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定められた運命

第64話:落ちた先

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 音もなく現れた歩香あゆかちゃんに背中を押され、真っ黒な空間に突き落とされた。
 見えないだけで床があるのでは?なんて思ったけど何もない。二階から一階へ……ではなく、もっと際限なく落ちていく感覚がある。

「ひゃああああ!!」

 情けない悲鳴をあげながら落ちていく。
 すると、急にパッと視界が開けた。
 でも、手も足もまだ何処にも触れてない。

「なっ、なに?」
『信じられん、ここは……』
この町の上・・・・・だよ!』
「なんでぇ~!?」

 小凍羅コトラさんの言う通り、あたしがいるのは町の上空だった。正確に言うと、山の麓の上空。どれくらいの高さなんだろう。町全体が見渡せちゃうくらいの高さ。下を見れば町の明かりがある。田舎だから夜景と呼ぶには寂しい程度の明かり。

 今いる場所を理解した瞬間、あたしは現在も落下中だということを思い出した。

「し、しんじゃうってーー!!」

 まさか近所の家にクラスメイトを探しに入ってこうなるなんて完全に予想外。

 夜の空気がビシバシと身体に当たり、冷たいやら痛いやらで涙目になる。迫ってくるのは山の斜面に生えているたくさんの木々。直接地面に落ちるよりはマシだろうけど痛そうだなあ、なんてことを考えてる間にもどんどん落ちていく。

『心配いらねえよチビ助。俺らが助ける』
「う、うんっ!」

 太儺奴タナドさんが風を起こし、落下速度をゆるめてくれた。さっきまでの空気を切るような痛みや冷たさ、息苦しさを感じなくなり、かなり楽になった。

 その時、あたしの横を何かが落ちていった。

 歩香ちゃんだ!!

 あたしを突き落とした後、自分もあの空間に入ったんだろう。ものすごい勢いで頭から落ちていく。

「歩香ちゃんも助けて!」
『なんであんなヤツ──』
「おねがい」

 手を合わせて頼み込むと、渋々だけど太儺奴さんは風で歩香ちゃんの落下速度もゆるめてくれた。
 それでも、宙に浮けるようになったわけじゃない。自然落下よりはマシ、くらいの速度で落ちていく。

 木に当たる瞬間、枝や葉っぱが動き、歩香ちゃんの身体を包み込むように受け止めた。ギリギリ、と枝や幹が軋む音がする。遅れてあたしも葉っぱにキャッチされた。
 これは緑色の光……瑪珞バラクさんの力だ。

 そのまま伸びた蔦のようなものが身体を支えてくれて、あたしと歩香ちゃんは無事に地面へと降ろされた。

「……こっ、怖かったぁ~!!」

 手足が震えて立つことすら出来ず、あたしは落ち葉だらけの地面に手と膝をついた。

 すぐ側には歩香ちゃんがいる。あれだけ高い場所から落ちたにも関わらず、平然と立っている。表情はない。やっぱり様子がおかしい。

「歩香ちゃ……」
『待て、近付くな』
「え、なんで?」

 御水振オミフリさんに止められてる間に、歩香ちゃんは真っ暗な森の中に歩いていってしまった。

 ていうか、ここ何処???

『神社の裏にある森のようだ。少し先に拝殿がある』
「じゃ、じゃあ家からそんなに遠くないね」

 言われてみれば、周りには木々の間に大小の岩がゴロゴロと転がっているし、地面もやや傾斜がある。確かに近所の神社の裏にある森だ。

 歩香ちゃんが向かったのは……
 あれ、神社の拝殿と真逆の方向???
 山の方に行っちゃった!
 なんで!!?

「すぐ追いかけなきゃ」
其方そなたが行く必要はない。ここは忌み地ではないのだから、捜索は大人に任せるべきだ』
『そーそー、こっから先は危ないよ』
「でも……」

 どういう原理か分からないけど、忌み地である八十神やそがみくんの家からは離れられた。こんな岩だらけの山の中を探すなら、確かに大人の人に任せた方がいいかもしれない。

『ちゃんと気配は追ってるから安心しなチビ助。……ん? この先にもう一人いるぞ』

 風で周辺を探っていた太儺奴さんが、歩香ちゃんが消えた先にもう一人の気配を感じ取った。

 それ、間違いなく八十神くんだよね。

「みんな、もう少しだけ付き合って」
『ええ~っ? もう帰ろうよぉ』
「だって、二人ともあたしのクラスメイトなんだもん。一番近くにいるのはあたしなんだから、あたしが何とかしなきゃ」
『はあ、お嬢ちゃんの悪い癖だよ……』

 もし一人だったら行こうなんて思わない。
 あたしには頼れるボディーガードたちがいるから無茶が出来るんだよ。
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