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消えたクラスメイト

第21話:螺圡我《ラドガ》

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 八十神やそがみくんちにおかずを届けて家に帰る途中、ある異変に気が付いた。

 日が暮れた時間帯。
 暗くなったらいつも七つの光があたしの周りを照らしてくれた。える人にしか見えない、あたしだけの光。
 それなのに、いま夜道を照らしているのは道路脇に立つ街灯の僅かな明かりだけ。

「ど、どこ行っちゃったの?」

 たった数十メートルの距離なのに、急に心細くなってきた。

 家に入ると、また二階からざわざわと気配を感じた。前にも同じようなことがあった。側から一度離れると、何故かあたしの部屋にみんながワープしてるんだよね。

 そして、その時には何故か必ずお兄ちゃんが体調を崩す。

 まずお兄ちゃんの部屋に立ち寄ると、今日は倒れてはいなかったけど、椅子に座ったまま机に突っ伏して胸を押さえていた。

「お兄ちゃん、苦しいの?」
「ゆ、夕月ゆうづき……」
「あたし、お母さん呼んでくる!」

 お母さんは今台所で夕食の支度をしている。呼べばすぐに来てくれる。

「呼ばなくていい、この程度なら慣れてる。……それに、あんまり母さんたちに心配かけたくないんだ」
「でも、」
「頼む」

 そう言って、お兄ちゃんは何度か大きく深呼吸する。その度に少しずつ顔色は良くなっていった。でも、すごく疲れてるみたい。

「それより、二階に行かなくていいのか?」
「……行かなきゃダメかな」
「うん。だって──」

 階下にいても伝わってくる、ものすごい怒りの気配。声まではハッキリ聞こえないけど、何か喚いてるのは間違いない。
 たぶん、七つの光のうちの一つの声が新たに聞こえるようになったんだろう。

「ちょっと怖くて」
「気持ちは分かる」

 お兄ちゃんは霊感があるのか何なのか分からないけど、御水振オミフリさんたちと話すことができる。だから、あたしと同じように二階からの気配も感じている。

「めちゃくちゃ怒ってるよ」
「ええ~~~……」

 そう言われると更に行きづらい。
 迷ってるうちに「朝陽あさひ、夕月、ごはんよー!」と台所にいるお母さんから声が掛かった。

 お腹すいたし、晩ごはん食べてからでいいよね。




 夕食後、お風呂も済ませてから二階の自分の部屋に向かう。階段を一段一段上がる度に怒りの気配が濃くなっていく。結局怖くて後回しにしちゃった。

 ドアノブに手をかけ、そーっと押し開くと、そこには七つの光が浮かんでいた。

 そして──



『お  そ  い  ッ !!!』



「ひゃっ!!」

 野太い男の人の声でいきなり怒鳴られた!
 初めて聞く声だ。

 恐る恐る目を開けると、あたしの目の前に藍色の光が陣取っていた。間違いない、この光の声だ。

『俺様を放ったらかしにして飯と風呂だァ? 随分とナメた真似してくれたなオイ?』
「うえええっ!?」
『ようやく話が出来るようになったんだ。おまえにゃ言いたいことが山ほどあるんだ。覚悟しろよ!』
「ひえ……」

 鼻先がくっつくくらいまで近寄る藍色の光。
 後ずさりし続けたら背中が壁に当たってしまった。もう逃げ場はない。

『そこまでにしておけ、螺圡我ラドガ
『五月蝿え、黙れ御水振』
『怯えさせてどうする。見ろ、今にも泣きそうになっているではないか』
『……チッ』

 螺圡我と呼ばれた藍色の光は、御水振さんの言葉を受けて大人しく引き下がった。
 この人(人?)、確か縁結びの祠で地面を割ってたような。口調は荒いけど、あたしを守るために頑張ってくれた。

「あの、ラドガさん。ごめんなさい。あと、ありがとうございました」

 とりあえず謝罪とお礼を伝えると、藍色の光はさっきまでの勢いをなくして大人しくなった。

『わ、分かればいい』

 あれ、あんまり怖くないかも?










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