22 / 98
消えたクラスメイト
第21話:螺圡我《ラドガ》
しおりを挟む八十神くんちにおかずを届けて家に帰る途中、ある異変に気が付いた。
日が暮れた時間帯。
暗くなったらいつも七つの光があたしの周りを照らしてくれた。視える人にしか見えない、あたしだけの光。
それなのに、いま夜道を照らしているのは道路脇に立つ街灯の僅かな明かりだけ。
「ど、どこ行っちゃったの?」
たった数十メートルの距離なのに、急に心細くなってきた。
家に入ると、また二階からざわざわと気配を感じた。前にも同じようなことがあった。側から一度離れると、何故かあたしの部屋にみんながワープしてるんだよね。
そして、その時には何故か必ずお兄ちゃんが体調を崩す。
まずお兄ちゃんの部屋に立ち寄ると、今日は倒れてはいなかったけど、椅子に座ったまま机に突っ伏して胸を押さえていた。
「お兄ちゃん、苦しいの?」
「ゆ、夕月……」
「あたし、お母さん呼んでくる!」
お母さんは今台所で夕食の支度をしている。呼べばすぐに来てくれる。
「呼ばなくていい、この程度なら慣れてる。……それに、あんまり母さんたちに心配かけたくないんだ」
「でも、」
「頼む」
そう言って、お兄ちゃんは何度か大きく深呼吸する。その度に少しずつ顔色は良くなっていった。でも、すごく疲れてるみたい。
「それより、二階に行かなくていいのか?」
「……行かなきゃダメかな」
「うん。だって──」
階下にいても伝わってくる、ものすごい怒りの気配。声まではハッキリ聞こえないけど、何か喚いてるのは間違いない。
たぶん、七つの光のうちの一つの声が新たに聞こえるようになったんだろう。
「ちょっと怖くて」
「気持ちは分かる」
お兄ちゃんは霊感があるのか何なのか分からないけど、御水振さんたちと話すことができる。だから、あたしと同じように二階からの気配も感じている。
「めちゃくちゃ怒ってるよ」
「ええ~~~……」
そう言われると更に行きづらい。
迷ってるうちに「朝陽、夕月、ごはんよー!」と台所にいるお母さんから声が掛かった。
お腹すいたし、晩ごはん食べてからでいいよね。
夕食後、お風呂も済ませてから二階の自分の部屋に向かう。階段を一段一段上がる度に怒りの気配が濃くなっていく。結局怖くて後回しにしちゃった。
ドアノブに手をかけ、そーっと押し開くと、そこには七つの光が浮かんでいた。
そして──
『お そ い ッ !!!』
「ひゃっ!!」
野太い男の人の声でいきなり怒鳴られた!
初めて聞く声だ。
恐る恐る目を開けると、あたしの目の前に藍色の光が陣取っていた。間違いない、この光の声だ。
『俺様を放ったらかしにして飯と風呂だァ? 随分とナメた真似してくれたなオイ?』
「うえええっ!?」
『ようやく話が出来るようになったんだ。おまえにゃ言いたいことが山ほどあるんだ。覚悟しろよ!』
「ひえ……」
鼻先がくっつくくらいまで近寄る藍色の光。
後ずさりし続けたら背中が壁に当たってしまった。もう逃げ場はない。
『そこまでにしておけ、螺圡我』
『五月蝿え、黙れ御水振』
『怯えさせてどうする。見ろ、今にも泣きそうになっているではないか』
『……チッ』
螺圡我と呼ばれた藍色の光は、御水振さんの言葉を受けて大人しく引き下がった。
この人(人?)、確か縁結びの祠で地面を割ってたような。口調は荒いけど、あたしを守るために頑張ってくれた。
「あの、ラドガさん。ごめんなさい。あと、ありがとうございました」
とりあえず謝罪とお礼を伝えると、藍色の光はさっきまでの勢いをなくして大人しくなった。
『わ、分かればいい』
あれ、あんまり怖くないかも?
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~
白乃いちじく
恋愛
愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。
その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。
必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?
聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。
***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語
ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ……
リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。
⭐︎2023.4.24完結⭐︎
※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。
→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる