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七つの記憶
第54話:安全地帯
しおりを挟む「おーい、榊之宮」
「鞍多先生」
教室移動の途中、後ろから呼び止められた。
振り返ると、ひょろりと背の高い男の先生が立っていた。ジャージの上に白衣を羽織っている。鞍多先生は養護教諭、つまり保健室の先生だ。
この前、慰霊碑を浄化した後ダウンした時に一時間だけ休ませてもらった。
「あれから体調どうだ」
「日曜に熱がでましたけど、その後は今のところ何ともないです」
「そっか。そんならいい」
大きな手があたしの頭をポンと軽く叩いた。
ボサボサに伸びた前髪から覗く先生の表情は優しい。ホッとしたように目を細めて笑っている。
先生がこうやって気遣ってくれるのは、他にも理由がある。
「朝陽は? あいつは元気か」
「最近は割と落ち着いてる、と思います」
「そっか」
鞍多先生はお兄ちゃんが中学の頃からこの学校で養護教諭をしている。しょっちゅう体調を崩していたお兄ちゃんは、在学中保健室の常連だった。
そのこともあって、あたしのことも気に掛けてくれているんだよね。
「……って、鞍多先生が言ってたよ」
「まだあの中学にいたんだ、先生」
お兄ちゃんが中学二年の時に新任で配属された養護教諭の先生だから、つまり今年で六年目。長い。
「ここ田舎だから他から新しい人が来たがらないんだって。先生は地元だから通うのラクだし生徒数少ない方が仕事少なくて済むって言ってた」
「……全然変わってないみたいだね」
当時からそんな感じだったみたい。他の生徒より鞍多先生と過ごす時間が多かったから色んな話をしたんだろう。先生の話をする時、お兄ちゃんはなんだか嬉しそう。
「鞍多先生も千景ちゃんと同じで弱い霊なら弾き返せるんだ。だから、ツラい時は保健室に入り浸ってた」
「そうだったんだ」
千景ちゃんほど元気ハツラツって感じではないけど、楽観的で前向きな性格の先生には悪いものを弾き返す力があるらしい。やっぱり心身共に健康であることは大事なんだね。
お兄ちゃんが安心出来る居場所だったんだ。
「──でも、そうか。鞍多先生がいたな」
「え?」
「なんでもない」
最近あたしに内緒でなにかしてるみたいなんだけど、今日も笑って誤魔化された。
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