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第26話 大人気ない嫉妬心 1

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 キャリーがリアンに告白する場面に居合わせたサイラスは、自身の胸に湧き上がるモヤモヤとした感情をうまく制御できずにいた。

 大事な友人であるリアンが急に横から掻っ攫われたようで気分が悪くなったが、まさか年下の令嬢相手にケンカを吹っ掛けるわけにはいかない。相手はか弱い女性であり、自分は国民を守るために剣を捧げた騎士なのだと言い聞かせ、可能な限り穏やかに声を掛ける。

「済まないが、いま彼に大事な仕事の話をしている真っ最中だ。また日を改めて来てくれるか。……例えば、とか」

 穏やかを心掛けたはずが、普段より低い声が出てしまう。

 しかも、遠征の出立予定は明後日。午後にはもう目的地に向かって王都をっている。その上、正確な帰還予定日は未定。この発言を聞いたラドガンとヴェントは(大人気おとなげないな……)とサイラスの心の狭さを情けなく思うなどした。

「お仕事の邪魔をしてしまってごめんなさい」

 慌てたキャリーはサイラスだけでなくラドガンたちにも頭を下げた。やや暴走しがちなところはあるが素直な令嬢である。そして、決して愚かではない。

「皆さまは騎士団の方ですよね」
「よく分かったな」
「この地図に騎士団の紋章が入ってましたので」

 言いながら、キャリーはテーブルに広げられた地図を指差した。

「それと、わたしの友人がレイディエーレ隊の熱烈な支持者ファンで、お茶会でもよく話題に上がるんです。皆さまの鮮やかな髪色はとても目立ちますから」

 サイラスは赤髪、ラドガンは長い銀髪、ヴェントは亜麻色の髪。街道での巡回任務や王都の本部へ出入りする際に若い女性たちから声援をもらうことも珍しくない。なるほど消去法で当てたのか、と彼女が四人の中から自分を言い当てた理由に合点がいった。

「レイディエーレ隊の方々は遠征に行くんですよね。東のエクソンはわたしの実家が治めている街なんですよ!」
「それは……すごい偶然だ」

 エクソンの領主であるヴァーテイル男爵家と近隣の貴族が連名で広域魔獣討伐依頼を騎士団に提出しており、娘のキャリーも当然知っている。極秘任務でもなんでもない、毎年魔獣の繁殖期に行われている恒例任務だ。

 先ほど自分がキャリーをリアンから遠避けるような発言をしたことを思い出す。サイラスはバツが悪そうに頭を掻き、彼女が意図に気付かないよう神に祈った。

「では、まさかリアン様も遠征に?」
「え、あ、まあ、はい」
「レイディエーレ隊と一緒に? すごいですね!」
「いや、僕はついていくだけなので……」
「レイディエーレ隊の御三方おさんかたがわざわざ話をしに来てるってこと自体すごいんですよ!」

 勢いに負け、リアンはもう相槌しか返せていない。見兼ねたドロテアがお茶と菓子を出して落ち着かせるまで彼女のお喋りは止まらなかった。

「ゲラート様との婚約も解消しちゃったし、貴族学院も卒業したし、リアン様がエクソンに行くのならわたしも実家に帰ろうかな」

 キャリーの言葉に、再びサイラスが反応する。今度はカップを落とさなかったが、代わりに握力を込めすぎて持ち手からミシミシと音が鳴っている。すかさずラドガンがカップを救出し、代わりに焼き菓子を手に持たせた。

「エクソンに立ち寄る際はぜひわたしの家にお越しください! いつでも歓迎いたしますので!」

 言いたいことを全て言い終えたキャリーは「お邪魔しましたー!」と元気に帰っていった。物怖ものおじしない性格と行動力に気圧けおされてしまったが、可愛らしくて憎めない令嬢である。

「リアンさん、モテますねぇ」
「いえ。キャリー様の気の迷いかと」

 ヴェントにからかわれ、リアンはすぐさま否定する。その隣では、ドロテアが恋文の件をラドガンに教えていた。

 ウラガヌス伯爵家嫡男ゲラートの元婚約者だったが、手紙の代筆を行っていたリアンの人柄に惹かれて恋に落ちたという。ゲラートとの婚約を破棄した時機もアルカンシェル公爵家とレイディエーレ侯爵家を怒らせた件を知る前だと聞き、ラドガンはキャリーに対して好印象を持った。

「これは油断なりませんね? サイラス隊長」
「……」

 全てお見通しと言わんばかりのラドガンの言葉に、サイラスは眉間にしわを寄せて唸った。

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