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第62話 真っ直ぐな好意
しおりを挟む翌日の放課後、一緒に帰りながら昨夜のことをぽつぽつと話す。僕の話を黙って聞いている間、土佐辺くんはずっと落ち着かない様子だった。
気持ちの整理をつけるために迅堂くんを驚かせることになってしまい、そこだけは反省している。でも、告白したことは後悔していない。
この話題になってから土佐辺くんは一度も笑顔を見せていない。まあ、僕が迅堂くんに告白したっていう話だから、彼からしたら面白くはないだろう。
「安麻田、すっきりした顔してるな。泣くかと思ってた」
「振られることは確定してたし、迅堂くんから嫌われずに済んだから、むしろ嬉しかった」
長年思い悩んでいたけれど、いざ打ち明けてみれば案外平気でびっくりしている。
「土佐辺くんが居なかったら一生言えなかったよ。ありがとう」
晴れやかに笑う僕とは逆に、土佐辺くんは複雑な表情を浮かべている。僕が無理やり明るく振る舞っていると思っているのだろうか。
「どうやって慰めようか色々考えてたんだけど、もしかして必要ない?」
元気がない理由はそれか。
そもそも僕が頼んでいたんだもんね。
「もっと落ち込むかと思ってたけど、意外と平気だった。だから大丈夫」
「そうか」
予想に反し、僕があまりにも平然としているからガッカリしているらしい。泣いたり弱音を吐いたり、彼には情けないところばかり見られている。今回も泣くほど落ち込むと思われても当たり前か。
「慰めてくれなくてもいいけど、気分転換はしたいかな」
「じゃあ、今日俺んち来る?」
「迷惑じゃなければ行きたい」
土佐辺くんが小さくガッツポーズした。言動の端々から好意が伝わってくる。八年モノの恋が破れたのに落ち込まずに済んでいるのは、きっと彼がそばに居てくれるからだ。
「この前貸した本は読めた?」
「実は借りた翌日に全巻読破してる」
「そうだったの?」
「安麻田の好きなものを早く知りたくて。あと、すぐに返したら行き来する理由がなくなる気がして先延ばしにしてた。悪い」
告白以来、土佐辺くんは気持ちを隠さない。言葉と態度で分かりやすく示してくれる。どうしてここまで好かれているのか不思議に思うくらい。
玄関前で尻尾を振るリーを撫でてから土佐辺くんの家へと入る。先に靴を脱いだ彼がこちらの様子を窺うように振り返った。
「オレの部屋でもいい?」
「土佐辺くんがいいなら」
「密室で二人きりになるんだけど」
密室て言うな。そんな風に宣言されたら逆に意識してしまう。でも、事前に断りを入れてくれるのは彼が誠実だからだ。
「君は僕が嫌がるような真似はしないって知ってる。だから密室だろうが二人きりだろうが平気だよ」
「うっ……」
信頼していると伝えれば、土佐辺くんは頭を抱えて座り込んでしまった。どうしよう。面白い。
「ごめん、めっちゃ下心ありました。理性が保たないかもしんないからリビングでいい?」
「あはは、なにそれ」
「安麻田に嫌われたくないんだよ」
恥ずかしそうに頭を掻く彼を見て、胸の辺りが温かくなる。真っ直ぐな好意を嬉しく感じるのは、僕も彼を憎からず思っているからだ。
「単純だって笑ってくれていいんだけど、僕ね、土佐辺くんのこと結構好きみたい」
何度も何度も助けられた。
つらい時に寄り添ってくれた。
僕が好きになるには十分な理由だ。
気持ちを本人に伝えられるのは幸せなことだ。よほど信頼している相手でなければなにも言えない。そう考えると、僕はかなり土佐辺くんに気を許しているみたい。
僕の言葉に、土佐辺くんはリビングのど真ん中でフリーズしてしまった。
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