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選び取る未来

第78話:兆し

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 みんなに別れを告げ、八十神やそがみくんの手を取る。その直前、後ろでザワザワと空気が震えるのを感じた。
 思わず足を止め、恐る恐る顔だけそちらに向ける。

『……馬鹿やろう、次はねえって言っただろうが』

 玲司れいじさんのおじいさんの声を借りた太儺奴タナドさんだ。腹の底から絞り出すような低い声で呻いている。

「何がなんだか分からんが、子どもが自ら死を選ぶなど看過ごすわけにはいかん。死ぬなら年寄りから順当にいかねばな」

 おじいさんも完全に目が据わっている。
 怖い怖い、顔が怖い!

『俺様は自分の獲物を盗られんのが一番嫌いだ!』

 螺圡我ラドガさんの怒りに呼応して、千景ちかげちゃんが両拳を握り締め、胸の前でガツンと合わせた。

「私は夕月ゆうづきが居なくなるのは嫌だ!」
「私もよ。夕月ちゃんを返して!」

 夢路ゆめじちゃんも、普段は穏やかなのに目を吊り上げて八十神くんを睨みつけている。

『一切の苦しみ、ケガレから可愛い弟子を護るために神と成った。それが果たせぬまま終われません』

 阿志芭アシハさんもいつになく厳しい口調だ。

『お嬢ちゃんはそれでいいの? ボクはヤだよ!』
「夕月ちゃんは私を助けてくれた。私はまだ何も返せてない!」

 小凍羅コトラさんの嘆きと叶恵かなえちゃんの強い意志を感じる声。

『オレを止められるのはいつだってお前だけだ。お前がいない世などどうでも──』
「俺がついていながら生徒になんかあったらマズいだろーが! 八十神っ、おまえもうちの生徒だ! バカな真似はよせ!!」

 自棄になりかけた華陀真カダマさんの言葉を遮り、鞍多くらた先生が教師として八十神くんに語り掛けた。

『妹を喪って得た神の力。妹を護るために役に立たぬのなら意味などない』
「夕月は大事な妹だ。兄である僕が護る!」

 瑪珞バラクさんとお兄ちゃんは完全に同調シンクロしている。

「俺はもう自分に嘘はつかないって決めてんだ。朝陽あさひのためだけじゃない。俺自身が夕月ちゃんに助かってほしいって思ってる」

 お兄ちゃんに肩を貸しながら玲司さんが笑った。擦り傷だらけなのに、なんだか楽しそう。そんな玲司さんを見て、お兄ちゃんも笑った。

『……其方そなたが我が身を犠牲とするのなら、今度こそ共に果てよう』

 涼やかな声。
 けれど熱い気持ちが言葉の端々から感じられた。
 御水振オミフリさんはいつも優しい。



 ……あれ?
 なんだか様子がおかしい。
 さっきまでボロボロだったはずなのに、みんなの表情に覇気が戻ってる。

 動きが封じられていて攻撃が出来ないぶん、七つの光が眩しいくらいに輝きを放ち、辺りを昼間の様に照らしている。



「……そんな、まさか」
「え?」

 みんなの異変に八十神くんも気付いた。
 あたしの手を取るのも忘れ、目を見開いて七つの光と七人を茫然とした様子で見つめている。

「ここに来て全員神格化の兆しを見せている・・・・・・・・・・・・・・……」

 えっ、なにそれ。

「……今回神格化に値する魂は榊之宮 朝陽さかきのみや あさひただ一人だったはずだ。それなのに、七人全員に魂の成長が認められた」
「ええっ!?」

 それって、千景ちゃんたちも???

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