を解消したあとでですが。 ベン様も地味な私の顔を見なくてスッキリするでしょう。 なのに婚約解消した翌日ベン様が迫ってきて……。 私に婚約解消されたから、侯爵家の後継ぎから外された? 卒業後に実家から勘当される? アリッサ様に「平民になった幼馴染がいるなんて他人に知られたくないの。二度と会いに来ないで!」と言われた? 私と再度婚約して侯爵家の後継者の座に戻りたい? そんなこと今さら言われても知りません! ※他サイトにも投稿しています。 ※百合っぽく見えますが百合要素はありません。 ※加筆修正しました。2024年7月11日 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 2022年5月4日、小説家になろうで日間総合6位まで上がった作品です。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。 王子が主人公のお話です。 番外編『使える主をみつけた男の話』の更新はじめました。 本編を読まなくてもわかるお話です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

処理中です...