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七つの記憶
第49話:誰かの記憶 2
しおりを挟む『お嬢ちゃん、だいじょぶ? 学校サボったら~?』
「やだ。もう平気だもん」
日曜日にずっと寝ていたおかげで体調不良は良くなった。まだ少しフラつくけど、熱も下がったし頭痛もない。
玄関で靴を履いてる最中、七つの光があたしの周りをくるくると飛び回っている。
『だが顔色が良くない。其方はすぐに無茶をする』
「もうすぐ中間テストなんだよ? 休んだらテスト範囲わかんなくなっちゃう」
『其方の体より大切なものなどない』
「えっ」
『うん?』
「な、なんでもない! 行ってきます!!」
御水振さんの言葉に一瞬ドキッとしてしまった。
千景ちゃんたちとの待ち合わせ場所の交差点まで、話しながら歩く。
『あん時、慰霊碑に抱きついたっしょ? アレで全身に穢れがついちゃったから回復に時間が掛かってるって阿志芭が言ってるよ~』
「え、そうなの?」
まだあたしと意思の疎通ができない阿志芭さんに代わり、小凍羅さんが教えてくれた。
『触れるだけでいいって言ったのに、なーんで抱きついちゃったかな~』
「うーん……なんでだろ。動物たちが泣いてる気がしたから、ぎゅってしてあげたくなったのかも」
あの時は黒い靄しか見えなかった。
でも、元は学校で飼われていたウサギやアヒルなんだって思ったら抱っこしたり撫でたくなった。ツラくて痛い記憶を忘れるくらい可愛がってあげたくなった。
体が勝手に動いちゃったんだ。
『ハハッ、お嬢ちゃんらしいや』
そう言って笑う小凍羅さんの声が少し寂しそうに聞こえたのは、あたしの気のせいだったかな。
『ほら泣くなよ。仕方ねえなあ』
小さな子どもの泣き声が辺りに響き渡る。しゃくり上げて泣く六、七才くらいの子たちを荷車に乗せ、必死に宥めている男の人が見える。
あれっ、何これ。
畑に囲まれた舗装されてない細い道を荷車が進んでいく。子どもたちはみんな痩せていて、着物もボロボロ。
ははーん、これは夢でしょ?
あたしは今うちで寝てるはずだもんね。
前に見た夢とは全然違うなあ。
『親に売られたんだからさぁ、諦めて奉公先で働くしかないんだよ。そしたら飯も寝床も貰えるからさぁ』
諭すように声を掛けるも、親に売られたと聞いた途端に子どもたちは再び泣き始めた。荷車を引きながら、あーあ、と溜め息をつく男の人。顔はハッキリ見えないけど、二十才くらいかな。
もしかして、人買い?
でも、子どもたちを無理やり歩かせたりはしていない。言葉選びは失敗してるけど泣きやませようと努力しているのは分かる。
『おまえも疲れたろ。乗ればァ?』
『いえ、わたしは平気です』
男の人が荷車の後ろを押している女の子に声を掛けた。他の子どもたちより少し年上だろうか。十才くらいの女の子だけは泣くこともなく男の人の手助けをしている。
そのうち子どもたちは泣き疲れて眠ってしまった。男の人は羽織を脱いで掛けてあげた。
『やさしいですね』
『売りモンが病気になったら困るからだよ』
『本当ならこの子たちは口減らしに殺されるはずだった。あなたが買ってくれなかったら、今頃……』
おっ、人買いなのに良い人?
『買い被りすぎだよ、お嬢ちゃん』
場面が変わって夜。
どうやら野宿をするみたい。焚き火を囲むようにして暖を取っている。
荷車に乗せていた芋か何かを焼いてみんなで分け合って食べていると、道の向こうから幾つかの松明の明かりと馬の足音が近付いてくるのが分かった。
それを見て、男の人が青褪めた。
『やべ、野盗だ。見つかったら殺されちまう』
え、こわい。
どうするんだろう。
『わたし、囮になります。あなたはこの子たちを連れて逃げて』
『お嬢ちゃん、なにを』
『早く!』
男の人は少し迷った後、荷車に子どもたちを乗せ、その場から逃げ出した。
焚き火の側に残った女の子が数人の野盗に囲まれたところで目が覚めた。
「また変な夢」
なのに何で涙が出るんだろう。
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