上 下
2 / 98
すべての始まり

第1話:いつもの日常

しおりを挟む


 あたしが住んでるのは、最寄りの駅まで車で一時間以上走らないと辿り着かないような地方の小さな町。
 お店は小さな商店とホームセンターしかない。オシャレな洋服屋さんもカフェもないし、遊ぶところなんてもっと無い。
 でも、自然がいっぱいで空気がきれいだから特に不満はない。

 クラスメイトの大半は高校を卒業したら都会に出ることばっか考えてる。まあ、そもそも近くに大学ないし、働く場所も無いからね。通ってる中学校は近いけど、高校は隣の市に行かなきゃないし、大学なんてもっと遠いもん。

 今まさに受験生なんだけど、地元の高校はよっぽど悪い点取らない限りは受かるらしいから危機感はない。学年で一、二を争うくらい頭の良い子以外は一番近い高校に行くって決まってる。あたしは勉強得意じゃないし、友達と同じ高校に行ければそれでいい。

 ていうか、『高校に通ってる自分』が思い浮かばない。中学を卒業することすら全然イメージ出来ない。

 おばあちゃんになりたいって夢はあるのにね、変なの。


夕月ゆうづきちゃん、帰らないの~?」

 放課後の教室で、大きなゴミ箱を抱えている時に声を掛けられた。夢路ちゃんは長くてキレイな黒髪を揺らし、あたしの顔を笑顔で覗き込む。家が近所で小さい頃から仲良しで、毎日一緒に登下校してるんだ。

「あ、ごめん夢路ゆめじちゃん。教室のゴミ捨てしてくる。先に帰ってていいよ」

 校舎裏のゴミ捨て場まで行って戻ってくるだけで十五分は掛かる。田舎の学校だから、やたらと敷地が広いんだよね。

「はあ? アンタ今日ゴミ捨て当番じゃないじゃん! また・・押し付けられたわけ?」

 夢路ちゃんの後ろから顔を出したのは千景ちかげちゃん。ムスッとした表情を隠しもせず、ゴミ箱を抱えたままのあたしを指差して眉を吊り上げている。
 やばい、怒ってるよ!

「よっ用事があるって言ってたから、あたしから代わるって申し出たんだよ」
「どーせ大した用なんかないのに、夕月はお人好し過ぎるよ」
「ご、ごめん千景ちゃん」

 千景ちゃんの言う通り、あたしはお人好しなのかもしれない。でも、目の前で困ってる人がいたらつい声を掛けちゃうんだもん。これは癖みたいなもので、完全に無意識にやっちゃうの。

 学校終わっても別に用事もないし、急いでる子がいるなら代わってもいいかなって思っちゃったんだ。

「夕月は周りを甘やかし過ぎだよ。やり過ぎると逆に人のためにならないからね!」
「千景ったら、そんなに言わなくても」
「夢路は夕月に甘過ぎる!」

 あたしのお節介が原因で二人が言い争いを始めちゃった!

「ごめんね、怒らないで」
「怒ってない、あきれてるだけ!」

 そう言いながら、千景ちゃんはあたしの腕の中のゴミ箱を掴んだ。

「ほら、一緒に持つよ。あんた一人じゃ時間掛かっちゃうし」
「千景ちゃん……!」
「私は応援してるね~」
「夢路も手伝えよ!」

 大きくて重いゴミ箱は、三人で運んだらすっごく軽かった。
しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

元妻は最強聖女 ~愛する夫に会いたい一心で生まれ変わったら、まさかの塩対応でした~

白乃いちじく
恋愛
 愛する夫との間に子供が出来た! そんな幸せの絶頂期に私は死んだ。あっけなく。 その私を哀れんで……いや、違う、よくも一人勝手に死にやがったなと、恨み骨髄の戦女神様の助けを借り、死ぬ思いで(死んでたけど)生まれ変わったのに、最愛の夫から、もう愛してないって言われてしまった。  必死こいて生まれ変わった私、馬鹿?  聖女候補なんかに選ばれて、いそいそと元夫がいる場所まで来たけれど、もういいや……。そう思ったけど、ここにいると、お腹いっぱいご飯が食べられるから、できるだけ長居しよう。そう思って居座っていたら、今度は救世主様に祭り上げられました。知らないよ、もう。 ***第14回恋愛小説大賞にエントリーしております。応援していただけると嬉しいです***

京都式神様のおでん屋さん

西門 檀
キャラ文芸
旧題:京都式神様のおでん屋さん ~巡るご縁の物語~ ここは京都—— 空が留紺色に染まりきった頃、路地奥の店に暖簾がかけられて、ポッと提灯が灯る。 『おでん料理 結(むすび)』 イケメン2体(?)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※2022年12月24日より連載スタート 毎日仕事と両立しながら更新中!

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...